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迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第四章 - ヴェルラートへ
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ヴェルラートへ 第二節

 転送時の眩い光が消えると、周囲には再び薄暗い空間が広がっていた。


 その細部がだんだんと見えてくる――碧色の照明が埋め込まれた無数の柱と、それに支えられた、バルコニーのようになった足場。

 ……財宝の迷宮最深部は、以前と変わりない様相だった。


 その床は特にひび割れたり、焼け焦げたりといったこともない。数週間前――ノルドがここを立ち去る直前、この部屋の中心にはありったけの攻撃が撃ち込まれたが……迷宮の基礎部分というのは損傷に強く、たとえ強力な攻撃で破壊されても、すぐ再生するようになっているものだ。――そうでなければ、壁を手当たり次第に破壊されることで、管理者用の領域が露見したり、床を破壊されて、直接次の階層に向かわれたり……といったことが発生してしまうだろう。


 ……空間を見渡し、耳を澄ませてみるが――周囲に気配はない。この侵入にはまだ気づかれていないのかもしれなかった。とはいえ、それも時間の問題だ。

 フラムに無言で目配せする。――向こうもすぐ気づいて、言葉は発さず、ただ部屋の奥を指差して、静かに走り出した。こちらもそれに続く。

 やがて、フラムが走る速度を落とし、近くに並んでいる柱の方を見た。……どうやらその位置を頼りに、特定の場所を探しているらしい。数秒の後、確認を終えたらしいフラムが壁へと歩み寄って、エプロンから、掌に収まる程度に小さい、真っ黒な物体を取り出した。――遠目には金属片のようにしか見えないが、その正体はエレナから渡された通信機だ。


「……エレナさん、最深部の管理領域前まで来ました。扉は開けられそうですか?」


 小声で、通信機に向かって話すフラム。……僅かな間を置いて、通信機からエレナの声が返ってきた。


《――丁度、処理が終わるところだ。あと十秒もかからないよ》


「ありがとうございます」


 フラムが通信機をエプロンの裏へ戻すと同時、目の前の壁が音を立てて少し引っ込み、続けて横へと滑って道を開けた。

 ――その先には、橙色の照明に照らされた通路が、斜め下へと伸びている。


 ……管理者の領域は迷宮全体に張り巡らされているらしいので、この近辺にレウィンスがいるとは限らない。しかし、最も多くの機能が集約された、心臓部とも言うべき場所であるなら――その可能性は高いだろう。



 ***



「……む? お前たち、何も――」


 通路の先、少し広くなった空間の左右にいた見張りを、フラムと息を合わせ、同時に無力化する。


「脱出した時のことを思い出しますね」


 見張りから奪い取った通信機を投げ捨てながら、フラムが言った。


「……そういえば、あの時も似たようなことをしたな」


 実際には数週間前のことだが――随分昔のことのように感じてしまう。ここ数日はともかく、ヴェルラートを脱出して、暫くは忙しくしていたからだろうか。


「まあ、今回は私が味方のフリをして騙し討ち、というわけにもいきませんが」


「今度はこっちが先手を取れてる。あんな(こす)い手を使わなくても、問題はないだろう」


 こちらの発言に対し、フラムがあからさまに不満げな表情を見せる。


「あの。狡い手というのを否定はしませんけど、もう少し気の利いた表現はなかったんですかね? 機転を利かせた、とか。工夫にあふれた、とか」


「……そう言うな。悪い意味じゃない」


「悪い意味じゃなくても、人聞きが悪いじゃないですか」


「他に誰も聞いてないだろう」


「……はぁ」


 溜息をついたフラムの顔は、ますます不満そうだった――しかし、間もなくその表情が、真剣なものへと変わる。


「……もうすぐ中枢です。念のため、足音を抑えましょう」


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