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④愛玩の舞姫  作者: 邑 紫貴
戦禍

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消える灯

消える灯



ロストは目覚め、安堵して眠る二十人も満たない彼らを見つめる。

命の灯の尽きようとしている者達。少しだけ延びたモノ。死をもたらすのは、大きな怒りと大いなる力。

「ロスト、目覚めたのか?俺達は、いつまでここにいる?」

セイラッドの声に、ロストは視線を天井に向けた。

「セイラッド……約束を覚えているか?」

天井に視線を向けたままのロストに、セイラッドは不思議そうに尋ねた。

「約束?」

ロストは、セイラッドに背を向ける。

「セイラッド、この袋は何だと思う?」

手には小さな皮袋。

「何が入っているんだ?……毒、なのか?」

二十人を満たない彼らの未来を、セイラッドも見ていた。

「……いや、命を救う薬だよ。」


「……俺は、この町の記憶もない。あるのは、これから見る光景と同じもの。宿ったのは憎しみ……ただ、それだけ。俺の復讐心……小さき者に、何が出来るだろうか。セイラッド、俺を置いて逃げてくれ。誓って欲しい!」

「前にも言ったよな?嫌だ。」

ロストは振り返り、涙を零す。

「未来は変わらない!」

ロストは薬を、ここで見つけた。

見つけた彼に衝撃が走る。そして、疑問も生じた。皮袋に入った薬は、病蔓延の耐性を含んでいる。

最後の一人になったのはロスト。町は、共に滅びることを願ったのに。

残された彼は知る、何故なのか。それは、すべてが終わった後。


町の人々の“復讐”……遂げられる未来への預言。


二十人を満たない者は目覚め、空腹に食物を分けあう。

食事を済ませた者に、ロストは薬を与えた。

すべての身支度を終え、ロストを先頭に螺旋階段を上る。

まぶしい光に、気づいたのは異臭。吐き気を覚えるような臭いに、セイラッドが走る。

そこに見たものは、窪地に積み上げられた……大量の死体……

茫然と、眺める二十人を満たない者たち。


何を思ったのか、ワタシは知らない。

多分……きっと、自分たちの命の灯の消えるのを感じたはず。その死体が、自分たちを追いかけてきた敵国の兵士たちだったから。

これは、勝利じゃない。火竜と同じ……何らかの感情と共に、ただ……ロストの進む方へと付いていく。


進む道は、新な道ではなく、自分たちが歩いてきた道。

戻る……戦禍……自分たちの最期、最後の戦。

沈黙の歩み。誰も、口を開く者は無かった。歩みは重く、中間地点での停泊で食事と休息を取る。

「セイラッド、相手を頼む。」

ゾグタは、剣を片手に苦笑いだった。

「あぁ。気分転換に、来いよ……」

剣の交わる音が、静かな夜に響く。


ロストは彼らから離れ、火竜を呼んだ。巨体の影に身を寄せ、語りかける。

「……覚えているか?俺との出逢い……後悔していないか?知らずとはいえ、契約を交わした。お前の命の灯も、この手中にある。もうすぐ戦禍……お前を呼ばない。また孤独な自由を過ごして欲しい。」

『主よ、命約を果たすのが我が務め。主、ロストが望んだものと望まなかったもの。我が悔いとなるだろう。……覚えているとも。あの夜、喰ってやろうと思った矢先に、叶わぬと思っていた願いが現れたのだ。滅びた我が言葉を共有する者。心を痛める必要などない。もう、尽きようとしていた我が灯……』


間近に迫る戦の匂い。

二十人を満たない者達を囲むのは、兵士の数が減ったとは言え大軍。勝ち目など無い。


『主の願った一つの灯……その為に動く。許しも請わない。その時は迷わず……』

火竜の目には、何が映っていたのだろう?

ワタシは知らない……きっと、ロストの心は複雑だったでしょうね。



夜は明け、日が昇り……朝焼けの水場に彼がいた。

近づいたのはロスト。

「……君は、何を望む?」

後ろ向きの彼に問う。

「俺の目的は変わらなかった。君と同じものだよ。」

振り返る彼の目には、涙。

「君の行動が、一人の灯を消すだろう。望みは叶い、後悔を生む。」

ロストの言葉に、泣き崩れた彼の未来も変わらない。



雨雲が広がり、通り雨。

居住区に身を潜め、雨音に何を思うのか。雨は上がり、空には虹がかかる。


そして、遥か遠くに見える黒煙。自分たちの故郷の方角。

言葉を失った彼らが見たのは、大軍の敵。


戦の始まりなんて、区別もつかない。

攻めてくる敵に、身を守るように剣を振るう。 二十も満たない彼らに、何かを考える余裕なんてなかった。

ただ、血の匂いと痛みを感じなくなるような傷の多さ。体力の限界と、命の灯を意識する。

敵国は余裕なのか、大半の者が見物をしているようだった。

どんどん消える灯。


「うあぁ~~~」

アクルの声に、セイラッドは振り返る。

パン屋のアクル……

剣がアクルを貫いていた。それでも彼の目は、輝きを保ちながら、敵に切りかかる。

倒した敵の前に膝をつき、剣を身体の支えにし、血が滴る。

「アクル、もう……」

「セイラッド……ありがとう。剣を触ったことのない俺に、教えてくれて……」

アクルの身を支えようと腕を伸ばしたセイラッドに、敵が突進した。

剣を交わし、転がるように丘を下る。体勢を整え、敵を倒したセイラッドは目を疑った。


剣も構えず、ただ立ち尽くすクルヒ。楽士のクルヒが、涙を零しながら笑みを浮かべていたからだ。

「セイラッド、ごめん……俺が裏切ったんだ。俺の望みの為に……」

小さな声が、セイラッドに聞こえ、近づこうとしていた足が止まる。

敵がクルヒを狙っているのに……

「クルヒ、危ない!」

敵の射る矢から、クルヒの身を護り、ゾグタは的になる。

季節労働のゾグタ……

「クルヒ、生きろ。俺の願いは、誰かの為に死ぬこと……だった……」

ゾグタと共に、地面に崩れたクルヒ。丘の上から、ロストが滑り下りたのを見て叫んだ。

「ロスト、君には分かっていたはずだ!君は言った……『君の行動が、一人の灯を消す』と。違うだろ?俺の願いは、死。それは今も変わらない!自分の目的の為に、全員の灯を消したんだ。一人じゃない……」

ロストは苦笑する。

「君が奪った命の灯は、ゾグタだけでいい。彼の願いを叶え、自分の願いが叶った今……」


黒煙の意味することを、ロストは悟っていた。

「セイラッド、逃げてくれ。今なら……君なら、可能だろう?」

ロストの目は、丘の上を見つめる。

大きな矢の積まれた荷車。その矢先は、自分たちに向けられていた。小さな矢が膨大な数で、降り注ぐ。

ロストも願ったもの。


目を閉じたロストの身を、何かが掴む。

身が浮くのを感じたロストは、目を上げる。呼ばないと誓った火竜だった。

【ドスッ】ロストは音と共に振動を感じ、温い血吹雪を身に浴びた。

自分の身を掴んでいた火竜の足に、力が入る。

「放せ!どうして来た?命じてなどいない!」

『主の願いは、今……危険に瀕している。』

「灯を消すのは、いつも俺、なんだ……」


火竜は高く飛び上がり、飛行速度にロストは彼らの姿を見ることが出来なかった。消えた沢山の灯。


裏切りと、願い。叶った想いと……呆気なく消える灯。

いつかは消える灯を、最期まで見ることが出来なかった。


ロストの願いは、命を絶つこと。

しかし、それは……彼女の身の安全が保障された状態での事。



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