荒廃
プロローグ:荒廃
その荒廃が始まりなのか、終わりだったのか、ワタシには分からない。
ただ、彼は……預言者ではない。すべてを初めから……始めから……知っているわけではない。
ただ、その知識と識別力。今も、彼が正しかったのか、それさえ分からない……
その荒廃の日。誰かが言った。
「雨が降る。」
それに、周りの者がうなずく。
「あぁ、この湿った空気……匂い……災いが来る。」
その町には、覚悟があったのかもしれない。このトキが、来ることを知って……
「……小さき者よ……すべてを、お前に託そう。未来は無限……切り開くのは、小さき少年。心許すな、自分を守るため、愛するものを護るために。もし護るのなら……選べ。自らの死を……」
夕暮れの、食事の時間。町は静まり返り、明かりもつけずに。
そして、その静けさを切り裂く戦の鬨の声。
町は赤一色で染まる……夕焼けが霞む景色……そんな光景に、平然と生きられる人などいないだろう。
小さき者の奥深く、遺伝子に刻まれた知識と同じ位置に、憎しみが宿らなかっただろうか?
分からない……ワタシが巻き込まれた?
それとも、その憎しみが運命の歯車だったのか……
ただ、小さき者……たった一人。独りのために……この世界は揺れる。
誰かの預言のように、その地域では珍しい雨。
血を拭い……いや、染み込む大地の叫びなのか、疫病の蔓延。
呪われた地。呪った結果なのか、すべてを闇が呑み込んでいった。
ただ、一人を除いて。選ばれた一人……
最後の者……ロスト……
ワタシの愛する人。
ワタシは舞う。あなたの預言が成就するように、信じて。知識ではなく、あなたの心を……。
雨を願い、勝利を望み……ただ、少数の幸せを得ることが出来ますように。
それまで、愛玩……舞う玩具。命の限り舞う。
それが『愛玩の舞姫』……