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迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第三章 - 迷宮管理者の暗躍
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迷宮管理者の暗躍 第四節

 作業を一度中断して――エレナが眼鏡の位置を直しながら、言葉を続ける。


「アタシが魔城の迷宮に留まっている理由の一つは、知っての通り……財宝の迷宮を乗っ取る、その計画上――必要不可欠だからだ」


 それについては、おおよその説明を受けていた。

 この迷宮から、海峡を挟んだ財宝の迷宮まで魔力回路を繋ぎ、その管理権限を丸ごと乗っ取る――というのが、エレナの計画であると。


 そして、その計画を遂行するためには、迷宮の設備とリソースが欠かせない。

 ……厳密には、条件さえ満たせるのなら――迷宮以外の設備でも実行は可能らしい。ただし、膨大な術式を実行できるような、高い処理能力を備えた設備と、莫大な魔力リソースが必要なので……迷宮以外でそれらの条件を満たせるのは、せいぜいメイネス・エン・ヴェーダ社の研究所を、丸ごと貸し切りにした場合くらいだろう――と、エレナは言っていた。

 つまり、事実上は――迷宮でしか実行不可能な計画というわけだった。


「だけど、他にもこの迷宮にこだわる理由があってね。……そうだ、せっかくなら当ててもらおうか。どうして、エントランスを観光名所に仕上げたと思う?」


 エレナが笑みを浮かべながら、私たちに問うた。どんな回答をするのかと、愉しみにしているのが明白な顔だ。


「……そもそも、ここが観光地扱いを受けてるのは、あんたの目論見通りだったのか」


「ああ。ここまで上手くいくとは思ってなかったけどね」


 ノルドとエレナのやり取りを聞きながら、私も考えを巡らせてみる。


「うーん……探索者を、なるべく穏便に追い返すため……いえ、それじゃエントランスを素通りされるだけですよね……」


「……経済効果を生み出すため、か」


 結論を出せない私の横で、ノルドが先に回答してしまった。


「――さすが、冴えて……いや、そうだった。アンタは『インチキ』できるんだったな?」


「……まあな」


「むぅ。こんな時まで相変わらずズルいですね、ノルドさんは」


 例の遺物の効果について、ここぞとばかりに不平をぶつけてみる。

 私が借り受けた『禍除けの八芒星』は、『不運や災難を避ける』ことに特化した遺物なので、『第六感の結晶飾り』と違い、このような場合にはほとんど無意味なのだった。


「身に着けてたら勝手に効果が出るからな。仕方ないだろう」


「……まったく、アンタの前じゃ、隠し事をするのも苦労しそうだね。なあ、フラム?」


「ええ、本当に。乙女に秘密はつきものですのに」


 ――ノルドは一瞬、何か言いたげだったが、それに先んじてエレナが話を続けた。


「さて、話を戻そう。……迷宮がなくなれば、碌な産業も、観光地もないヴェルラートを訪れる者は減り、経済が回らなくなる――そう考えて、レウィンスは迷宮を強引に存続させ……挙句、悪名が轟くほど危険な場所に仕上げやがった」


 エレナの顔からは、先程までの笑みは消えていた。


「アタシは、そのやり方が間違いだと――人を食い物にするようなやり方をしなくたって、経済を回せると――証明したかったのさ。だから、この迷宮のエントランスを幻影で飾って、観光地に仕立てたんだ」


「……つまり、単にレウィンスのやり方を否定するだけじゃなく、模範解答まで用意したわけか。何というか、律儀だな、あんたも」


「まあ、そうすればトラルウィクに住んでる連中のためにもなるからね。……それに、この場所を『ちゃんとした迷宮』として存続させようとするより、今の形にする方が、よっぽど低コストだった。探索者の迎撃に割くリソースも、最低限で済む」


 ……エレナの発言を受けて、私はこの迷宮を下りてきた道中のことを思い返す。

 最深部付近を除いて、とても少なかった敵の物量と――探索者をほぼ確実に地上へ送り返すための、三択の扉。

 考えてみれば、リソースを多く注ぎ込まれているのは、ほとんど最深部付近だけだ。


「……って、あれは探索者への優しさじゃなくて、コストカットのためだったんですか?」


「そりゃあ、危険を減らすって意図もなくはないよ。迷宮で負傷するような輩を減らせて……アタシはその裏で、迷宮の設備とリソースを贅沢に使い、個人的な研究とか、趣味に没頭できる。いいこと尽くめだろ? なら、やらない理由がない」


 ……エレナの笑みが、ちょっと悪どい。


「……あれこれ理由をつけて、実はここを自分のラボにしたかっただけなんじゃないのか?」


「計画を進めるうちに欲が出たってのは、否定しないがね。とはいえ――こんな事業を一人で、報酬もナシに運営してるんだ。そのくらいの見返りはあっても、バチは当たらないと思うが?」


「……一理あるな。(よこしま)な研究をしていなければ、だが」


「アタシが邪な研究をしてそうに見えるかい?」


「――見えないし、していないのもわかってる」


「……ホント、おっかない遺物だね。アンタのそれは」


 エレナが眉を顰めるが、ノルドはただ微笑を浮かべているだけだった。


「まあ、話をまとめると、だ。この迷宮は計画に必要なものであり、そしてトラルウィクの経済にも貢献している。ついでに、アタシの私的な研究開発にももってこいだ。……それと、今は他にも理由が増えたね」


「――レーデさんのことですか」


「……ああ。レーデは、これまでの人生の半分近くを、ここで過ごしてることになる……第二の故郷、と言っても過言じゃないからね」

 エレナが部屋の天井を見上げる。その瞳に、ゆっくりと回転するシーリングファンの幻影が映った。

「アタシは、レーデのためなら喜んでこの場所を捨てられるが――もし、レーデがここを離れたくないなら、その思いを汲んでやらないわけにはいかない。……せめて、幻影のひとつくらいは切り取って、次のねぐらまで持っていかないとね」


 まだテーブルの上に残っていた品々のいくつかを手に取ってから――エレナが再び、こちらへと視線を向ける。


「――さて、すっかり手が止まっちまってた。悪いが、もう少し手伝ってもらえるかい?」


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