強奪スキル持ちと風の精霊〜監禁児はなにも知らぬまま〜
ここにずっと閉じ込められてから、どれほど経過しただろう。
時間の感覚なんてなくて、日がな一日壁を見るくらいしかやることがない。
ここに居るのは一人だけ、レフィラムのみ。
一日、一度あればマシな食事にも慣れた。
もう5年以上閉じ込められていた。
人は6歳になるとスキル教会で自分のスキルを教えてもらえる。
この家にはレフィラム含めて5人居た。
兄と姉、それと妹。
姉がレフィラムだ。
ずっと居たわけじゃないが兄弟仲は悪くなかった。
裕福でもなく、平均的な暮らしをする家だった。
「ごうだつ、ごうだつ」
全員から攻められた言葉を呟くことしか、言葉を覚える機会は永遠に奪われた。
多分、二度と外には出ていけない。
そう思わせる、廃墟を思わせる空気が漂う。
毎日みんなで話して、笑って、喧嘩して。
ごく普通の家族。
何故怒られたのか今でもわからない。
閉じ込められたばかりのときは、ひたすら己が悪いのだと思ったが。
今は、喜びも悲しみもない無しかない。
明日も同じ日が繰り返される。
明後日も、ずっとずっと。
目を閉じて、寝てしまおうと力を抜いた時、ぺったりとした軽い音に意識が浮上。
「ちょっと良いか」
声をかけられて、目を開けて起き上がる。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだが、良いか?」
それを見た時、レフィラムはそれがなにか分からなくて首を傾げたけれど、自分で考えることを随分前に辞めたこともあり、頷いた。
「ここに居るのはなんでなんだ?」
聞かれて、首を振る。
何度も聞かされたが、全く理解出来なくて結構今でも分からずじまい。
「わか、ない」
「わからないって言いたいんだな。分かるから無理して話さなくていいぞ」
拙い言葉に眉をひそめることもなく、その生物は人とは違う手をフリフリとする。
「分からないか……分かることはあるか?」
「ごうだつ、言われた。許されない、言われた」
何度も何度も、全員から叫ぶように繰り返し言われて覚えていた言葉を吐く。
「ごうだつ?もしかして、強奪か。あ、自己紹介がまだだったな。おれは風の妖精、キュールだ」
キュール。
久々に人と話せたけれど喜びも感じず、事実を淡々と受け入れた。
機微を感じさせない様子のレフィラムを気にすることなくキュールは続ける。
「うん」
「お前は、名前なんていうんだ」
「レフィラム」
「何歳なんだ」
「六歳から数え、てない」
「うーん。どう見ても十歳は過ぎてそうだが。強奪なら監禁される事象は起こり得るな」
偏見すごいな、とキュールが呟くのを聞き、ボーっとする。
「現実逃避と空腹で意識が閉じてるみたいだな」
キュールは丸みを帯びた耳を手でガシガシとかいて、腕を組む。
相手は尻尾を持っていて、耳もあり、動物の風貌をしているが話せるという他にないことをしていた。
夢ではないかとレフィラムは薄ら、察していた。
夢でも良いと思った。
「よし、ここから出るぞ」
「出られない。かぎ、かかってる」
「おれがどっから入ってきたと思ってる。どうとでもできる」
「そう、なの?」
レフィラムはタヌキっぽい見た目の相手に首を傾げちっとも働かないので、くるりと思考を回そうとしている。
「あり、がと。出たい」
「それがフツーの感覚だ。人間として、生物として、あったりまえの感情よ」
ふん!と鼻息荒く伝えてくる。
キュールは尻尾をブンブン!と振り回す。
感情が上がると尻尾が荒ぶるようだ。
そうして、キュールは外に連れ出してくれた。
先ずは眩しい。
眩しいので目を閉じる。
「明るい。変、なの」
「そうだな。お前からしたらこっちが変だよな」
キュールと手を繋ぎ、共に歩く。
誰も二人を気にしてなかった。
それは魔法の力だと教えてもらいながら、レフィラムはキュールに常識を教えてもらう。
「これは、なに?」
「美味しい食べ物だ。食ってみろ」
キュールの生まれた国へ行く道すがら、これは美味しいぞと渡されたもの。
甘くて、幸せだ。
「ん。おいし」
「これからは好きなだけ食えるぞ」
レフィラムは、お金という概念を教えられてないので、お金を払うというシステムを知らずに、与えられるものをただ、受け取っていた。
レフィラムはそれから、お金のことを知り、自分もお金を稼いだ方がいいのだということに、気付く。
強奪、それを使えば稼げるのだろうか。
そんな、思考で居るとキュールがレフィラムの考えを先回りする。
「大切な話し?」
「ああ。お前のスキルについて」
「強奪は、嫌なものなんでしょ」
「いや、それはあくまで使われた事例の一つ。色々使い道はある」
言葉は悪いが、強奪はなにも物理的なものだけではない。
「強奪は概念、真理、ありとあらゆる万物に突貫して効いてしまう」
「よく、わかんない」
「例えば幸運、不運」
キュールの説では、レフィラムは領、土地の不安を強奪して、自分の幸運に変換していた。
幸運を吸い取る以前に、この土地は連鎖的に不運だらけで、吸い取れるほどの幸運などそもそも、なかったらしい。
「だから、人間のいう強奪ってスキルはなんの問題もない」
それに、一人のスキルに人間の世界での影響が出るのなら、とっくの昔に強奪スキルが人や土地の幸運吸って荒地になっているぞと呆れていた。
そういったことはスキル保持者を周り回って、不幸へと誘うことになる。
例えば食べ物。
荒れた土地が増えると、その日に食べることが出来なくなる。
味も落ちて、とてもではないが幸運を感じることもない。
人の不幸もそうだ。
スキルの意味を湾曲され、結果的に監禁されレフィラムは不幸。
とてもではないが、幸運を吸ってどうこうできる人生ではない。
スキルを強奪されるだとか、思われていたかもしれない。
そういうこともあるかもしれないが、そんなのはそうなってみないとわからない。
世の中には、このようなスキルはいらない、と思っている人も居るだろうから、奪うことは悪いことだけではない。
キュールの説明を受け、なんとか理解しようと努める少女。
「お前の居た土地はやがて不運を吸い取る存在が居なくなる。そうなると、立ち行かなくなるだろうな」
タヌキっぽいキュールは事前に調査をしていたという。
元々、レフィラムが生まれる前から経営は微妙で資産も減るばかりの手腕しか持たない。
それがレフィラムが生まれてからは、安定して赤字にもならない、ギリギリに保たれていた。
「早めに離れるのが吉」
風の精霊に手を引かれて、彼の国へ入っていく。
「成長していけば、強奪を自然とコントロールしていって、住んでる土地を長持ちさせられるように、本能的に使えたってのにな」
「キュールの国に使う」
「おう」
キュールはタヌキの耳をぴこぴこさせて、笑った。
「おれの国は最高の場所だ。ちゃんとしてるぞ」
「うん。楽しみ」
入国したらワシに飛行誘拐されたレフィラムは、知り合いらしいワシにキュールが怒鳴りつけて追いかけるという喜劇に、大声で笑った。
ワシ「すまんかった。お詫びにワシのディナーをやるわい」
キュール「食べ残しなんていらん」
ワシ「失礼な。ワシはちゃんと足でちぎっとるもん」
キュール「口でもちぎってんだろうが。やめろ、寄越すな」