迷宮管理者の暗躍 第六節
「さてと……フラム、少し休んだら、情報収集に行くぞ」
話が一段落したところで、ノルドがそう切り出した。
「ああ、そういえば……そんなこと言ってましたね」
探索者にとって情報は命。……ゆえに、毎日というわけではないが、私とノルドは夜になると探索受付横の酒場を訪れ、オンターと話をしていた。
他の探索者からも話が聞ければもっといいのだが――魔城の迷宮の受付に、他の探索者の姿があるわけもない。
「では、三十分くらい後でもいいですか?」
「……まあ、急ぐわけでもない。三十分後だな」
「くれぐれも、転送陣のことがバレないように頼むよ」
倉庫の外へと向かうノルドの背に向かって、エレナが念押しする。
ノルドはそれに短く返事をすると、開け放しになっていた倉庫の扉を閉めつつ立ち去った。
「フラムもご苦労だったね。……そうだ、何か菓子でも持って行くかい?」
「あ……いえ。先日ご用意頂いたものも、まだ残っているので」
エレナは、私たちが滞在するための部屋も――急拵えとは言っていたが――準備してくれていた。そこにはクッキーの詰め合わせなども用意されており、既に幾らか、ありがたく頂戴している。
「そうか。遠慮はしなくていいからね、小腹が空いたら、そこから自由に持っていきな。鍵は開けておくからさ」
エレナが倉庫の一角を指し示して言った。
――テーブルの上に様々な菓子の包装が並び、目に鮮やかな彩りの列を作り上げている。
「お気遣い、ありがとうございます」
「あんまり日持ちしないものもあるから、むしろ積極的に消費してもらえると助かるよ――ただ、食い過ぎにだけは気をつけるこったね」
エレナが笑みを見せて言うので、思わず私も笑った。
しかし、程なくしてその笑みは消え――エレナが静かに切り出す。
「……それで、さっきの話の続きになっちまうんだが――」
「……さっきの、というと」
「――ほら、アレだ」
エレナはばつが悪そうに。
「レウィンスのせいで、アンタたちが危険な目に遭った、ってやつだよ。……フラム、アンタに関しては……アタシが謝るべきことは、それだけじゃ済まない」
「……いえ、そんなことは――」
「いいや、少なくとも、アタシの気は済んでない」
苦しそうにすら見える表情で――しかし、強い意志が感じられる声で、エレナは言葉を繋いでいく。
「――フラム、アンタは――レウィンスの方針に従わざるを得ない状況に、長いこと置かれてたんだろう……? なら、苦悩や葛藤も、あったはずだ。……それが、アタシの過去の選択の、結果だってんなら……そんな重荷を不必要に背負わせちまったなら。アタシは、アンタが背負ってきたものを、ちゃんと理解した上で――アンタに謝って、できる限りの、最大限の助けになりたい。その義務があると思ってる」
エレナの手に、力が入るのが見えた。
「無理にとは言わない。だが、もし叶うなら、フラム――アンタがあの島で見てきたことを、過ごした日々のことを……アタシに教えてほしい。アタシは、それに向き合わなきゃいけないんだ」
……暫しの沈黙が流れる。
苦悩を抱えているのは、エレナだって同じはずだ。表情を見れば、それは明らかだった。
――そんなエレナに、私があの島で味わった全てを、ありのままに伝えることは――とても残酷なことなのではないかと、そう考えずにはいられない。
しかし。ここでもし私が答えをはぐらかしたり、優しい嘘を言ったりすれば――それは不誠実なことでもある。
……エレナも、それは望んでいないはずだった。
だから、私は。
「……わかりました」
自分の過去と、今ここにある思いを――しっかりと伝えることを、決心した。
「では、私があの島で見てきたことを、お話ししますね――少し長くなるかもしれないので、一度、座りませんか?」




