ヴェルラートへ 第四節
こちらが構えていた剣で仕掛けるよりも一瞬早く、レウィンスを護っていた障壁が炸裂し、その衝撃でフラム共々、部屋の入口方向へと吹き飛ばされてしまった。
――クランスが与えてくれた簡易障壁のおかげで負傷は免れたが、彼我の距離を大きく離された形だ。
「往生際の悪い――!」
そう悪態をつくフラムが即座に宝石を構え直すが、レウィンスは新たに、部屋を横切る巨大な障壁を張り直している。赤色に照らされた空間の中で、一際強い青に輝くその障壁は、先程の不可視障壁とは比較にならない出力であることが明白だった。魔力炉から直接リソースを得ているのだろう。
「往生際だと? 何を馬鹿な。私はこの時を待っていただけだ」
勝ち誇るようにレウィンスが言い放つ。
「父親の話を出せば、食いつくであろうことも予想していたさ。ご清聴に感謝しよう」
――フラムが宝石から魔法を放った。しかし、障壁に当たって火花を散らしただけで、損傷はほとんど与えられていない。
……あまり期待はできないが、こちらは極低温による障壁の無力化を試みるべきか――そう判断して、剣を床に突き立てて魔力を流しつつ、空いた片手で通信機を取り出す。
「――エレナ、権限の掌握を急いでくれ。面倒なことになりそうだ」
……しかし、応答はない。
通信機の電源は間違いなく入っているが……故障か妨害か、あるいは――。
「お前たちに協力しているのが何者かは知らんが……こんな方法を使うということは、大方、エレナの奴だろうな。残念だがその手は想定済み、対策もできているのだよ。攻撃の方法と出所が判れば、反撃すら容易いとも」
……その言葉が虚勢でないことは明らかだった。巨大障壁が起動したことと、通信が使えなくなったことを踏まえれば、既に迷宮の管理権限は奪還されている……それどころか、レウィンスの口ぶりからすると、魔城の迷宮側が逆襲されていることも考えられた。
エレナとレーデのことが心配だが……今、自分たちにできるのは、二人の無事を祈りつつ、急いでレウィンスを止めることだけだ。
――しかし。巨大障壁に凍結魔法を掛け続けるが、効果が現れる気配すらない。障壁の規模と出力が、あまりに大きすぎる――。
「……さて、これまで随分と手を煩わせてくれたな」
障壁の向こうで、レウィンスが懐から何かを取り出しつつ言った。
「余計な仕事は増えるわ、探索者は減るわ、島民の士気は下がるわ……貴様らのせいで、どれだけの迷惑を被ったことか」
そう吐き捨てるレウィンスの手元で、何か光るものが揺れた。
障壁越しではその正体は判然としないが、首飾りのようにも見える――。
「だが、それも今日、この時までだ……私が手ずから、貴様らに裁きを下してやろう!」
その『何か』が、純白の、眩い光を放ち――同時に、強い風が吹き抜けた。




