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迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第三章 - 迷宮管理者の暗躍
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迷宮管理者の暗躍 第九節

 ヴェルラート島の、市街地から少し外れた丘の上。

 そこに、レウィンスの邸宅は建っていた。


 広い土地と、それに相応する規模の、気品ある建築。

 ……しかし、庭木の手入れはあまり行き届いていないように見える。――上空を旋回しつつ見渡しても、庭師らしき者の影は確認できなかった。単なる人材不足か、あるいはレウィンスの用心深さの現れか――後者の可能性が高そうだなと、僕は浮遊する高度を下げながら思った。

 ……というのも、ノルドとフラムがヴェルラートを脱出して以来、レウィンスは今までに輪を掛けて用心深く、疑い深くなり……ほぼ絶対の信頼を置ける者以外は、自身から遠ざけているらしいのだ。


 邸宅の周辺に近づくにつれて庭木は減り、灌木――その中でも、特に背の低いものが残るばかりになる。見通しの悪い場所を作らないように、という意図か。これでは、夜闇に紛れでもすればともかく、白昼堂々と建物に近づくのは困難だろう。

 ……加えて、外壁のところどころに、遺物にも似た小さな装置が取り付けられている。詳細はわからないが、監視、もしくは記録装置の類であることは想像に難くない。――鳥が飛んでも特に反応がないあたり、侵入者を自動で迎撃するような、物騒なものではないようだが。

 ……それにしても。これほど厳重に警戒されていては、潜入は困難を極める――無論、今やっているように、無窮の書を用いれば――どのような方法でも感知されない、完全な隠蔽も可能ではある。しかしそれを使って潜入したのでは、後になってノルドやエレナに、その手法について訊かれた時が問題だ。


 ヴェルラートに渡ってから、今日で十二日目。

 僕が済ませておくべき行動と報告は、そのほとんどが完了し――残るはレウィンス邸周辺の調査と、可能な範囲での潜入工作だった。

 とはいえ……エレナは最初から、レウィンス邸周辺は警戒が特に厳しいであろうことを予想していたので――レウィンスにこちらの行動を悟られないことを最優先とし、無理に潜入はしないように、という指示を受けていた。


 ただし――仮に潜入を断念するとしても、一つ、済ませておきたいことがある。……それが、この邸宅のどこかにあるはずの転送陣を、無力化するための細工だった。


 レウィンスが所有する遺物『携帯転送機』は――予め『出口の転送陣』を設置しておくことで、そこに繋がる『入口の転送陣』を、いつでも生成することができる代物。

 既に、各地に作られた他の『出口』は、細工を済ませたのだが――最後の一つ、その反応が、この邸宅内にある。

 ――レウィンスは、迷宮内で自身が窮地に陥った場合……ほぼ確実に、携帯転送機による脱出を図るだろう。

 その際、どの出口を選択するかはわからないが――安全性という意味では、この邸宅を真っ先に選択する可能性は大いにある。他の出口を選んで転送に失敗し、狼狽えている間に捕縛できればいいが、そうなるとも限らない。

 他の出口を潰された以上、必ずこの場所から出てくるとわかっているなら――この邸宅を丸ごと、障壁などを使って包囲してしまう手もなくはない。しかし、言うまでもなく非効率的な方法だし、迷宮の中だけで決着をつけられるなら、その方が良いに決まっていた。

 ……実際のところ、転送を妨害するだけであれば、この大層な邸宅に潜入する必要もない。携帯転送機はその仕様上、転送を実行する前に出口に接続し、座標の確認や接続の安定性を確保しなければ、転送を実行できないようになっている。転送事故を防ぐための安全策だ。

 つまり、その接続さえ妨害できれば、転送の実行を防ぐことができる。


 僕は建物の側から離れ――崖と呼んでも差し支えない、レウィンス邸が建つ丘の斜面へと、宙を滑るように移動した。

 ……このあたりなら丁度、迷宮と邸宅を繋ぐ直線上になるので、妨害効果が最大限発揮されるはずだ。


 異空間への小窓を開け――その中から、巨大な釘にも似た、鈍色の魔器を取り出す。

 それを、土が柔らかそうなところを選んで、先端を少し刺してから……力を入れて、さらに深く崖へと突き立てた。

 それが簡単には抜けないことを確認してから、試しに微弱な魔力を送ってみる。

 ――無窮の書によって得た別の視界に、反応を示す、数値の変動が表れた。……問題なく動作しているようだ。


「よし――」


 異空間への窓を閉じ、僕は今一度、自身の隠蔽状態を確認する。――視覚・聴覚情報、および魔力の隠蔽は継続中。……魔器を設置する必要があったので、物質的にはどうしても『存在している』状態だが、こんな空中で、物理的に何かと接触するわけもない。

 そして、用が済んだので――僕は物質的隠蔽も再度有効にした。……この状態なら、少なくとも地上の人間に存在を知覚される心配は一切ない。居るけど居ない、という表現がしっくり来るような状態だ。


 僕は再び高度を上げ、崖の真上の空から、レウィンスの邸宅を見下ろす。

 ……最低限、やるべきことは済んだ。あとは、準備が全て終わったことを、エレナに報告するだけだが――念には念を、だ。


 エレナには、『監視態勢が厳重だったので潜入は断念し、転送妨害の細工のみに留めた』と報告するつもりだが――レウィンスが外部からの干渉に対し、全くの無策でいるとも思えない。

 この完全隠蔽を保ったまま、邸宅の内部……そして、時間があれば迷宮の深部までを見て、不測の事態に備えておくとしよう――。


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