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迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第四章 - ヴェルラートへ
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ヴェルラートへ 第五節

 閃光と突風が過ぎた後。


 反射的に顔を護った手を下ろすと――眼前の光景は一変していた。

 先程までの陰気な地下空間からは、まるで想像もつかない――白い床、白い壁。

 ほぼ一色に塗りつぶされているが、正方形のタイルが織り成す規則的なパターンによって、この空間が巨大な円筒状をしていることがわかった。


 そして、その中心。自分とフラムを除けば、この空間に在る唯一の存在が、ゆらりと動く。


「あれは……」


 フラムが息を呑む。

 ただ存在するだけで、威圧感すら憶えるような――壮麗な白銀の龍は、その紅い双眸でこちらを見据えると、凄まじい咆哮を轟かせた。

 それはほんの数週間前、ヴェルラート脱出時にフラムが転身したあの龍に――鱗の色は対照的だが――よく似ていた。レウィンスが用いたのは、『黒龍の魂』と同種……それこそ、対となるような遺物なのかもしれなかった。


 咆哮の残響が消える間もなく、無数の光が星のように、龍の周囲に浮かぶ。魔法攻撃――乱打型のものが来る。回避だけで対処するのは困難だろう。合わせて周囲に障壁を展開して――。


 最初に違和感があり、続く一瞬のうちに、それは確信と焦りに変わった。

 ――障壁が、展開できない。


 幾条もの光が、流星のように尾を引きながら飛来する。

 思わずフラムの方を一瞥したが――この状況では、フラム自身の能力を信じるほかなく。光弾の軌道を読んでの回避に、意識を集中させる。

 身を翻し、低い姿勢で横へと跳び――それでも光弾の一つが脚を掠め、着込みの上から、焼け付くような痛みが走った。


 ……光弾の嵐が止む。立ち込める薄煙の中で、手早く治癒魔法を試してみるが……これも効果が出なかった。魔法が発動することなく、魔力だけが掻き消えてしまっている――何らかの妨害であることは明白だった。

 それがどういった原理によるものか判れば、対処できるかもしれないが……『第六感の結晶飾り』の効力も、同様に妨害を受けてしまっているらしく、直感による目星も付けられそうにない。


 だが、ものは試しだ――使う魔力を増やしながら、もう一度治癒魔法を実行してみる。

 ――本来必要な魔力の倍以上を流したところで、微かだが、魔法を放つ手に光が現れた。なるほど、魔法の発動を完全に妨害できるような代物ではないらしい。


 薄煙の向こうが明るくなる。即座に地を蹴ってその場を離れると、巨大な光弾が迫り、すぐ横で炸裂した。

 ――吹き飛ばされながらも辛うじて体勢を立て直し、地面を大きく滑った先、壁のすぐ手前で停止する。


 煙の中から弾き出されたこちらの姿を、視界の端に捉えたのだろう。龍がこちらへと向き直り、再びその体躯を囲むように無数の光を灯していく。また光弾を乱射するつもりか。


 しかしその隙を逃さず、龍の斜め後方から影が飛び出した。夕陽のような紅蓮の炎剣を携えたフラムが、大きく跳躍し――龍の翼を一閃。

 その攻撃を受けて龍が怯み、光弾の前兆も一瞬弱まったが……それだけだ。黒く焼け焦げた翼の傷は、みるみるうちに再生を始める。


「くっ――」


 着地の衝撃を殺しきれなかったフラムの方へと、龍が顔を向けた。

 ――だが、注意が逸れたなら、今度はこちらの番だ。


 生成しておいた氷柱を――当然、魔力は大量に消費するが――無数に撃ち出す。

 それらは飛翔して回避されたものの、どうにかフラムが立ち上がるための一瞬を用意することはできた。


 光弾が雨のように降る。

 再び回避に集中し、緊急時には強引に障壁を出すことも考えながら――舞い踊るように白銀の空間を駆ける。


 それにしても――今度は攻撃が長い。

 こちらの姿が煙に紛れるので狙いこそ正確ではないが、これほどの数を撃たれては、命中するのも時間の問題になってしまう。どうにかして反撃を行いたいが……空中の相手を攻撃するには、魔法攻撃を仕掛ける、もしくは魔力を駆使して宙を翔け、相手に接近してから近接攻撃を叩き込むかの二択。いずれにせよ、妨害効果の影響下で、無理に魔力を使うことが必須となる。


 ……そして。今更ながらに気がついたが、この空間――龍種と戦うにはお世辞にも広いとは言えない床の面積に対し、天井は異様なほど高く作られた円筒型の戦場は、飛行できる龍の側に圧倒的な有利を齎していた。

 今まさにそうしているように、滞空したまま地上に対して絨毯爆撃を仕掛けることで、一方的かつ回避しにくい攻撃が行え、仮に上空へ敵対者が追いすがってきても、さらに上へと逃げることができる。

 シンプルだが、魔法妨害も合わせて、非常に効果的な戦術と言わざるを得ない。


 飛来した光弾のひとつを剣で弾く。

 ――剣に込める魔力も節約しているため、衝撃がいつもより大きく響いた。剣を取り落とす程度ならまだしも、破損でもしようものなら絶望的だ。そのため、完全に魔力を止めるわけにはいかない。


 降り注ぐ光弾に注意を払いつつも、必死に思考を巡らせる。この状況で考えられる勝ち筋――。

 ひとつは、相手の魔力切れ、ひいては転身の効果が切れるのを待つという方法だが……率直に言って、これはあまり期待できそうになかった。そもそも、空間を作り変えるほどの魔法が発動していることを踏まえると、レウィンスは財宝の迷宮の魔力炉から直接、リソースを得ていると考えるのが自然だ。下手をすれば、半永久的に転身していられる可能性すらある。


 クランスが外側から、何らかの手を打ってくれることに賭ける……というのも、希望的観測が過ぎるだろう。

 既に『問題が発生した』ことには、クランスも気づいているかもしれない。だが、エレナのバックアップもなく、たった一人で迷宮の最深部まで到達するのは……たとえ迷宮の機能が停止していても、相応の時間が掛かる。加えて、仮に到達できたとしても、この空間に外部から干渉できるという保証はない。


 最も現実的な方法は――やはり短期決戦だ。

 防戦に徹していては魔力を削られるばかり。ならば余裕のあるうちに、強力な一撃で勝負を決める。当然リスクは大きいが、やるしかない。

 そのためには、まず――


「フラム! 一旦集合だ!」


 ――声を頼りに、煙に紛れて見えないフラムと合流するところから、だ。

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