消える国
消える国
近づく小さな国……黒煙の上る場所。
消えない事を願った命の灯は、無事だろうか。町の現状を空から見おろしたロストは胸を痛めた。
小さな存在。小さな力と知識……自分の予測した未来は、変わることなく……。
自分の身が城に近づく。
戴冠式のあった場所に、火竜は彼を、そっと下ろした。
『主よ、ここでお別れです。』
ロストの意思も背に、火竜は深い傷に灯を燃やす。尽きるまで。
この消える町の屈辱を残すことなく、黒煙を覆すような炎。赤く染まる国……敵も味方もなく、跡形も残すことなく……消える。
ロストは、その色に何を思ったのか……ワタシは、知らない。
ただ……“彼”の最期に、心を痛めたのを知っている。
ロストは、王の間に入る。
そこに見たのは……
「カイディール!」
“彼”と敵国の戦士クラインが、剣を交わしているところだった。
深い傷を負ったカイディールが、ロストを見て微笑んだ。
「クライン……彼が、君を滅ぼすだろう。直接、手を下すこともなく。」
呟くカイディールの声は、ロストに届かない。
視線を逸らしたまま、戦闘態勢を解除したカイディールに、クラインは剣を下ろす。
「お前たちの最期だ。せいぜい、友情の時間を過ごせばいい。ここも時期に……」
余裕のクライン。
ロストは、その近くに駆けよる。カイディールの身体を支えながら、ロストはクラインを睨んだ。
「……お前は……」
ロストの視線に、余裕だったクラインの表情が一変した。闘志を露わに、下ろされた剣を構える。
その瞬間と同時だった。城がありえないほどの揺れ。壁と床が柔らかく曲がるような光景。
立っていられない3人が床に崩れる。
「クライン様!化け物が……このままでは、この国と共に滅びてしまいます!早く避難を……」
兵士数人に、急かされながら……闘志をそのままに、何度か攻撃をしようと繰り返す。
激しい振動と、炎の熱さ。
クラインは言い放つ。
「ロスト!お前を殺すのは、俺だ!」
天井が崩れ、クラインとロストの視界を遮った。
ロストには理解できなかった。クラインの殺意の理由。ここで尽きることも、いとわないのに。
「ロスト。君の舞姫は、一番……安全な所にいるよ。君は行くべきだ。」
深い傷から、流れる大量の血。
その色に、ロストの眼は、復讐を見ていた。そんな視線に、カイディールは苦笑する。
「許して欲しいとは思わない。謝りもしないぞ……俺は、お前が憎いんだ。それでも願いがある……―――舞姫を……護ってくれ。」
ロストは、自分の手の中で消えた灯に涙を零す。
何を思ったのか……ワタシは知らない。
ロストは、不思議だったでしょうね……一番安全な所にいる舞姫、行くべきだと言われた。
そして……舞姫を護るように…………そうね、きっと理解できないわ。カイディールの想いなんか……
あなたを支えるのは…………
「ロスト!こっちだ、来い!」
涙で視界が霞み、悲しみと何かで思考は混ざるロスト。手を引く存在は、逃げることを願ったセイラッド。
それを叶えるように、逃げてくれた?どうして、ここに?
疑問の中、熱も振動も感じることなく。走るのは、城の隠し通路。
セイラッドの存在の意味を、ロストは知識で探す。
階段を下り、肌寒いような長い通路は、上から水が滴る。地下を通っているのだと理解した。
疲れも息苦しさも、曖昧になるほど。生きることに必死ではないのに。
求めるのは、知識なのか……奥深くに根ざした復讐なのか。
灯は輝きを保ったまま、ロストを導く。舞姫の元へ……それは、ロストの願わなかったものも伴う。
セイラッドは、行き止まりに設置されたハシゴを上る。
天井は出入口。開けると、光が注ぐ。
地上に出ると、そこは朝日を覆すような炎の海。国……ミャーダが消えた。
ロストは呟く。
「ブレシニーは、安全な所にいる。」
生存が分からないブラウンドの願い。『ただ、ブレシニーだけは護って欲しい』ロストの心は複雑だった。
「行くぞ!」
セイラッドは、炎の海を見つめるロストを促す。
「……セイラッド、君は何?」
視線は、消えゆく国を見つめたまま。
「俺も知らない。俺には、どうでもいい。俺にとって、望むものは一つ。ただ、それしか見ていない。お前は、その一つを手に入れる手段だ。」
セイラッドは答ながら、ロストの手を引いた。
鋭い視線を受け、ロストは一度目を閉じた。息を吐いて、目を開ける。
「セイラッド、行こう。中立国ルシャンへ!」
ロストの決意を示す行先に、セイラッドは探るような視線を向ける。
「そこに、舞姫がいるのか?」
ロストはセイラッドを静観するように答える。
「……あぁ、いるよ。愛玩の舞姫……行くべき道の…………」




