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迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第四章 - ヴェルラートへ
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ヴェルラートへ 第三節

 両開きの扉の片方を、勢いよく蹴り開ける。


 そこへ、フラムが手投げ弾を放り込んだ。

 一拍置いて、扉の向こうから強烈な閃光。それが止んだところに、フラムと足並みを揃えて踏み込む。すぐ横で悶絶している見張りを電撃で気絶させてから、部屋の中を見回す。

 まるでどこぞの屋敷のような、華美な幻影が施された、その部屋の奥。

 血相を変えてモニターに向かっていた高年――いや、エレナのおおよその年齢から考えれば、中年――の、金髪の男と目が合った。


「やはり、貴様らか……!」


 何か対策をしていたのか、それとも運が良かっただけか――閃光を見ずに済んだらしいレウィンスが、こちらを見るなり、そう口にした。

 ……どういうわけか、先日切り落とされたはずの頭頂部の頭髪は、一見して元通りになっているように見える。


「また会ったな」


「大人しく捕まって……くれそうにはないですね」


 フラムが言い終わるより早く、レウィンスがさらに奥の部屋へと向かって走り出す。

 足止めに氷塊を飛ばしたが――それは障壁によって弾かれてしまった。レウィンスは以前と同じ、特殊障壁を含む、数枚重ねの障壁を展開しているようだ。


「あの先は確か、メインの魔力炉がある部屋……行き止まりのはずです。追いましょう」


「……厄介なことを考えてなければいいが」


「どうですかね……さすがに、魔力炉ごと自爆なんてしないとは思いますが。配管でも伝って、逃げるつもりでしょうか」


 懐の通信機が振動した。――取り出して応答のボタンを押し、それを耳へと近づける。


《……待たせたね。強制送還と、出入り口の封鎖も実行できそうだ。あとは(やっこ)さんだけになる、詰めを誤るんじゃないよ!》


 ――通信が切れると、先程無力化した二名の見張りが、薄紫の光に包まれ、消えた。

 ……今頃、迷宮の入口前は強制送還を食らった者たちで、ごった返していることだろう。


 奥の扉を抜けると――景色は再び、飾り気のない石造りの空間へと戻った。幻影を施しているのは、オフィスのようにも見えた、あの部屋だけなのかもしれない。

 正面には見上げるほど巨大な、銀色の物体が聳えていた。おそらくあれが魔力炉だろう。財宝の迷宮を動かすリソースの大元だけあって、桁違いの規模と言うほかない。


 その魔力炉の周囲にある、メンテナンス用と思しき足場に、レウィンスは向かおうとしていたが――行く手を氷壁で阻まれ、その足が止まる。


「鬼ごっこに付き合うつもりはない。観念しろ」


「外へ続く道は、全て封鎖してあります。逃げ回っても無駄ですよ」


 ……こちらに向き直ったレウィンスの顔には、まだ抵抗の意思が見られたが――冷気を湛えた魔剣と、魔力に煌めく宝石を向けられ、ヴェルラートの元首は、とうとうその場にへたり込んだ。


「……なぜだ、どうしてこんなことに……!」


「因果応報だ。それ以外に何がある」


 顔を地面に向けたまま、レウィンスが声を荒げる。


「島民の、皆の生活が掛かっているんだぞ……! 今更、リスクを冒して方針を変えるなど、私には――」


「そのために、どれだけ多くの方が犠牲になったとお思いですか」

 フラムは声に怒りを滲ませつつも、諭すような口調で言う。

「……貴方は、もっと早い段階で、島民たちに相談するべきでした。そうすれば、別の道もあったはずなのに――そうしなかったのは結局、自分が甘い蜜を吸いたかったからでしょう?」


 レウィンスは答えない。しかし、おもむろにフラムの顔を見上げた。


「……よりによって、裏切ったのが貴様とは」


 悔しそうに口元を歪めるレウィンスに、フラムは宝石を構えたまま毅然と答える。


「重用していただいたことには感謝していますが、それとこれとは話が別です」


「貴様は……私や、お前の父親が築き上げたものを、水泡に帰そうとしているのだぞ!」


 その言葉に――フラムの手が少し揺れた。しかし表情は変えずに、質問を返す。


「……父のことを、ご存知のようですね」


「ああ、よく知っている。共にこの迷宮に挑んだ戦友だからな」


 フラムは沈黙を保っている。対照的に、レウィンスは金属の足場の上に座り込んだまま、饒舌に喋り続けた。


「元々、私たちはこの島で働く傍ら、財宝の迷宮を定期的に訪れ、稼ぎの足しにしていた。……だが、財宝の迷宮が機能を停止し始めた、その兆候が表れた時だ。当時の元首が、迷宮の踏破に挑む者を、秘密裏に募ったんだ……」


 ――その時点ではまだ、財宝の迷宮を掌握して偽迷宮にする……などという計画は、当然存在せず。単に、迷宮内の戦利品をどこぞの探索者に持ち去られる前に、可能な限りヴェルラートの財産として確保するための計画だったらしい。そしてその分、踏破を成し遂げた者には、相応の褒賞金も約束されていたという。

 ……レウィンスと、フラムの父――クロウ。そして他数人の、探索にある程度以上の心得がある島民が、それに立候補した……。


「……いくら機能を停止しつつあるとはいえ、深層ともなれば、それもまだ健在でな。おまけに、浅層とは比べ物にならない強力な魔物に、大量の罠……日に日に、メンバーは脱落していった」


 結果的に――最深部に到達できたのは、レウィンスとクロウの二人だけ。

 そのクロウは、最深部に潜んでいた強大な魔物との戦いで致命傷を受け――地上への強制送還からすぐに治療を試みられたが、その甲斐なく命を落とした……。


「そして……迷宮の最深部で、私は偶然にも、この管理領域の存在を知り……その報告を受けた当時の元首が、迷宮を自分たちの手で存続させることを提案してきたんだ。前代未聞のことだからな、当初は迷宮内の戦利品を回収し終わるまで続けられれば御の字、という想定だったが……」


「……欲が出たか」


「……ああ、迷宮の管理は上手くいきすぎた。配置されていた戦利品だけでなく、強制送還時に探索者が落としていったの武具や消耗品も、同様に回収して……だが、それでも今に比べれば、危険の少ない迷宮だったよ」


 翌年、元首が持病の悪化により他界すると、レウィンスは前年の功績からその座を継ぐことになった。――『偽の財宝の迷宮』が、次第に危険さを増していったのは、それからだ。


「偶然『落ちた』ものを回収するより、『殺して奪う』方が、圧倒的に効率がいい……私は迷宮の罠を改良し続け、その結果として、ヴェルラートの財政と経済を、大きく改善することにも成功したんだ。……わかるだろう? この迷宮がなくなれば、この島がどうなるか」


 レウィンスは浅ましくも、やや誇らしげにそう言ってのけた。


「……おっしゃりたいことは、それで全部ですか」


 対してフラムは、冷え切った声で返した。

 レウィンスの顔から、また血の気が引いていく。


「……今のお話が真実だと仮定して。そうであるなら、尚更許すわけにはいきません」

 フラムの構えた宝石の輝きが更に強まる。

「父の犠牲があった上で……なお数え切れないほどの探索者を葬ってきたなんて。恥を知りなさい」


「いずれにしても、抵抗は無意味だ。攻撃の余波で怪我をしたくなければ、その障壁はさっさと解くことだな……警告はしたぞ」


「わ、わかった、降参だ! 障壁を解くから待ってくれ……!」


 狼狽えながら、レウィンスが上着の内側を手で探り始める。


 ……この男は、まだ諦めていない。ここから形勢を逆転する、何らかの手段を残している……自らの直感がそう告げていた。

 今すぐにでも障壁を強引に破壊して、縛り上げるべきか。


 ――そんなことを考えていた矢先。

 不意に、けたたましい警報音が部屋全体に鳴り響いた。碧色の光を投げかけていた照明が、血のような赤色へと変わる。


 それと同時に――ヴェルラートの元首が、その口角を吊り上げるのが見えた。

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