幕間 担当者との打ち合わせ①
「和歌山に鹿児島の二つぐらいかな」
メールに届いた心霊体験は玉石混交と言った具合で題材に使えそうなのはその二つぐらいだった。
自分でも未解決事件を調べてみてきな臭いのを感じたのは愛知県のカルト集団の事件だった。
「何か書けそうですか?」
喫茶店のテーブルを挟んだ向かい側に担当者が座っている。
歳は20代前半の女性、編集者として経験を積ませたいらしく担当になったが、初めての単独での仕事に緊張しているのが伺える。
「何を祀っているのか分からない社や元薬品工場か…。惹かれるものあるけど、小説という形にするにはまだまだ足りないね」
店員が持ってきた珈琲を冷めないうちに口に含む。
「そうですよね。47都道府県全部の話を盛り込まなきゃいけないわけですし…」
企画を立てる上で他のモキュメンタリーホラーと差を付ける為にそのような方針になったが、いつ頃執筆を始められるか全く検討もつかない。
「でも、この愛知県の事件なんてすごいじゃないですか。わたし、全く知りませんでした」
「丁度30年前の事件だからなぁ。古手川さんは出身はどこ?」
「わたしは茨城です」
「ふうん。オカルトでも事件でも良いんだけど、何かネタ無いかな?投稿だけだとどうにも面白くない」
「そうですよね…。友達にも聞いてみるので少し時間を頂けますか?」
「ああ、よろしく頼むよ」
そのあとは主に出版社への愚痴を言い合いながら、会社持ちだからと2人で満腹になるまで食事をして分かれた。
自宅に帰り、PCの電源を入れメールを確認すると新しく体験談が届いていた。
「ふん、心霊スポット生配信に生霊に取り憑かれた、霊感があります。どれも面白みがないな」
一読はするが、これでも小説家の端くれだ。如何にも出来すぎている匂いがするので創作だという事が分かる。
「ん?これは…。中々良いじゃないか」
目を引いたのは山形県に住んでいるという女性からのメールだった。
年齢から見るにまだ中学生だろう。文章は拙いところもあるが、簡潔かつ詳細に書かれていて読ませる力があった。何より、当たりを引いたというような感覚がある。
「古手川さんが話を持ってくるまで時間はあるから、この話から纏めていくか…」
かくして徹夜での執筆に取り掛かり、世が明ける頃には灰皿は吸殻で一杯になっていた。




