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岐阜県 連続殺人事件について

年が変わって2026年。最初の取材は岐阜県で起きた通り魔殺人についてであり、ツテを使って当時の担当刑事を捕まえる事が出来た。

事件が起きたのは今から13年前。

ニュースで大きく取り上げられたその事件の被害者はいずれも20〜30代の女性で身体が損壊されていたというものだった。

警察は早々に捜査本部を立ち上げて聞き込みなどを行ったが2日に1人のペースで被害者は増え続け、総数として30人を越えたという。

今後も被害者は増えていくものと思われていたが8月の終わりとともに事件は止まり、警察は容疑者を絞ることが出来ずに迷宮入りとなってしまった。

「というのが世間で知らされている情報でしてね。実際に捜査の指揮をした貴方なら世に出ていない事もご存知ですよね?」

向かいに座っているのは有谷康二。

現在は既に退役しているが警視正を務めた男だ。

「確かにあの事件は発生から収束まであまりにも早かったが手掛かりが掴めなかった訳ではないが、公表を差し控えるよう上からの指示があったのだよ」

定年は過ぎたようだが髪に白髪は混ざっておらず背筋も真っ直ぐに伸びている。

仕事柄、猫背の癖がついている身としては少々居心地が悪い。

「退役したとはいえ守秘義務もあるでしょうに、なぜ取材に応じてくださったのですか?」

「あの事件は不自然な事が多くてね。上の人間は捜査をさせたくないというのが本音だったようだ。立場上、従うしかなかったが退役した今なら調べる事も出来るし、マスコミの協力者もほしいところだったのだよ」

「なるほど。私も上から執筆を急かされている身なのでお気持ちはお察しします。当時の事を教えていただけるのであれば協力しますよ」

「もちろんだ。まずはそうだな、被害者の状態についてから話そうか」

有谷さんは額に手を当てて訥々と話しだした。

「被害者はいずれも20〜30代の女性。正確な人数は44人だ。時間が発覚したのが7月20日、最後に確認されたのが8月31日。実際には毎日殺害が行われていたものと見ている。次についてだが、君が猟奇殺人鬼の小説を書くとして特定の部位を持ち去る事が犯人の目的だとしたら、どこにする?」

「そうですね…ありきたりにはなりますが心臓や眼球でしょう」

「そうだろうな。何らかの意図を持たせたり強い執着を感じさせるには象徴的な部位だろう。だがこの事件の被害者は皆、背骨を持ち去られていた」

「それは確かに公表は難しいですが、犯人はなぜそのような事をしたとお考えですか?」

「心理学者やプロファイラーに聞いてみたが理解の範疇を超えていたようで明確な話は出なかったよ。だが部位が部位だけに医療関係者とのスジ読みで捜査が始められた」

「素人に解体や摘出はまず無理でしょうからね」

「そこなんだ。今にして思えば初動を誤ったと思う」

「どういう事でしょう?」

「持ち去られた部位を考えるなら医療関係者。だが事件の発生期間を考えると働いている者の犯行だとは考えにくい」

「発生期間?ああ、夏休みか。自由時間を与えられた学生であれば確かに犯行は可能でしょう」

「その通りなんだ。しかも単独犯ではなく、集団での犯行の可能性も出てくる。これこそが上が捜査を止めたがっていた理由なのではないだろうか」

「少年犯罪では京都の事件の例がありますがそれが起きたのはこの事件の6年後ですよ。模倣犯はあり得ない。それなのに警察には心当たりがあったのですか?」

「榑沼か。あれも酷い事件だったな。私がこの事件において最も可能性が高いと思っているのは橘学園だ」

「橘学園?どのような学校なのですか?」

「神奈川にある全寮制の学校だよ。夏休み期間中は岐阜の恵那峡近くにある施設に受験対策で来ていた事が分かった」

「確かに可能性は高いでしょうが断定するにはまだ弱くないですか?」

「この学校はな、医学部への進学率が国内トップなんだ。医学に関する授業のみが行われていて、解剖実習も行っていると卒業生からの証言も得ている」

「話が出来すぎていませんか?条件は揃っていますが、何故この年になって事件が起きたんです?」

「不可解なのはそこなんだ。今回君からの取材に応じたのもそこにある。オカルトでも都市伝説でも何でも良い。恵那峡辺りで何か知らないか?」

強い物言いに取り調べを受けているような気がしてくる。

「あるにはありますが事件とは関係ない話だと思いますよ」

「それでも良い。聞かせてほしい」

「これは真偽不明の話なんですがね…」

昔々とは言ってもどのぐらい昔なのかも分からない。昭和かもしれないし、戦国時代よりも前かもしれない。

木曽川の上流辺りに巨大な山椒魚のつがいが棲んでいたらしい。それは下流に暮らす人間たちを攫っては交わり半分人間、半分山椒魚の子どもを作って攫った人間に成り代わらせていたとの事。

そして、用が済んだ人間は精魂尽きた状態で喰われる事もなく川辺に放置されることになった。

それらは鉄砲水などで下流に流される事もあり、集落の人間に見つかってしまう事もあったそうだが、人間擬き達からしたらそれが見つかってしまうのは都合が悪い事この上ない。

ついには人間と成り変わりとの争いに発展して山椒魚は退治されたとも、人間を皆殺しにしたとも言われたり、大井ダム建設によって姿を消したとも言われているけれど果たしてどうなったやら。

「こんなところですかね。日本昔話みたいでしょう?」

「私は岐阜生まれだがそのような話は聞いた事がない。あなたはどこでこの話を?」

「出版社への手紙や私へのダイレクトメールで怪談奇談が沢山くるんですけどね。その中の一つです。差出人が誰かは忘れてしまいましたけどね」

「俄かには信じ難いが…」

「真偽は確かめようがないですからね。この山椒魚を捕まえでもしない限りは」

「君が小説を書くとしてだ。この話と背骨の持ち去りが繋がっているとしたら、どのようにするか聞かせてほしい」

「これはまた唐突な質問だ。そうですね。人間擬きを育てる為の餌と言ったところですかね。橘学園の生徒達は知的好奇心を刺激された。その結果女子生徒は山椒魚と交わって子を産み、男子生徒は背骨の収集を行った。まあ、夏休みの宿題というオチにします」

「…なるほど。そのような考えもあるのか」

「本気にしないでくださいよ?あくまで小説にするなら、ですからね?」

「分かっている。ここのお代は私が払っておく。他にも繋がりがありそうな話があれば教えてほしい」

「分かりました。期待しないで待っていてくださいよ」

この元警察官とは再び会う事は叶わなかった。

ニュースで知った事だが背骨を抜かれた状態の遺体で見つかったからだ。

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