オアシス
オアシス
町の勝利の宴を後に、二十人を満たない戦士たちは旅に出る。
生きては帰れぬ故郷を後に……また、砂漠の地へと足を進めた。
理解できない魔物に、散らされた体勢を整え……意味もない勝利に浮かれる小さな民を大国は、どう見ただろうか?
次は無い……きっと、誰しもが思っただろう。
激動の戦い。
それが、ほんの一人の青年のもたらしたものだと知るのは、すべてが終わった後だった。
知っている者たちは、大国タイドフ。そして、ミャーダの王カイディール。
ロストは、すべてを知っているわけではない。
知って、気づくだろう……彼の隠した知識。『憎んでもいい……』その言葉を理解する。
砂漠に足を止め、以前と程近い位置に停泊する。
皆の心には、様々な考えが入り混じる。自分たちが慣れた場所でもあり、敵の把握した場所でもある。
そして、彼らを散らした火竜の現れた場所でもある。
偶然の勝利……もたらした火竜が、今度は自分たちを滅ぼすかもしれない。それでも……
ロストとセイラッドの落ち着いた様子に、信頼を寄せた。
「セイラッド、相手を願う。」
ゾクタは、剣を肩に乗せてセイラッドに近づいた。
「ん?あぁ、くくっ。行こうぜ!」
ロストとの話を中断し、立ち上がる。
「ゾグタ……その剣は、誰の為にある?」
後姿の二人に、ロストは話かけた。
「俺の剣は……---」
後ろ姿のまま、ゾグタが答えたのでロストには聞こえなかった。
ロスト自身が訊いたのに、答えを得ようとはしない。
セイラッドの耳にも聞こえなかった小さな願い。それが、ゾグタの命を奪う。それでも、彼に後悔はなかった。最期の彼は、笑顔だったから。
もうすぐ……もうすぐ、そこに来る戦い…………
移動の疲れだけではなく、初めての戦と凱旋。
緊張の続く非現実的な状況からの解放。そして、始まるであろう同じ状況までの狭間。
彼らには、この砂漠もオアシスだった。静かな夜。それぞれが、何を思うのか。
「ロスト、一つ……訊いても良いか?」
水場のそばに生える木に、もたれて座るロストは、見上げる。
「アクル……どうした?ここは……いや、いい。座って、話そう。」
アクルはロストの前に座り、視線を地面に落としたまま。
「俺達の未来は、変わらないのか?」
小さな国の大国への反逆行為。それが、何を意味するのか、分からない者はいない。
民が望んだのは、少しでも長く幸福を共にする時間だった。
「何故、こんな事になった?俺達が、小さな国……少ない民だから?生きている、変わらない……どうして。」
どうして、か。
ロストは、木々に遮られる空をみつめる。
「アクル……君の迷いが続くなら、他の者の命を奪うだろう。しかし君は、その未来を覆すことも出来ると、俺は信じている。」
預言のような言葉……
アクルは、ロストを見つめる。
「俺は、俺の目的……自分の決意が未来を左右する?ロスト、今のそれを知っても……君は、俺への態度が変わらないのか?未来が変わらなくても……」
「そうだね。もう、“俺達の”未来は変わらないから。」
その状況でなくても……この二十人も満たない者が、あの国より先に滅ぶだろう。
「……俺が、選んだ……火種」
人選は、間違いだっただろうか。ロストは、視線を落として立ち上がる。
アクルに手を差し伸べ、立ち上がったアクルの肩を軽く叩いた。
「ロスト……」
「戦禍に、逃げ場はない。このオアシスで心を癒せ。アクル……いや、俺は先に戻る。することが、あるだろう?」
水場にアクルを残し……
居住スペースから少し離れた場所では、ゾグタとセイラッドが剣を交わす。
日課のように繰り返す行為に、終止符を打つ……その日の為に。
ロストは、息を切らした汗だくの二人を見つめ呟く。
「……セイラッド、君だけは逃げて欲しい。何故、そう願うのか……俺は」
セイラッドは、離れた場所にいるロストに気づいた。
「ロスト、戻ろうぜ。お前も、付き合えよ!くくっ。酒には慣れただろ?」
手には、ブドウ酒の入った瓶を持ち。苦笑いのロストは、歩調を速めた。
星空の下、数人しか知らない水場。
そこに、あの女性がいた。このオアシスに、忍び寄る戦の影。
「情報は戴くわ。……あなたは後悔しないの?」
返事は無い…………
3人は、朝まで語り合う。
もちろん、戦禍を意識する3人が泥酔することはなかった。それでも、ロストの頭痛が生じる。
笑いながら、セイラッドはロストを抱える。不機嫌なロストは呟く。ゾグタに聞こえないように。
「お前は、俺とは違う最期を与えてやる……必ずだ。」
「……楽しみにしているよ。くくっ。望むのは……」
朝食の支度をしているクルヒが3人を見つけて、叫ぶ。
「アクルを見なかった?あいつのパンが無いと、朝食が始まらないんだけど。」
セイラッドは、ロストをイスに座らせ周りを見渡す。
「ゾグタ、探しに行こうぜ!」
「多分、水場だ。」
二人は、ロストの情報に顔を合わせ、それを合図のように走り出す。
「元気だね、二人。ロスト、水場って……」
クルヒの質問に、ロストは答えず。
「水をくれないか?薬を飲みたいから。」
視線を落としたロストに、クルヒは水を入れ、差し出した。
「クルヒ……君は、この戦禍に何を望む?」
ロストは水を受け取り、鋭い視線でクルヒを見つめる。
「……何も。ただ、死を望んだ。」
クルヒの答えに、ロストは視線を落とす。
手には水が揺れ、光を反射させる。キラキラ輝く水面。
「……あ、アクルを見つけたみたいだ。セイラッドが、手を振っているよ。俺は、料理を温めなきゃ。」
ロストは、視線を水に向けたまま。
「時は、来た……か。ブレシニー……君を護れない、約束も果たせない。」




