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その他短編

final night

掲載日:2026/09/14

ある時、ふと動けなくなった。


「ほら、紅葉(くれは)!起きなさい!」

「身体が、動かないの」


そう、正直に言うと、お母さんは笑った。

その笑顔は、少し、いや、だいぶ引きつっていた。


「そんなわけないじゃない。ほら、言い訳してないで早く起きなさい」

「本当だってば」


口ではそう言いつつ、身体はきっと動く、と思っていた。

けれど、そうとは言わなかった。


「学校行きたくないだけでしょ?ほら、早く起きなさい」

「だから、起きれないんだって」


普段ならここで起き上がる。

けれど、今日は本当に無理だった。


「紅葉?……ねえ、紅葉までああなるの?」

「嫌よ、嫌、絶対やめて。ほら、早く起きなさいよ」


お母さんが叫び出す。

いつも通り。


それまでには起き上がりたかったのにな。


そう思いつつ、金縛りのようになっていた身体を無理やり起こす。


「おはよう、お母さん」

「あぁ良かった……紅葉、ほら早く支度しなさい」


「……いやだなあ、わかってるよ」

今のわたしは、ちゃんと笑えているだろうか。


ちゃんと、お母さんに心配されない顔を出来ているだろうか。


「そうよね、紅葉はい(・)い(・)子(・)だものね。絃葉(いとは)みたいには、ならないものね」


お母さん、ごめんなさい。

その期(・)待(・)に、わたしは耐えられそうにないです。


そんな、後ろ暗い想いが芽生えて、わたしに絡みつく。


「おはよう、お母さん」


「ええ、おはよう。紅葉」


紅葉と、そう呼ばれたことに、酷く安堵する。

絃葉と呼ばれなかった。


そう思ってしまう。


私は、思った以上に絃葉……いや、お兄ちゃんのことを好きじゃなかったのかもしれない。

お兄ちゃんは、良くしてくれていたのに。


いつもならいけたはずの場所。

私の部屋の左隣。


もう私は、おはよう、とは言えなかった。


「お兄ちゃん」


「おやすみ」

final night : 最期の夜

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