表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
④愛玩の舞姫  作者: 邑 紫貴
凱旋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/24

オアシス

オアシス



町の勝利の宴を後に、二十人を満たない戦士たちは旅に出る。

生きては帰れぬ故郷を後に……また、砂漠の地へと足を進めた。

理解できない魔物に、散らされた体勢を整え……意味もない勝利に浮かれる小さな民を大国は、どう見ただろうか?

次は無い……きっと、誰しもが思っただろう。


激動の戦い。

それが、ほんの一人の青年のもたらしたものだと知るのは、すべてが終わった後だった。

知っている者たちは、大国タイドフ。そして、ミャーダの王カイディール。

ロストは、すべてを知っているわけではない。

知って、気づくだろう……彼の隠した知識。『憎んでもいい……』その言葉を理解する。


砂漠に足を止め、以前と程近い位置に停泊する。

皆の心には、様々な考えが入り混じる。自分たちが慣れた場所でもあり、敵の把握した場所でもある。

そして、彼らを散らした火竜の現れた場所でもある。

偶然の勝利……もたらした火竜が、今度は自分たちを滅ぼすかもしれない。それでも……

ロストとセイラッドの落ち着いた様子に、信頼を寄せた。


「セイラッド、相手を願う。」

ゾクタは、剣を肩に乗せてセイラッドに近づいた。

「ん?あぁ、くくっ。行こうぜ!」

ロストとの話を中断し、立ち上がる。

「ゾグタ……その剣は、誰の為にある?」

後姿の二人に、ロストは話かけた。

「俺の剣は……---」

後ろ姿のまま、ゾグタが答えたのでロストには聞こえなかった。

ロスト自身が訊いたのに、答えを得ようとはしない。

セイラッドの耳にも聞こえなかった小さな願い。それが、ゾグタの命を奪う。それでも、彼に後悔はなかった。最期の彼は、笑顔だったから。


もうすぐ……もうすぐ、そこに来る戦い…………


移動の疲れだけではなく、初めての戦と凱旋。

緊張の続く非現実的な状況からの解放。そして、始まるであろう同じ状況までの狭間。

彼らには、この砂漠もオアシスだった。静かな夜。それぞれが、何を思うのか。


「ロスト、一つ……訊いても良いか?」

水場のそばに生える木に、もたれて座るロストは、見上げる。

「アクル……どうした?ここは……いや、いい。座って、話そう。」

アクルはロストの前に座り、視線を地面に落としたまま。

「俺達の未来は、変わらないのか?」

小さな国の大国への反逆行為。それが、何を意味するのか、分からない者はいない。

民が望んだのは、少しでも長く幸福を共にする時間だった。

「何故、こんな事になった?俺達が、小さな国……少ない民だから?生きている、変わらない……どうして。」

どうして、か。

ロストは、木々に遮られる空をみつめる。

「アクル……君の迷いが続くなら、他の者の命を奪うだろう。しかし君は、その未来を覆すことも出来ると、俺は信じている。」

預言のような言葉……

アクルは、ロストを見つめる。

「俺は、俺の目的……自分の決意が未来を左右する?ロスト、今のそれを知っても……君は、俺への態度が変わらないのか?未来が変わらなくても……」

「そうだね。もう、“俺達の”未来は変わらないから。」

その状況でなくても……この二十人も満たない者が、あの国より先に滅ぶだろう。

「……俺が、選んだ……火種」

人選は、間違いだっただろうか。ロストは、視線を落として立ち上がる。

アクルに手を差し伸べ、立ち上がったアクルの肩を軽く叩いた。

「ロスト……」

「戦禍に、逃げ場はない。このオアシスで心を癒せ。アクル……いや、俺は先に戻る。することが、あるだろう?」

水場にアクルを残し……


居住スペースから少し離れた場所では、ゾグタとセイラッドが剣を交わす。

日課のように繰り返す行為に、終止符を打つ……その日の為に。

ロストは、息を切らした汗だくの二人を見つめ呟く。

「……セイラッド、君だけは逃げて欲しい。何故、そう願うのか……俺は」

セイラッドは、離れた場所にいるロストに気づいた。

「ロスト、戻ろうぜ。お前も、付き合えよ!くくっ。酒には慣れただろ?」

手には、ブドウ酒の入った瓶を持ち。苦笑いのロストは、歩調を速めた。



星空の下、数人しか知らない水場。

そこに、あの女性がいた。このオアシスに、忍び寄る戦の影。

「情報は戴くわ。……あなたは後悔しないの?」

返事は無い…………



3人は、朝まで語り合う。

もちろん、戦禍を意識する3人が泥酔することはなかった。それでも、ロストの頭痛が生じる。

笑いながら、セイラッドはロストを抱える。不機嫌なロストは呟く。ゾグタに聞こえないように。

「お前は、俺とは違う最期を与えてやる……必ずだ。」

「……楽しみにしているよ。くくっ。望むのは……」


朝食の支度をしているクルヒが3人を見つけて、叫ぶ。

「アクルを見なかった?あいつのパンが無いと、朝食が始まらないんだけど。」

セイラッドは、ロストをイスに座らせ周りを見渡す。

「ゾグタ、探しに行こうぜ!」

「多分、水場だ。」

二人は、ロストの情報に顔を合わせ、それを合図のように走り出す。

「元気だね、二人。ロスト、水場って……」

クルヒの質問に、ロストは答えず。

「水をくれないか?薬を飲みたいから。」

視線を落としたロストに、クルヒは水を入れ、差し出した。

「クルヒ……君は、この戦禍に何を望む?」

ロストは水を受け取り、鋭い視線でクルヒを見つめる。

「……何も。ただ、死を望んだ。」

クルヒの答えに、ロストは視線を落とす。

手には水が揺れ、光を反射させる。キラキラ輝く水面。

「……あ、アクルを見つけたみたいだ。セイラッドが、手を振っているよ。俺は、料理を温めなきゃ。」

ロストは、視線を水に向けたまま。


「時は、来た……か。ブレシニー……君を護れない、約束も果たせない。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ