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④愛玩の舞姫  作者: 邑 紫貴
舞姫

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復讐

運命に導かれたのかのように、予言の言葉を成す小さき者。

運命に舞う、小さき者の心を射止めた女性。

揺らぐ世界情勢。

それでも人が望んだのは、ほんの小さな願い。誰しもが願う、愛しき者の命の灯。共に過ごす短い時間の限り、少しの幸せを願ったのだと……知って欲しい…………


復讐



ロストはタイドフを目指し、徒歩で道程を進む。

戦乱の後だからか、小さな者を追いかける気配は微塵も感じない。それでも、クラインの復讐に満ちた表情から、何らかの接触を覚悟していた。

しかし、平穏がロストを包む。小さな村・町・草原地帯・砂漠のような場所……何事もなく、小さな者を留めるものがない。

ルシャンで準備された食物を背に担ぎ、道程で水分を、知識で手に入れる。タイドフまで、ロスト自身を十分に満たすことができる環境。


ブレシニーがいるのは『一番安全』な処。

大国の余裕なのか?小さな存在が一時的にもたらした屈辱に、復讐のためだろうか。人質として一時的な身の安全……その後は?

ロストの歩みを進める足が、景色を変えるのと同じく、思考は次から次へと可能性で変化していく。

答えの出ないまま、タイドフに辿り着くまで。刻一刻と迫る運命。


目前に近づいたロストは、無意識の涙に呆然とする。

知識にも掛からない奥深くの感情。過去に抱いた憎しみを覆い尽くすような……哀しみ……


流れる涙を拭い、止めようとするが、ロストの意志と反して止めどなく零れ落ちていく。

地面は、その水分を呑み込んで、自然と同化する。

ロストの前方から、数人の気配が近づいた。

泣いている小さな青年に、歩くように促す兵士たち。ロストの歩みに合わせ、まるで捕縛ではなく……護衛のように。

町は、静かにロストを見ていた。

大勢の視線……小さな国相手に、戦で死んだ大勢の者たち。家族を殺された者たちの視線が、家族を殺した小さな一人に注がれる。

ロストの感情は、乱れたままだった。だから、その視線の意味するものを感じることは出来なかった。

それが憎しみ以外の何かなどと、誰が思うだろう。

城下町は、静かにロストの歩みを見守る。

城門は大きく開き、ロストを呑み込むように通す。まるで、それが当然のように。とても自然だった。


ロストは、自分の心情さえ理解できず城の中を歩く。

城にいた大勢の視線……それもまた、不可解な沈黙と共に注がれる。静かな、音のない時間。


王のいる接見の間。

大きな扉が開いて、小さな者を導き入れる。あらゆる役職の、大国を支える者たちが見守る中、ロストは王の目の前まで歩みを進めて止まる。

王の姿を見ることなく、屈んだロストは豪華な絨毯を見つめた。

「顔を上げよ。」

静かな低い声が響いたと同時。


ソレは発動した。


『小さき者よ。

すべてを、お前に託そう。

未来は無限。切り開くのは小さき少年。

心許すな。自分を守るため、愛するものを護るために。

もし、護るなら……選べ、自らの死を……』



燃え上がる憎しみ。

顔を上げ、懐にあった短刀を素早く構えた。それを止める者はいない。

鋭い刃が、大国タイドフの王に突き刺さる。叫び声もなく……ただ、静かに時が流れる。

力を込めたロストの両手が、王の血で染まっていく。ジワジワと包む熱い液体に、ロストの憎しみは共鳴しているようだった。


ポタッ

……刺さった場所とは違う場所から。上から、同じように熱い液体がロストに落ちた。

それは、目頭から頬に流れて顎で止まる。

時が止まったような感覚から、周りの音が耳に入る。大勢のすすり泣く声。

ロストは思考が止まり、体が震えを起こす。

自分が何をしたのか……


蒼白になった顔を上げ、瞬きもせずに王の顔を見つめるロスト。

王は、優しい視線をロストに向ける。そっとロストに落ちた自分の涙を指で拭い、頬を撫でるように触れた。視線が物語る。愛しき者への愛情……

咳き込んで、口元を流れる赤い血。ゆっくり王の口が動いて、真実を告げる。


「自責の念は要らない。命の灯の尽きる前に、取り戻せた……私の息子よ。」


…………


ロストは思い出す。自分が理解していなかった、すべての言葉を。

ブラウンドの言葉を……

『誓ってくれロスト、憎んでもいい。ただ、ブレシニーだけは……護って欲しい。』

カイディールの言葉も……

『君の舞姫は、一番……安全な所にいるよ。君は行くべきだ。』

クラインの言葉が……

『ミャーダの生き残りとして今、ここで消えるが良い。貴様は知らずに、俺を覆してきた、その知識の欠如ゆえに滅ぶがいい。』


……すべて、突き刺さる。


彼は預言者ではない。すべてを知っているわけでもなかった。

隠された知識ゆえの……結末…………




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