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日常

作者: 庸 草子
掲載日:2026/05/24

日常


1


 また目が覚めてしまった。




 枕元の時計を見ると午前7時だった。


 少し起きるのが早すぎる。


 今日の母の機嫌はどうだろうか?


 様子を見よう。




 私の両親は別居している。


 直接の原因は兄の発達障害についてどちらが原因か言い争ったことだろう。


 それ自体については同情の余地もないとは言えない。


 その後複雑怪奇な過程を経て現在は兄と父が暮らす家と、母と私と妹が暮らす家に分かれている。


 実際は父の家の方は父が兄に追い出されて車で生活しているという噂も聞くけれど。




 問題は母が両方の家の食事の世話をしていることだ。


 こうなった事情も複雑すぎて私には理解できていない。


 なんでも家庭裁判所に調停されて同居する代わりに離婚しないことになったという話も聞くが、結局その約束も反故にされているようだ。




 二つの家の家事をせざるを得ない母に同情をしないではないけれど、そうもいかない事情もある。


 両親はいまだに仲が悪く、父の家で朝食を作り、こちらに戻ってきた母はきわめて機嫌が悪いのだ。


 そして母は私でストレスを解消することにためらいがない。




 今日はどうだろうかと母の様子を伺う。


 当然のように荒れている様子だ。


 いつものことだから慣れてきたとはいえ八つ当たりはできるだけ避けたい。


 ぎりぎりまで寝たふりをして会話を避けよう。




 妹には自分の部屋があるが私にはなく、寝室も母と共用なので、日によってはたたき起こされて八つ当たりされることもある。


 今日はそこまででは無いようだ。


 少し安心する。




 とはいえ今日は平日で中学校に行かなければならないので、いずれ起きねばならない。


 その時に母から浴びせられる暴言を思うと今から胃が痛くなってきた。


 ストレスには弱いのだ。


 あるいはこんな生活を延々と続けてきたのでもう私のストレスの許容量はあふれてしまったのかもしれない。




 ぎりぎりの時間に居間に移動すると当然のように母から罵詈雑言を浴びせられた。


 その内容をここに記載することは避けようと思う。


 だいたい誰かの頭がおかしいみたいな話を延々とされているのだと思ってくれればいい。


 私の家族は全員が自分以外の全員が頭がおかしいと主張している。


 たぶん全員がおかしいのだろうと思う。




 罵倒を浴びながら食べる朝食はいつも味気ないものだった。


 妹も部屋から出てきて朝食を食べ始めるけれど、罵倒を聞かされるのは私だけなのが不思議だ。


 いろいろな事情によってこの家庭のヒエラルキーにおける最下層は私と決まっている。




 まあ今日は妹が暴れていないだけましな朝ではある。


 妹はだいぶわがまま放題で何か気に入らないことがあると大暴れをするのだ。


 母がほのめかしたところによると妹も発達障害らしい。


 それが私と妹の扱いの差にもつながっているのではないかと邪推している。




 朝食を食べ終えるまでにすでに私はかなり消耗していた。


 ただ、ここを乗り切れば一旦学校に行くことができる。


 そうすれば半日は家族とは関わらなくていい。


 それだけを頼りにひたすらは母の罵倒に耐えながら食事を終わらせた。




 身支度をし、学校に出かける。


 ああ今日の登校途中事故とかに遭ってこの苦しみが終わらないかな。





2




 当然のように行きも帰りも事故に遭うことはなかった。


 残念だ。


 できるだけ家には居たくないので学校が終わった後は図書館に直行し、閉館時間まで粘ることにしている。




 母や妹と居て良いことはない。


 だいたい家には私の部屋はないし、居間も妹が占拠するので私が何かをするスペースというのはほとんどないのだ。




 とはいえいつかは帰らないといけない。


 家出を夢想したこともあるけれど現実的に考えてむずかしいだろう。


 連れ戻されたらよりひどい目に遭うことが目に見えている。




 学校の先生に相談したこともあったけれど、ダメだった。


 先生曰く発達障害の人はすごい能力を秘めているから先入観をもって接するなということだった。


 それは兄や妹が私に対して物理的あるいは精神的な暴力をふるうことの言い訳になるのか?


 そもそも発達障害が暴力行為の原因であるかも定かではない。


 暴力行為から助けてもらえればそれでよかったのに……。




 また悪いことにこの相談内容は母に伝わって、また延々と罵倒されることになった。


 逃げ道はない、ということだろう。




 帰宅すると母と妹が喧嘩をしている様だった。


 いつものことだ。


 どうせまた晩御飯が気に入らないとかそういう理由で喧嘩をしているのだろう。


 ばかばかしいとは思う。




 ただ私が干渉したところで火に油を注ぐだけなのはわかり切っているので、ひたすら耐えるしかない。


 せめて食事を取る暇があるといいのだけれど居間では喧嘩の真っ最中。


 一旦落ち着くまでは耐え続けるしかない。


 居間から扉ひとつを隔てた寝室で耳を塞いで耐え続けていた。


 ストレスで体が熱くなるのを感じながら。




 結局喧嘩が落ち着くのには2時間ほどかかった。


 居間に移動し、露骨に不機嫌な母と妹と夕食を食べる。


 正直なところ気が気ではない。


 何か一つでも不興を買えばまた喧嘩が再燃することは間違いないからだ。


 今度は直接こちらに矛先が向けられたらと思うと、胃が痛くなる。


 こわごわと食事をすます。




 食事が終わっても妹は部屋には帰らない。


 居間にしかテレビがないからだ。


 結局妹が部屋に戻り、母が眠りにつくまでは私が落ち着ける時間は訪れないのだ。




 22時を過ぎて母と妹が居間を去るとようやく少しは私の自由になる時間ができる。


 勉強をするか本を読むか迷ったが今日は勉強をすることにした。


 自分の将来を失わずにこの生活から抜け出すには大学か出来れば高校で遠くの学校を受験して家を出るしかないと思っている。




 さいわいながら受験自体はさせてくれるとは聞いている。


 喧嘩をすると受験すら人質にされてしまうのが問題で、ますます逆らえない立場に置かれてはしまったけれど。


 今、それしか望みははないのだ。




 とはいえあまり夜遅くまで勉強をしても効率が良いわけでもない。


 1時間ほど勉強して今日の分は追える終えることにした。


 自宅での勉強には限度があるのでできるだけ学校と図書館で済ませるようにはしないといけないだろう。




 寝室に移動して眠ろうとするけれど、ストレスのせいかいつもなかなか寝付けない。


 今日一日を振り返る。


 今日はわりと落ち着いた一日だった。




 父とのかかわりもなかったし。


 母と妹の喧嘩もそこそこですんだ。


 どちらにせよ私は限界だけれど、それでも比較的ましな一日だったのはありがたかった。


 そんなことをぼんやり考えているようやく眠気がやってきた。


 


 ああ、このままもう目が覚めなければいいのに。

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