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④愛玩の舞姫  作者: 邑 紫貴
共同生活

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嵐の兆候

嵐の兆候



男たちは、各々の休日を過ごした。

そして、戻ってこない者も多数。ロストのチームは、5人そろったまま。


他のグループの人選を重ね、二十人……残らなかった。

「ロスト、必要人数が満たされていない。」

セイラッドは、不安ではなく不満を表した。

ロストは空を見上げ呟く。

「残った方だ。死ぬのは同じ。ただ、その死に何を望むのか。」

セイラッドは、同じように空を見上げた。言葉を失う。空に大きな影。

他の3人はセイラッドの訓練で、その場にはいなかった。

「……人選は。」

セイラッドは、やっと出せた声も呑み込む。

出し切れない言葉が、水分を奪うかのような喉の渇き。恐怖……その感情に近いながら、口元は笑みを浮かべていた。

ロストは彼の表情に、ため息。

「セイラッド。これはカギだ、希望じゃない。人選は、これを受け入れ、失う恐れのない者たち。」


この言葉を、セイラッドがいつ理解したのか……ワタシは、知らない……


二十人に満たない者たちは、セイラッドの訓練を受ける。

「セイラッド、順調か?」

ロストの質問に、セイラッドは苦笑。

「はっ、マジで言っているのか?素人相手に、たった数日で、何が順調?」

今までの苛立ちが無いのは、カギを見たからだろう。

素人が何人いても、玄人が何人いても変わらないカギ……

「セイラッド、俺が……どうして君だけに見せたか、分かるか?」

ロストは、ため息で問う。

「俺も人選の振るいにかけた。ふさわしくなければ、切るつもりだったんだろ?」

余裕だった表情を険しくし、ロストを睨む。

「そうか……多分、そうだ。俺は、アレを使うつもりも、見せるつもりもなかった。」

二人の沈黙が続く。

ロストは、セイラッドへの対応を知識で探る。しかし、答えが見つからなかった。

知識では理解できない何かに、ロストは興味を持つ。セイラッドへの好奇心。


親しい者も少なく……心を許したのは、“家族”ブラウンドとブレシニーだけ。それも、護りきれないロストの決意の表れが、カギだったのかもしれない。

セイラッドは、そんな手さぐりで人と接するロストに、興味を示す。

深まるのは信頼の絆、共に戦う……戦禍の友情。


「セイラッド、頼みがある。」

それでもロストの願いは変わらない。

「何だ?」

「命が危ない時は、逃げてくれ。」

…………。

…………。

セイラッドは、ニッコリ笑顔。

「嫌だね。」

「セイラッド!」

ロストが必死で真剣に訴えるが、セイラッドもまた……心の中の決意は変わらなかった。


戦火は、見えないところで広がりを見せていた。

この小さな国ミャーダに、密偵が送り込まれている。城の中も、城下町にも。

静かな夜は明け……ざわめきが緊張と共に、嵐を呼ぶ。


いよいよ、計画の遂行の時期。ロストは、カイディールの前に立つ。

「王よ。訓練を受けた数名、明日、中間地点の小さな砂漠に身を潜めます。」

「あぁ、健闘を祈る。ロスト、また……会えるだろうか?」

「……会えるでしょう。」


その会った時が最期だと……ロストは、理解していたのか……ワタシは知らない。


密偵のいる状況を気にしたのか、ロストは短い対面で部屋を出て行く。

その後姿を見ていたカイディールは、微笑を浮かべた。

彼の背負うのは、この国ではない。多くの命でも。まして、自分の命でもない。一人の女性……家族として、共に過ごした人質。


あなたは、ワタシの為に闘う。愛玩の舞姫……の、為に……


静かに夜は明け、朝日と共に、二十人も満たない小さな命の輝き。小さな国の、短い命の灯。

ほんの少しの時間を、家族と共に過ごせますように。そんな願いを背負う。

彼らの凱旋は、何をもたらすのか。それは、ロストにもセイラッドにも……どうでも良い事だった。

彼らの心には、一人の女性……手に入れるのは……


城を後にした二十人も満たない戦人。最低限の食料と水。

命の手綱をロストに託し、目的地は砂漠。右も左も、方位さえ狂う不毛の地。

「セイラッド、ここに停泊する。水への道のりは、今から指示する者だけに伝える。」

その水源を知る者の中に、裏切り者がいた。セイラッドは意図をつかめないまま、黙って見守る。

中間地点だと、カイディールには伝えた。そこが活動の拠点。

情報は、明らかに漏れていた。


意図的なのか、巡り合わせなのか……敵は近づいていた。

恐れと不安。その感情のない者などいない。

刻々と近づく脅威に、信頼の増す少人数の集まり。ロストの狙いなのか、小さな集団に乱れが無かった。



姿を見せた敵に、戦人の心は一つ。

死を覚悟し……それでも、生に執着した目を真っ直ぐに。

襲い掛かる大軍。

交わる剣と剣の金属音。砂漠に響く音。


「カチッ」


敵も味方も、聞きなれない音に一瞬の視線を奪う。

その瞬間に見たモノ……炎……目を疑うような火炎。

戦いを忘れ、恐怖が包む。そこにいたのは……

巨体を浮かせる大きな翼。火竜……古来の書物で伝説とされたドラゴン。


「ば、化け物!」

散り散りになる無秩序な大軍。敵同士の逃げ場を求める醜い争い。

二十にも満たない仲間は、空を見上げ安堵する。

自分の身を滅ぼす相手が変わっただけ。痛みのない死、それを望んだのかもしれない。


火竜は、役目を終えたように飛んでいく。

敵を散らし、ゆっくりと追いかけるように。どこかへ姿を消した。


残された二十人の小さな命。

戦いの傷は浅い。しかし、小さな傷も命取り。全員を集め、傷の手当てをする。

尽きた食糧……計算されたようなタイミングだった。


そして……得たのは勝利…………これも嵐の兆候……




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