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迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第三章 - 迷宮管理者の暗躍
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迷宮管理者の暗躍 第五節

 三人で手分けすれば、ノルドが買ってきた大量の物資も、程なくして全て片付いた。


「ご苦労さん。助かったよ」


「報酬をもらってるんだ、むしろこのくらいは働かないとな」


 ……私たちが、資産のほとんどをヴェルラートに置いたまま逃げてきたことを伝えると、エレナは協力の対価だと言って、結構な額を提供してくれていたのだった。


「こちらとしても助かっています。いつまでもクランスさんのお財布を頼っているわけにはいかなかったので」


 なお、クランスからは――『魔城の迷宮を踏破したい』という我儘を聞いてもらったので、ここまでの貸しは全てチャラで、と言われていた。

 ……さすがにそれでは申し訳が立たないので、何かお礼はするつもりでいるのだが。


「……本来、協力者なんて望めなかったからね。それを思えば安いもんさ。……おっと、ただし賃上げには応じられないよ? アタシの資産にも限度がある。それと、これ以上の人員の追加も、原則ナシだ」


「わかってるさ」


 ――エレナの発言から、私には、また一つ新たな疑問が浮かんだ。


「……エレナさんは、私たちが現れなかったら、一人で計画を実行するつもりだったんですか?」


「そりゃあ、頼れる(つて)もないからね」

 さも当然とばかりに、エレナが答える。

「アンタらみたいな、腕が良くて信用もできる探索者が来てくれたのは、僥倖も僥倖だよ」


「……信用してもらえるのは嬉しいが。もう少し疑ってもいいんじゃないか」


「なに、万が一にも裏切られたら、その時は落とし前をつけさせるだけさ――アタシがしつこい女だってのは、もう知ってるだろう? 下手なことをすれば、次にこの執念が向く対象になるよ」


 ――少なくとも数年、もしかしたら十年以上――ヴェルラートで悪事を働くレウィンスを止めるために、準備を続けてきたエレナ。その執念深さたるや、言うに及ばずだ。


「……なるほど。まあ、それだけの理由があってこそ、だろうが……」

 僅かに逡巡するような様子を見せつつも、ノルドが続ける。

「――レウィンスに対して、そこまで執念を燃やす理由は何なんだ。因縁の一つもなければ、ここまでしないと思うが」


「……そうだねえ」


 エレナもまた、少し考えて――やがて、続けた。


「……これは、先に伝えるべきか、事が済んでからにするべきか、迷ってたんだが……やっぱり、先に伝えた方が誠実ってもんだろうね」


「――何か?」


「アタシは、アンタたちに謝らなきゃならない」


 ――急なことで困惑する私たちを、エレナは真っ直ぐに見据えて言う。


「アタシの身内のせいで――場合によっちゃ、アンタたちは命を落としてたかもしれなかった。全ては、あのクソ兄貴の狼藉と、それを今になっても止められずにいる、アタシの責任だ。――すまないね」


「……兄、だって? あのレウィンスが?」


「――ああ。少し歳が離れちゃいるが、実の兄だ。……最後に顔を合わせたのは、アタシがヴェルラートを離れた時だから、もう二十年近く前かね」


 苦虫を噛み潰したような顔をしたエレナの、短く切った金髪が揺れる。

 ――言われてみれば、その髪色は確かに、レウィンスのものと似ていた。


「……あの時、アタシは自分の手を汚してでも、あのクソ兄貴を始末しておくべきだった――そんな後悔をずっと抱えてきたんだ。今となっちゃ遅すぎるのは理解してるが、それでも、責任は果たさないとね」


「……つまり、レウィンスに対しての恨みというよりは、責任感で行動している、と?」


「恨みが全くないってわけでもないが、そんなところだ。――アタシのことも糾弾したいかもしれないが、この一件が片付くまでは待ってほしい」


「そんな、糾弾だなんて――悪いのはレウィンスであって、エレナさんじゃありません」


「……それに、あんたに何かあったら、レーデの面倒は誰が見るんだ。俺たちはやらないぞ」


 と、ノルドも少し冗談めかして、エレナに言った。


「――しかし、レウィンスの方針を快く思っていない連中は、どう考えてるかね……それこそ、アタシを恨んでる奴がいたっておかしくはない」


「そういう人がいたら、私たちが説得します。エレナさんが長い時間と労力を掛けて準備してきたことを、きっちり説明して!」


「……ありがとう。頼もしいね」


 いつになく静かな声で――安心したように、エレナが感謝の言葉を述べた。


「――しかし驚いたな。まさか、レウィンスと兄妹とは」


「……へえ、そんなに意外だったかい?」


「可能性を考えなかったわけじゃないが……とても、そんな歳には見えなかったからな」


「なんだ、お世辞が上手いじゃないか……こう見えても、五十は超えてるんだがね。――あるいは、あのクソ兄貴の方が、年齢以上に老け込んだのか」


「……エレナさん。よろしければ後程、普段どういうスキンケアをしているかお教え頂いても?」


「ん……別に構わないが。大したことはしてないよ?」


 私の目には――エレナはとても五十代には見えなかった。せいぜい四十代、なんなら三十代にも見えるほど若々しい。これは是非とも、その秘訣を訊いておかなければ。


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