final night
ある時、ふと動けなくなった。
「ほら、紅葉!起きなさい!」
「身体が、動かないの」
そう、正直に言うと、お母さんは笑った。
その笑顔は、少し、いや、だいぶ引きつっていた。
「そんなわけないじゃない。ほら、言い訳してないで早く起きなさい」
「本当だってば」
口ではそう言いつつ、身体はきっと動く、と思っていた。
けれど、そうとは言わなかった。
「学校行きたくないだけでしょ?ほら、早く起きなさい」
「だから、起きれないんだって」
普段ならここで起き上がる。
けれど、今日は本当に無理だった。
「紅葉?……ねえ、紅葉までああなるの?」
「嫌よ、嫌、絶対やめて。ほら、早く起きなさいよ」
お母さんが叫び出す。
いつも通り。
それまでには起き上がりたかったのにな。
そう思いつつ、金縛りのようになっていた身体を無理やり起こす。
「おはよう、お母さん」
「あぁ良かった……紅葉、ほら早く支度しなさい」
「……いやだなあ、わかってるよ」
今のわたしは、ちゃんと笑えているだろうか。
ちゃんと、お母さんに心配されない顔を出来ているだろうか。
「そうよね、紅葉はいい子だものね。絃葉みたいには、ならないものね」
お母さん、ごめんなさい。
その期待に、わたしは耐えられそうにないです。
そんな、後ろ暗い想いが芽生えて、わたしに絡みつく。
「おはよう、お母さん」
「ええ、おはよう。紅葉」
紅葉と、そう呼ばれたことに、酷く安堵する。
絃葉と呼ばれなかった。
そう思ってしまう。
私は、思った以上に絃葉……いや、お兄ちゃんのことを好きじゃなかったのかもしれない。
お兄ちゃんは、良くしてくれていたのに。
いつもならいけたはずの場所。
私の部屋の左隣。
もう私は、おはよう、とは言えなかった。
「お兄ちゃん」
「おやすみ」
final night : 最期の夜




