嵐の兆候
嵐の兆候
男たちは、各々の休日を過ごした。
そして、戻ってこない者も多数。ロストのチームは、5人そろったまま。
他のグループの人選を重ね、二十人……残らなかった。
「ロスト、必要人数が満たされていない。」
セイラッドは、不安ではなく不満を表した。
ロストは空を見上げ呟く。
「残った方だ。死ぬのは同じ。ただ、その死に何を望むのか。」
セイラッドは、同じように空を見上げた。言葉を失う。空に大きな影。
他の3人はセイラッドの訓練で、その場にはいなかった。
「……人選は。」
セイラッドは、やっと出せた声も呑み込む。
出し切れない言葉が、水分を奪うかのような喉の渇き。恐怖……その感情に近いながら、口元は笑みを浮かべていた。
ロストは彼の表情に、ため息。
「セイラッド。これはカギだ、希望じゃない。人選は、これを受け入れ、失う恐れのない者たち。」
この言葉を、セイラッドがいつ理解したのか……ワタシは、知らない……
二十人に満たない者たちは、セイラッドの訓練を受ける。
「セイラッド、順調か?」
ロストの質問に、セイラッドは苦笑。
「はっ、マジで言っているのか?素人相手に、たった数日で、何が順調?」
今までの苛立ちが無いのは、カギを見たからだろう。
素人が何人いても、玄人が何人いても変わらないカギ……
「セイラッド、俺が……どうして君だけに見せたか、分かるか?」
ロストは、ため息で問う。
「俺も人選の振るいにかけた。ふさわしくなければ、切るつもりだったんだろ?」
余裕だった表情を険しくし、ロストを睨む。
「そうか……多分、そうだ。俺は、アレを使うつもりも、見せるつもりもなかった。」
二人の沈黙が続く。
ロストは、セイラッドへの対応を知識で探る。しかし、答えが見つからなかった。
知識では理解できない何かに、ロストは興味を持つ。セイラッドへの好奇心。
親しい者も少なく……心を許したのは、“家族”ブラウンドとブレシニーだけ。それも、護りきれないロストの決意の表れが、カギだったのかもしれない。
セイラッドは、そんな手さぐりで人と接するロストに、興味を示す。
深まるのは信頼の絆、共に戦う……戦禍の友情。
「セイラッド、頼みがある。」
それでもロストの願いは変わらない。
「何だ?」
「命が危ない時は、逃げてくれ。」
…………。
…………。
セイラッドは、ニッコリ笑顔。
「嫌だね。」
「セイラッド!」
ロストが必死で真剣に訴えるが、セイラッドもまた……心の中の決意は変わらなかった。
戦火は、見えないところで広がりを見せていた。
この小さな国ミャーダに、密偵が送り込まれている。城の中も、城下町にも。
静かな夜は明け……ざわめきが緊張と共に、嵐を呼ぶ。
いよいよ、計画の遂行の時期。ロストは、カイディールの前に立つ。
「王よ。訓練を受けた数名、明日、中間地点の小さな砂漠に身を潜めます。」
「あぁ、健闘を祈る。ロスト、また……会えるだろうか?」
「……会えるでしょう。」
その会った時が最期だと……ロストは、理解していたのか……ワタシは知らない。
密偵のいる状況を気にしたのか、ロストは短い対面で部屋を出て行く。
その後姿を見ていたカイディールは、微笑を浮かべた。
彼の背負うのは、この国ではない。多くの命でも。まして、自分の命でもない。一人の女性……家族として、共に過ごした人質。
あなたは、ワタシの為に闘う。愛玩の舞姫……の、為に……
静かに夜は明け、朝日と共に、二十人も満たない小さな命の輝き。小さな国の、短い命の灯。
ほんの少しの時間を、家族と共に過ごせますように。そんな願いを背負う。
彼らの凱旋は、何をもたらすのか。それは、ロストにもセイラッドにも……どうでも良い事だった。
彼らの心には、一人の女性……手に入れるのは……
城を後にした二十人も満たない戦人。最低限の食料と水。
命の手綱をロストに託し、目的地は砂漠。右も左も、方位さえ狂う不毛の地。
「セイラッド、ここに停泊する。水への道のりは、今から指示する者だけに伝える。」
その水源を知る者の中に、裏切り者がいた。セイラッドは意図をつかめないまま、黙って見守る。
中間地点だと、カイディールには伝えた。そこが活動の拠点。
情報は、明らかに漏れていた。
意図的なのか、巡り合わせなのか……敵は近づいていた。
恐れと不安。その感情のない者などいない。
刻々と近づく脅威に、信頼の増す少人数の集まり。ロストの狙いなのか、小さな集団に乱れが無かった。
姿を見せた敵に、戦人の心は一つ。
死を覚悟し……それでも、生に執着した目を真っ直ぐに。
襲い掛かる大軍。
交わる剣と剣の金属音。砂漠に響く音。
「カチッ」
敵も味方も、聞きなれない音に一瞬の視線を奪う。
その瞬間に見たモノ……炎……目を疑うような火炎。
戦いを忘れ、恐怖が包む。そこにいたのは……
巨体を浮かせる大きな翼。火竜……古来の書物で伝説とされたドラゴン。
「ば、化け物!」
散り散りになる無秩序な大軍。敵同士の逃げ場を求める醜い争い。
二十にも満たない仲間は、空を見上げ安堵する。
自分の身を滅ぼす相手が変わっただけ。痛みのない死、それを望んだのかもしれない。
火竜は、役目を終えたように飛んでいく。
敵を散らし、ゆっくりと追いかけるように。どこかへ姿を消した。
残された二十人の小さな命。
戦いの傷は浅い。しかし、小さな傷も命取り。全員を集め、傷の手当てをする。
尽きた食糧……計算されたようなタイミングだった。
そして……得たのは勝利…………これも嵐の兆候……




