ヴェルラートへ 第六節
「……ええ、私も同じ考えでした」
未だ光弾の雨が止まぬ中。なんとか合流を果たしたフラムは、最低限の説明だけで、そう賛同の意を示してくれた。
「では、私が斬り込み役でよろしいですか? 空中での機動も利きますし、ノルドさんなら相手が龍種であろうと、短時間の拘束ならお手の物でしょう」
「二人同時に仕掛けるつもりでいたが……単独の方がやりやすいか?」
こちらの問いに、フラムが強く頷き返す。
「全力の一撃を叩き込むとなると、互いを巻き添えにする可能性もありますから……特に今は、咄嗟に障壁を出しても、十分な強度が得られるかは怪しいところですし」
……覚悟と決意に満ちた顔でそう諭されては、それを止める気も起きないというもの。危険な役割であることは、フラムとて承知の上に違いない。
自分がするべきは、フラムの作戦を却下することではなく、斬り込み役を請け負う彼女の危険を、少しでも減らすことだ。
「……了解だ。なら、こっちは拘束に集中しよう。状況によっては、時間差での追撃も視野に入れる」
「お願いします。魔力の方は大丈夫そうですか? 私はまだ、手持ちの薬が二本ありますけど」
「……余裕があるわけじゃないが、大丈夫だ。消耗はフラムの方が激しいだろうしな」
その言葉を聞いたフラムは苦笑いして、自身の切り札たる武器を一瞬だけ見遣った。
――右手に握られた剣の柄は、今は火の粉の一つも発さず沈黙している。
「しかし、まあ――あちらはよく飽きもせず、同じ戦法を続けますね」
視線を上へと戻したフラムがそう言って、飛来した光弾をひらりと躱した。床に当たった光弾が、火花と共に白煙を巻き上げる。
「……理に適った戦法とは思うが、さすがに芸がないな」
足元で魔力を弾けさせ、ほぼ垂直に跳躍する。……少し、魔力を加減しすぎたようだ。壁を蹴って追加の跳躍。
――煙の向こうに、龍の影を捉えた。光弾をひとつ弾いてから、こちらも相手の弾幕に負けじと、大量の氷柱を生成していく。
それに気づいた白き龍が、忌々しそうに唸り声を上げ、光弾の狙いをこちらへと定めた。正確、かつ数の多い攻撃――それを、多量の魔力を費やした大跳躍で、なんとか回避する。
さらに二度、三度と、細かな跳躍を繰り返す。動きを読まれないよう、なるべく複雑な軌道を描くように。
そして同時に、生成した氷柱による反撃を仕掛ける。……この攻撃が命中するかどうかは重要ではないものの、氷柱の幾つかは、龍の翼や尻尾に当たったようだ。どのみち、傷はすぐに再生してしまうだろう――向こうにしてみれば、致命傷になり得ないなら回避する必要もないのだ。
そうして飛ばした無数の氷柱は、純白の壁に着弾、固着する。――急激に魔力を消費した反動が、疲労感として身体に表れ始めたが、まだ終わりではない。
もう一度光弾を避けながら、目標の位置へと移動する。避けきれなかった光弾が腕を、脚を焼くが、治療は後回しだ。
――壁に林立した氷柱が丁度、龍を挟んで反対側に。ここだ――氷の魔剣に魔力を纏わせ、前方に構えた。
「――凍れ」
氷柱群から一斉に魔法が発動する。それぞれの氷柱と魔剣を繋ぐように氷が伸び、間にいる龍へと殺到――幾筋もの氷が、その体躯を包むように拘束した。
……これだけ大量の氷柱を使えば、いかに龍種といえど、数秒は動けないはず。
ほぼ全ての魔力を使い切り、眩暈すらしてきそうな反動を受けて自由落下しつつも――すれ違うように空へと翔け昇る紅蓮の炎を、確かに見た。
翼と四肢を氷に閉ざされた龍だが、その首から先は例外的に氷に覆われず、ゆえにフラムが仕掛ける炎の斬撃を阻むことはない。
「――お覚悟を」
魔剣セラフの、業火の刃が怒涛の如く勢いを増し、白銀の龍の首へと振るわれた――。




