第51話:父性に溢れておりますわぁ~~~~。
「ローレンツ副団長、一点ご報告をよろしいでしょうか?」
これまでずっと静観されていたブルーノ隊長が、おもむろに手を上げられました。
報告……?
「フン、何だ、言ってみろ」
「ここ数ヶ月我々第二部隊は、【武神令嬢】から提出された犯人の遺体等を足掛かりに、独自に【魔神の涙】を流している組織の情報を探ってまいりました」
ブルーノ隊長はわたくしにねっとりとした視線を向けられながら、そう仰いました。
なっ!?
そうだったのですか!?
そ、それは殊勝なことですが、『独自に』というところに、若干のキモさを感じますわね……。
「フン、で?」
「はい、その結果、決定的な情報までは掴めなかったものの、各犯人たちが事件を起こす直前に、【弱者の軍勢】というワードを口走っていたことが、近所の住人の証言から判明いたしました。おそらくこれが、【魔神の涙】を流している組織の名前なのではないかと思われます」
【弱者の軍勢】……?
「フーン、【弱者の軍勢】ねぇ。そりゃ随分と自虐的な名前だな。まあいいや。便宜上何かしら名前はあったほうが捜査もしやすい。今後王立騎士団では、【弱者の軍勢】を敵組織の名前として呼称する。お前らも【弱者の軍勢】というワードを話す人間がいたら、徹底的にしょっぴいて事情聴取しろ! いいな!」
「「「はい」」」
【弱者の軍勢】、絶対に許しませんわ……!
必ずわたくしとラース先生の手で潰して差し上げますから、首を洗って待ってなさい……!
「いいかお前ら、これ以上俺の王立騎士団の看板に泥を塗るような真似は許さねえからな! 半年以内には、必ず【魔神の涙】事件を解決しろ! できなかったらお前ら全員、降格処分も辞さないと思えよ!」
……フン、気楽に言ってくれますわね。
それができたら苦労はしませんわ。
もちろん全力を尽くす所存ではありますが。
やれやれ、将来この方が団長になったら、マジでこの仕事辞めたくなりそうですわぁ~~~~。
「アラアラアラ、『全員』ということは、私も降格させられちゃうのかしら?」
「なっ!? いえいえいえ!! 今のは言葉の綾ですよアンネリーゼ様! アンネリーゼ様はもちろん、いずれは副団長になっていただく方ですから! ええ!」
アンネリーゼ隊長が副団長とか、控えめに言って地獄ですわぁ~~~~。
「あー、とういうわけで、以上で緊急隊長会議を終了とする」
「ニャッポリート」
フゥ、やっと終わりましたか。
正直あまりこれといった進展はありませんでしたわね。
「最後に私から一ついいかな?」
「「「――!」」」
リュディガー団長?
「こんな時に何なんだが、今年も王立騎士団武闘大会を開催するよ。どんな時でも、娯楽は必要だからね」
ああ、そういえばもう、そんな時期ですか。
「武闘大会?」
ラース先生がメガネをクイと上げながら、首をかしげます。
こんな仕草も、実に絵になりますわぁ~~~~。
「ラース先生、王立騎士団武闘大会はその名の通り、王立騎士団内で誰が一番強いかを決める、年に一度の武闘大会ですわ。王立騎士団の人間であれば、誰でも出場権がございますわ」
「へえ、それは面白そうですね。ですが、それだと優勝はほぼ隊長格の方に決まってしまうのではないでしょうか?」
「ええ、ですから基本的に隊長格の人間は空気を読んで、出場は辞退するのが通例ですわ。……まあ、去年はジュウベエ隊長がしれっと出場して、サラッと優勝されてましたが……」
わたくしはジュウベエ隊長のことを、じろりと睨みつけます。
「アッハッハ! あれは実に楽しかったでござるなぁ。まあ、流石に今年は自重するでござるよ」
ええ、是非そうしてくださいまし。
「隊長格が出場しないなら、ラース先生にも十分優勝の目はございますわ! わたくしも全力で応援いたしますので、是非優勝目指して頑張ってくださいまし、ラース先生!」
「は、はい! ありがとうございますヴィクトリア隊長! ヴィクトリア隊長の教えに報いるためにも、良い結果を残せるよう、全力を尽くします!」
うんうん、その意気ですわ、ラース先生!
「そういうことなら、今年は私も出場するッッ!!! お前などに、ヴィクの称賛は渡すものかッ!!」
「「「っ!?」」」
ヴェルナーお兄様!?
「いやいやいや、ヴェルナーお兄様が出場したら、優勝はヴェルナーお兄様に決まってしまうではありませんか! どうか空気を読んでくださいまし!」
「何故だヴィク!? お前が7歳と119日の時は、宝石のようにキラッキラした瞳で、『誰よりも強いヴェルナーお兄様をずっと側で見たいですわ』と言ってくれたじゃないかッ!!」
いつの話をしてるのですか???
「ガッハッハ! 面白い。なら今年は俺も出場するかな」
「「「っ!?!?」」」
ヴェンデルお兄様まで!?!?
こんなのもう、ただの大会荒らしですわぁ~~~~。
「ヴィクの愛弟子のラースの実力を、俺も自分自身の手で確かめてみたいしな」
「……!」
ヴェンデルお兄様がラース先生に、不敵な笑みを向けます。
何気にヴェンデルお兄様も、ラース先生のことを気に掛けていたのですわね……。
「で、ですがヴェンデルお兄様、それではあまりにも……」
「まあまあ落ち着けヴィク。もちろんハンデはつけるさ。俺とヴェルナーは一切魔力は使わん。それならいいだろう?」
「――!」
なるほど、魔力が無しの戦いであれば、今のラース先生なら、ワンチャンあるかもしれませんわね……。
「ヴェルナーもそれでいいよな?」
「フン、構いませんよ。たとえ魔力が無しだろうと、私がこの男に負けることなど、天地がひっくり返ろうが絶対に有り得ませんからねッ!」
ヴェルナーお兄様はラース先生に、ズビシと人差し指を向けました。
フフフ、これは面白くなってきましたわね。
「――受けて立ちます」
「フンッ!」
ラース先生とヴェルナーお兄様の間に、バチバチと火花が散っておりますわぁ~~~~。
「フフ、でしたら私も出場させていただくとしましょう! 優勝してヴィクトリア隊長からの称賛を貰うのは、この私です!」
レベッカさん!?
あなたまで???
「因みに私はバリバリ魔力も使わせてもらいますので、覚悟しててくださいね!」
「はい、レベッカ副隊長、胸をお借りします」
レベッカさんとラース先生の間にも、火花が――!
いつの間にか、わたくしの称賛が優勝賞品みたいになってますわぁ~~~~。
「アラアラアラ、私の可愛い【バニーテン】のことも忘れてもらっちゃ困るわよ。みんなも私のために、優勝トロフィーを取ってきてくれるわよね?」
「「「「「「「「「「はい、アンネリーゼ様!」」」」」」」」」」
「ヒイイイイイイイ!?!?」
レベッカさんが【バニーテン】がアクションを起こすたび、キュウリを見た猫ちゃんみたいな反応をしますわぁ~~~~。
「ふふふ、これは今年も楽しい大会になりそうだね」
リュディガー団長が、河原で遊ぶ子どもたちを見つめるお父さんみたいなお顔で、微笑んでおりますわぁ~~~~。
父性に溢れておりますわぁ~~~~。
「ふがっ!? もう会議は終わったじゃん?」
「むにゃむにゃ。もう会議は終わったの~?」
「ニャッポリート」
ピロス隊長とピピナ副隊長は、ずっと寝てたようですわぁ~~~~。