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まるくんの夢物語  作者: まるくん
第58章 足守川の探検
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邪鬼の脅威が迫る中、まるくんたちは神桃結界を目指し、龍王の導きで桃の霊的な力を手に入れる。萌々香が「桃津霊姫命」として覚醒し、新たな戦いへの準備が進む。

 

 ペレシュ城の北東、艮の方角で黒い雲が立ち込め渦巻いていました。

 庭で式神たちの作業を指図していた前鬼は、その黒雲に不穏な物を感じてました。そこへまるくんが3匹の犬を連れて運動にやって来ました。

「まるくん、怪しい動きがあります」

「私も感じていた。子犬の散歩がてら観察に来たんだ」

「あの方角はペレシュ城から見て鬼門になります」

 北東は古来より鬼門と呼ばれ、鬼の出入り口でした。

「あの方角には、役行者様が祠を作って猿を祀っています。猿は北東の方角を守るとされています」

「いよいよ邪鬼の襲撃が近づいてきたという事だね」

 3匹の子犬が一斉に吠えました。

 黒雲の渦の中を、鬼たちが出入りしているのが遠目にも分かりました。それらは普通の人間には見えませんでした。

「この街のまわりは、結界をしているので、邪鬼たちは侵入できないようになっています。目障りなので、すこし脅してやりましょう」

 前鬼の姿が消えました。実際には、前鬼の動きが素早かったので、まるくんといえども、消えたように見えただけでした。程なくして、黒雲は消えて、暑い五月の日差しが戻って来ました。まるくんの顔に当たる風もさわやかな感じがしました。


 雉原一郎弁護士から、小型バスのレベル4の試験運転のテストも終わったとの連絡がありました。ロボットのテストも終了し、いつでも実用化できるとの報告もありました。

 まるくんは、NPO法人Fairy Busを立ち上げ、NPO法人Pink Fairyの傘下に置きました。

 年齢不問で人員を募集したところ、高齢者の姿もちらほらと見えました。中には観光バスの経験した高齢者もいました。実際にはバスの運転はありませんでしたが、そういう経験者も雇いました。県外からの応募もあって、その人も雇い入れました。妖精の館が完成するまでのあいだ、しばらくは近隣のアパートに住まわせました。

 自治体には、雉原静香が交渉して、コミュニティバスを廃止させて、「妖精バス」の切り替えに成功しました。コミュニティバスを運転していた嘱託社員は、NPO法人で引き続き雇い入れました。

 雉原一郎のほうは、国土交通省の交渉に当たり、妖精バスの運行許可や補助金の獲得に成功しました。

 バスの外観には、妖精の絵を描きました。

 ショート着物を着た3体の妖精が、一面の菜の花の海を飛び、満開の桜が手前に描かれていました。妖精には、ショッキングピンクのリボンを着け、着物の柄はアニメ調の妖精でした。それらには、妖精の館で使用料を払っていました。

 未来高原町の隅々まで、妖精バスが走る事になりました。

 Townで第1便が出発するとき、シャボン玉製造機を4台、前鬼と後鬼に運んでもらい、虹色のシャボン玉の中を進みました。


 夕食後、ペレシュ城の裏で、まるくんは日課の喫煙とコーヒーを楽しんでいました。

 こうした時間に、次は何をやろう、あれは終わったかな、などとよく考えました。しかし、その考えも一服する毎に忘れる事がありました。その度に認知症ではないかと怖くなりました。そうした時、「明日は銀行に行って手続きを済ませよう」と口に出しました。すると突然、やらなければならない事を思い出すのでした。こんな事を考えながら、タバコを吸い、コーヒーを飲むのが至福の時でした。

 まるくんは、身体になにか違和感から鳥肌が立ちました。

「凛。誰かお越しになったのか?」

「まるくん、鋭くなったね。ヒミコ様が萌々香の部屋にお越しになられました」

「すぐに行く!」

 まるくんは急いで萌々香の部屋に行きました。

 ドアの前で、まるくんはひと息ついてノックをしました。

「まるくんだ。入るよ」

 うす暗い部屋の中で、光の中をヒミコ様が立っておられました。萌々香と紫鬼が手前で正座していました。桜花やバスケ部員は独り部屋を宛がっていましたが、萌々香と紫鬼は相部屋にしていました。3匹の子犬もきちんと座っていました。まるくんは、その横に座りました。

「まるくん、よく来てくれました。今から萌々香へ『鬼道』を継承します」

 ヒミコ様は目を閉じて、小さい声で呪文のような言葉を発しました。空中で手刀を2度、3度と切りました。

「これで『鬼道』は、継承されました」

「私の寿命が尽きるという事でしょうか?」

「そなたの寿命はまだ尽きてはおらぬ。『鬼道』の継承は徐々に行われる。寿命の事は心配するでない」

 そう言うと、ヒミコ様の姿は消えていきました。少し間があって、部屋の電灯が点きました。

「これで萌々香は『鬼道』の継承者になった。お父さんの上野譲さんも継承者だった」

「でも何も感じないわ」

「これなんだ、と気づくときがあるよ」

「きっと萌々香の重荷にならないようにヒミコ様は考えられたんだ。ヒミコ様は『鬼道』の継承は徐々に行われると仰ったのはそういう意味があると思う」

「大丈夫だよ。『鬼道』の継承は覚悟していた。薄々まるくんが普通の人と違うというのも早くから気づいていた」

「これからは、萌々香って、呼び捨てに出来ない」

 紫鬼が萌々香を敬うように言いました。

「そんな事はない。今まで通り、萌々香と呼び捨てにして」

「これで腹は決まった。萌々香と紫鬼は、今度の土曜日は予定があってもキャンセルして、足守川の探検に同行してくれ」

「分かりました」


 探検の当日、ひろしさんと和歌子さんは朝早くから、ペレシュ城にやって来ました。

「家で弁当を作るより、ここで作ったほうがいいと思った」

 ところがキッチンに来ると、食事スタッフがあらかた作っていて、片付けを手伝うくらいしか用事はありませんでした。

「何時から作ったのですか?」

「4時くらいかなぁ」

「そんなに早くから?」

「いつも4時ごろには、ペレシュ城に来てるよ。年寄りは早く目が覚めるからね」

 桜花がキッチンにやって来て、

「和歌子さん、おはよう。早いですね。ひろしさんもおはようございます」

「早く来て弁当を作ろうと思ったら、ほとんど出来ていた。する事がなくなったわ」

 萌々香と紫鬼が、3匹の子犬と起きて来て、散歩に出かけました。和歌子さんは、シズカとナマイキに餌を上げました。

「シズカちゃんとナマイキちゃん元気にしてた?」

「元気なもんかい、もう年だ!」

「お母さん、そんな事を言うもんじゃないよ」

「おやおや、この子は口うるさくなったね。そんなんだから嫁にいけないだろ」

「まだ結婚はしたくないわ。私にも人権がある」

「スズメの癖に人権などと言うな。雀権だろ」

「人間もスズメも平等よ。同じ権利があるわ」

「この子も言うようになったね」

「お母さんの娘だもの」

 食事スタッフがハト時計を見て、コーヒーを淹れ始めました。キッチンにコーヒーの香りが満ちて来たころ、まるくんが起きてきました。

「へぇぇぇ、まるくんが起きてくるのが分かるんだ」

「いつも同じ時間だからね」

「みんな、おはよう」

 まるくんは、そう言うと、コーヒーをマグカップに入れて、喫煙所に向かいました。その途中で、「桜花、紘一君と翔太君を起こしてくれ」と頼みました。

 そのうちにゾロゾロと紅龍や沙織、アマンディーヌ、ジャクリーンと起きてきました。

 桜花が紘一君と翔太君を起こして、キッチンに戻って来ると、

「双子も起こさなきゃ」

 と、また屋根裏部屋に上がっていきました。

 まるくんが戻って来て、萌々香と紫鬼が犬の散歩から戻って来て、ようやく紘一君と翔太君が起きてきました。

「みんな起きて来たね。朝食にしょうか」

「双子がまだ」

「まったく。凛。双子を起こしてくれ!」

「桜花さんが起こした。もうすぐ降りて来るよ」

 桜花に連れられて、明菜と若菜が降りてくると、朝食が始まりました。萌々香と紫鬼は、3匹の子犬に餌をあげました。

 白鬼と大牛蟹、乙牛蟹がキッチンにやって来ました。

 大牛蟹と乙牛蟹は恒例の大きなオニギリを朝食に食べ、どんぶりで砂糖とミルクをしこたま入れたコーヒーを一気に飲み干しました。

 白鬼は、自宅のペレシュール城で簡単な食事を済ませていました。

 ペレシュ城に貸切の妖精バスが到着しました。

「まるくん、バスが来たよ」

「ありがとう、凜。さあ、みんな出発だ」


 貸切バスは、目的地の、これ以上は進めないというところまで行きました。

 紅龍を先頭に、みんなは歩きました。

 まるくんは、萌々香を見ながら、すべてを理解していました。今日、萌々香と紫鬼を同行させたのも理由がありました。彼女たちだけでなく、雉原翔太と猿投紘一も参加させたのは理由がありました。

 黒岳の麓の谷川を進むと、鶯が鳴いていました。山肌の緑の中に薄紫の藤の花がぽつんぽつんと咲いていました。いくつもの瀬を渡り、いくつもの石を飛び越えて、谷川の奥へと進みました。

 先頭の紅龍は、健脚で早い足取りでした。

「紅龍! すこし休憩してくれ」

 まるくんは、たまらず彼女を制御しました。

 みんなは、適当な石に腰を下ろしました。

 大牛蟹と乙牛蟹は、せせらぎの水をがぶ飲みしていました。まるくんは、ペットボトルの水を飲みました。

 休憩が終って歩き進むと、谷川の水は細くなっていき、山は空にそびえ立ち、その空は両側の山に狭まれて小さく見えました。鬱蒼とした木々が谷川に迫って来ました。

「まるくん、ここが木崖きがけという地名です。崖に木が生えているからこの地名になったという郷土史家がいましたが、周りには崖はありません。桃が木の枝に引っ掛かったという伝説のほうが、信ぴょう性があります」

「その通りだ。鬼がその木の枝から桃を取って流したのだ」

 紅龍がその伝説を肯定しました。

 さらに進むと、大きな石だらけのところに出ました。

「ここが石崖いしがけです。桃が石に引っ掛かったところです。同じ郷土史家で、石の崖があるからこの地名になったと言っていましたが、石の崖などどこにもありません。字面を見ていい加減な説明をしているのです」

「ここも鬼が石に引っ掛かっていたのを取って川に流したのだ。ここは大石が多いから、引っ掛かってばかりでその度に桃を取って流したのだ」

 まるくんは、その大きな石を「よっこらしょ」とひとつひとつ乗り越えていきました。紅龍はなんなくひょいと飛び越えていました。

 大きなアマンディーヌとジャクリーンでさえ、乗り越えるのに苦戦していました。白鬼も人間になって、苦戦していました。大牛蟹は、和歌子さんやひろしさんが乗り越えるのを手助けしていました。意外だったのは、明菜と若菜、桜花はぴょんと大石に飛び乗りました。まるくんは、この3人が、いかにジャンプ力があるかを知りました。

 紫鬼は、軽々と大石に飛び上がり、上から手を延ばして萌々香を引っ張り上げていました。その下を乙牛蟹が萌々香を抱えていました。

 昼時になって、すこしひらけたところでブルーシートを敷き、大牛蟹と乙牛蟹が運んできた弁当を広げました。大牛蟹と乙牛蟹は、特製の大きなオニギリが作られていました。

 まるくんは、紅龍が長い髪のポニーテールを風に流し、赤い野球帽を被って、つんと立っている姿を美しいと思いました。

「格好いいね」

 と、まるくんはそばにいた沙織に言いました。

「スタイルがいいし、立ち姿もしゃんとしているし、来たときよりも綺麗になった。私よりも歳下なのにショックだわ」

「ジーンズが格好いいね」

「あれは私のよ。あまり洋服を持っていなかったから今日はジーンズを貸してあげたの。ちょうどいいみたい」

「忘れてたなぁ。彼女は洋服を持ってないんだ。沙織の身長は何㎝?」

「173㎝よ。私よりジーンズの着こなしが格好いいの。あのキャップも私のよ。悔しいのを通り越して見惚れてしまうわ」

「ひょっとして下着とか持っていたのかな?」

「私のを貸している」

「すっかり忘れていた。今度、紅龍の買い物に沙織が付き合ってくれないか? 体型が似ているみたいだから」

「いいわよ。私のも買っていいでしょ」

「そう来たか、だめとは言えないな」

「やったぁ!」

 お昼を終えて休憩したあと、ふたたび沢登りを始めました。

 歩き始めると、明菜や若菜、桜花、萌々香、紫鬼は元気よくせせらぎで水を掛け合って遊びながら進んで行きました。

「バスケの練習よりきつい」

 アマンディーヌが泣き言を言いました。

「谷川を歩くだけと言っていたから、もうすこし楽だと思った」

 ジャクリーンも弱音を吐きました。

 ざわざわと木々が揺れる音がしました。

「誰かに見られていると思ったら猿か」

「あれは鬼です。さっきから私たち見ています」

 白鬼が説明しました。

「人間になっても勘だけは鋭いんだね」

「そういう部分は人間になっても消えないみたいです」

 谷川の奥で、立派な角を持った牡鹿がこちらを見ていました。

「ハヤト!」

 紅龍が叫びました。その声は、細く美しく、刺すような鋭さがありました。その声で、牡鹿はゆっくりとこちらに歩いて来ました。紅龍は、風のように走って近づいて行き、頭や首筋を撫でていました。

 みんなが近づくと牡鹿は立ち去ろうとしましたが、萌々香を見ると、前膝を降り、頭を下げました。萌々香はその頭に手をやり、何事か喋りました。

「なにを喋っているんだろう」

 桜花がまるくんに言いました。

「鹿が萌々香に挨拶をして、萌々香はもうすぐ着くから龍王様によろしく伝えてくれと鹿に言った」

「なぜ萌々香に言ったの?」

「すぐに分かるよ」

「ふ~ん」

「紅龍! ここで最後の休憩にしょう」

 まるくんは、みんなを集めて忠告しました。

「今から起こる事は危険な事じゃない。驚くかも知れないけど、むやみやたらと騒がないでくれ。大きな声を出さず静かにする事。これから見る事は他人に言わない事。これだけは守ってくれ」

 暫しの休憩のあと、最後の沢登りを敢行しました。

 進んでいくうちに、まるくんはふと足を止めました。体中から鳥肌が立ちました。大牛蟹と乙牛蟹がまるくんの前に立ちふさがり身構えました。

 谷川の風景がぼんやりとして来て、やがて消えて新しい風景が広がり、谷川の森の中にひと筋の小道が現われました。その道を塞ぐようにタクシャカ龍王様が現われました。

「父上。只今到着しました」

「待っておったぞ」

「人間が神桃結界しんとうけっかいへ立ち入る事をお許しください」

「致し方あるまい。着いてくるがよい」

 アマンディーヌ、ジャクリーンは唖然として声も出ないようでした。翔太君と紘一君はぶるぶるを奮えていました。和歌子さんとひろしさんも真っ青になり、沙織さんは石の陰に隠れました。桜花は平気な顔をして、双子を庇っていました。

 まるくんは、萌々香を先頭に立てて、紫鬼を付き添わせ、大牛蟹と乙牛蟹をあとに続けさせました。そのあとを紅龍が歩き、みんなが続きました。まるくんは、翔太君と紘一君の手を取って、うながすように歩きました。

 道は小さくともよく整備されていました。

 萌々香は、牡鹿のハヤトの後ろを歩いていました。真っ青なバネのような花弁が、クルクルとまわっている花があったり、白鳥のように首をもたげて羽根を広げている白い花があったりしました。

 やがてすこし広い場所にでました。

 おそらくここが神桃結界しんとうけっかい、神聖な場所だと感じました。やわらかな空気がまるくんの気持ちを穏やかにさせていました。まるくんの両手を握っている翔太君と紘一君も手の震えが無くなっていました。

「君たちは、これから色々な事が起こる。この程度で驚いていてはだめだ。龍や鬼の姿に馴れなさい」

 まるくんは、ふたりに諭すように言いました。

 ふたりは、うなずきながら声にならない返事をしていました。

「ここが神桃結界だ」

 タクシャカ龍王様が厳かに告げました。

 そのうしろには、牡鹿のハヤトが草を食んでいました。さらに数体の鬼たちが山際に現れました。

「萌々香、前に出よ」

 彼女は、タクシャカ龍王様の威厳に恐れることなく、堂々と前に出て対峙していました。桜花は、妹のこの姿を見て涙ぐみました。

 白鬼が、肩を抱き寄せ、「どうしたの?」と聞きました。

「小さかった萌々香が大人になったようで嬉しくなった」

 白鬼は、さらに強く桜花の肩を抱き寄せました。桜花は白鬼の旨に顔を埋めて嗚咽を漏らしました。

「萌々香! お主は桃の子の由緒正しき継承者である。これより桃津霊姫命ももつみのひめのみことと名乗るがよい」

 桃津霊姫命とは、津は古代の「の」という格助詞、霊の「み」は精霊や神聖な魂を意味し、「桃の霊の姫の巫女」となった。

 まるくんは、芦森家の古伝書にあった「桃の子」とは、萌々香ではないかと想像していました。だから萌々香を連れてきました。

「翔太! 紘一! 前に出よ」

 まるくんは、ふたりの手を離し、

「恐れる事はない。堂々としていなさい」

 と彼らの背中を押しました。

「そなた等を、鳥飼部の留玉臣命とめたまおみのみこと、猿飼部の楽々森彦命ささもりひこのみことと申し渡す」

 まるくんは、ふたりの背後に行き、

「ありがたき幸せにございます」

 と言って頭を押さえて礼をさせた。

 これで雉原翔太は留玉臣命になり、猿投紘一は楽々森彦命になりました。だがこれは、神界での名前で、現実世界では雉原翔太、猿投紘一でした。

「萌々香、翔太、紘一、3名の者は桃の実を獲るがよい。そしてその実を20日のあいだ天日干しにせよ。来る戦いにそれを持って行くがよい」

「畏まりました」

 まるくんが翔太と紘一の替わりに答えました。

「皆の者に申し渡す。いま神よりお告げがあった。桃の実をひとつずつ食すがよい。ただしひとつだけだ。ふたつ食べると気が乱れ、やがて死ぬ。白鬼は食べてはならぬ。そなたはもう食しておる」

 全員が桃の実を獲って食べました。金柑くらいの大きさで、酸味が強く、とても美味しいと表現できるものではありませんでした。

 まるくんは、しばらくして気分が悪くなり、激しく吐いてしまいました。全員がその場で嘔吐していました。

 白鬼は食べていなかったので、紅龍と共にみんなを介抱しました。

「いま吐いているのは悪気だ。これで健やかになり、若返るであろう」

 落ち着いたジャクリーンは、

「不思議だ。膝が痛かったのがなくなった。これは軽快だ」

 と屈伸運動をしていました。

「私も腰痛がなくなった」

 アマンディーヌも嬉しそうに言いました。

「目がよくなったのかしら、なんだかよく見えるわ」

 和歌子さんは、周囲の山々を眺めながら言いました。

「桃の実はすべて持って行くがよい。但し、戦いに備えるためだ。ほかの事に使ってはならぬ。今は邪鬼、悪鬼どもが怪しい動きをしている。よくよく注意を怠るでない」

「桃の実をすべて獲ると困るのではないですか?」

 萌々香がたずねると、

「来年、また実をつける」

 とタクシャカ龍王様は言いました。

「龍王様、ありがとうございました。これにて退散させていただきます」

 まるくんは、丁重に挨拶しました。

「さあ、みんな帰ろう」

 引き上げようとしたとき、

「待ってください。ひとつ聞きたい事があるのです」

 と、ひろしさんが前に進み出ました。

「なんなりと申せ」

「私の先祖は、鬼ですか? 私は芦森と申します」

「そなたは芦森の末裔か。芦森の家は鬼の子孫だ。うしろの鬼どもとこの神桃結界を守っておった」

「なぜ私のご先祖様は人間になったのですか?」

「村の娘に惚れたからだ。気立てのよい娘であった」

「ありがとうございます。これでもやもやが晴れました」

「聞きたい事はそれだけか。ならば退散するがよい」

 こうして足守川の探検は終わりました。川を下って行くと、降りた場所で凜の手配で、バスが待機していました。


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