迷宮管理者の暗躍 第八節
「……その後のことは、前にお話した通りです」
――エレナは俯いたまま、深く息をついた。
「……ヴェルラートの過去と現状について、いろいろと推測はしてたが――改めて事実を突きつけられると、応えるね」
エレナが姿勢を直して、こちらに向き直る。
「だが、正直に話してくれたこと、感謝するよ」
そう言うと、エレナはおもむろに椅子から立ち上がった。
「……改めて謝罪させてほしい。アタシがレウィンスを止めてさえいれば――」
「いいえ、エレナさん」
私も立ち上がって、エレナの言葉を遮る。
「その謝罪は受け取れません。だって――先程も申し上げた通り、私は、貴方が悪いとは思っていないし、思えないんです」
そうだ。私とエレナは、ほとんど同じ悔恨と、苦悩を抱えている。
――エレナが言葉に詰まるのが、見て取れた。
「あの島にいながら、レウィンスを止められなかったのは、私も同じです。……私がもっと早く行動していれば、犠牲者を減らせたはずだと――そう思わずにはいられなくて。どうやってこの罪を贖うのか――そんなことばかり、考えていました。だから、エレナさんの気持ちはわかります。……それでも、少なくとも私個人は、エレナさんに非があるとは思いません」
「しかし――」
「……それに、エレナさんは既に行動で示してくださっています。レウィンスを止めるために、長い時間と労力を掛けて――その気になれば、遠く離れた地で、知らぬ振りをして過ごすこともできたはずなのに」
――エレナは、まだ迷うような表情をしている。私は言葉を続ける。
「ですので、その謝罪は――どうか、他の被害者の方々へ。ヴェルラートでレウィンスに従わざるを得なかった方や、財宝の迷宮で犠牲になった方……そのお仲間や、ご遺族にも。私や、他の島民たちと一緒に謝罪する、その時のために。……私一人では、心細いですから」
エレナがその言葉を噛みしめるように、ゆっくりと瞬きをして。
……やがて、静かに口を開いた。
「――ありがとう、フラム。ここに来てくれたのが、アンタでよかった――本当に」
「いえ、私の方こそ。こんなに頼もしくて、心遣いのある方に協力して頂けるなんて」
――そこで私は思い出して、時計を確認した。
……すっかり話し込んでしまっていたので、そろそろ準備をしないと、ノルドとの約束に遅れそうだ。
「時間は大丈夫そうかい? もしなら、ノルドに持たせた端末に、時間を遅らせるよう連絡を入れるが……」
「……あー……で、では、五分伸ばしてもらうよう、お願いできますか……?」
「お安いご用だ。……ああ、忘れてたが、スキンケアの話はまた今度かね」
「はい! それはメモを取りながら、じっくりお聞きしたいので!」
「そうかい。……それじゃ、気をつけて行ってくるんだよ」
私はエレナに一礼して、倉庫を後にする。
――自分でも驚くほど、私は心持ちが軽くなっていた。まるで、目の前に重苦しく広がっていた、濃い霧が晴れたような。
……失われたものは戻らないし、私が負う罪の重さも、変わってはいない。しかし、今ではそれを、エレナも一緒に背負ってくれている。
……エレナは、私が自身の過去を話すのは辛いことではないかと、心配していたようだったが――結果的に、それはむしろ逆だった。私は、今まで一人で抱えてきた痛みを、やっと誰かと分かち合うことができたのだ。
――私が背負ったこの罪は、エレナや、他の島民たちと、共に償っていけばいい。
そのために、今は前を向いて、進む時だ。




