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会いたい  作者: ラサ


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7/17


 その日の夜に、携帯に電話がかかってきた。母からだった。


「何? 明日も早いから、寝たいんだけど」


 今月の母の声は、私にとってあまりありがたくない。

 いつも気まずい余韻しか残さないから、私はわざと不機嫌そうに言った。


『今度の日曜日、予定はあるのかい』


「? 別に、ないけど、何なの?」


『お見合いが、決まったんだよ。今度の日曜、十一時から、駅前のホテルで』


 一瞬、頭の中がからっぽになった。


『ね、いいかい。土曜は家に帰っておいで。美容院は予約しといたから』


「ちょっ、と! 私断ったじゃない、どうしていきなりそんなこと!」


『ちゃんと、私も断ったんだよ。でも、あちらさんが会うだけでもって。そうまで言われちゃ、お断わりできないじゃないか』


 当たり前のような口調に、怒りがわいた。


「それはそっちの都合でしょ!? 私がしないって言ってるのに、どうして勝手にそんなこと決めるのよ!!」


『あのねぇ、なにもこの人と結婚しろって言ってるんじゃないんだよ。一度断ったけど、向こうがどうしてもって、友達に言ってきたんだよ。こんなに言ってくださるのを、無下には断れないんだよ。おまえも、もう大人なんだからわかっているんだろ』


 大人?

 大人って何よ。

 したくないことをして、言いたいことを言わないで、まわりに気ばっかり使って、それが大人なの。

 そんなものが大人だって言うの!?


『会うだけでいいんだよ。そうすれば、それからお断わりすればいいから』


「――」


 怒りで、言葉が出ない。

 涙がこぼれそうになる。これは哀しいから?


 哀しい時は、そう言わなきゃわからないよ。いつまでも、気づいてくれるのを待ってちゃ駄目だ。待ち続けて、お婆さんになったらどうする? 悔しいだろ?


 そう言った透の声を思い出す。

 でも私は今でもあの時のまま、何も変われない。変わることを恐れたまま、動けない。

 だって、透。あなたがいない。

 私は、あなたの前なら素直になれた。あなただけが私をわかってくれたから、あなたの前では私はわがままになれた。


 あなたの前でなら、私は私でいられたのに――



『いいね。とにかく、会うだけ会ってみなさい。会って気にいらないんだったら、断ればいいだろ』


「――」


 嫌だった。どうしても嫌だった。けれど。


「わかった……」


 そうとしか、私には言えなかった。

 通話が切れた後も、私はしばらく携帯を耳にあてたままその場に座り込んでいた。


 透。あなたがいなくなってから、私はどんどん嫌な女になっていく。


 言いたいことすら言えない。

 心の中で燻るだけの感情を持て余したまま、私はどんどん醜くなっていく。


 だって透、あなたがいない。

 あなたが、いない。


 人には些細なことかもしれない。でも、私にとって、あなたがどんなに大切だったか。

 知っていたくせに、もうあなたは帰ってこない。そして私は新しい人を選ばなければならない。


 この薄情者。

 あなたのせいよ。


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