魔城の主 第八節
――転送魔法の、薄い紫色を帯びた光が消える。
「……あれ、ここは?」
フラムが辺りを見回しているのが、その言葉と、気配でわかった。
先程の、巨大兵器が鎮座していた部屋に比べると薄暗く――どうしても、目が慣れるのには時間を要する。
「……地上ではないよな。こんな場所じゃなかったはずだ」
ノルドの声を聞きながら、僕は無窮の書を使って、周囲の状況と――座標を確認した。
だんだんと目も慣れてきて、その空間の構造や外観が、肉眼でもわかってくる。
……迷宮にありがちな、石造りの無骨な部屋だった。
しかし、明らかに異質なのは――様々な装置やモニターが並び、それらがこの空間に、控えめな明かりを投げかけていること。
床には大量のケーブル類がのたくっており、薄暗さも相まって、気をつけないと躓いてしまいそうだ。
「……なんか、迷宮の通路というよりは……管理者用の隠し通路に似てる気がしますね」
少し後ろで、フラムがそんな感想を口にした。
「そりゃそうさ。管理者の領域なんだからね」
――その声は、前方の暗闇から。
複数のモニターが並んだ机の向こうに、誰かが座っている――ノルドが警戒し、背負った剣に手を伸ばした。
「おっと、もうやり合うつもりはないよ。……まあ、この暗さなら警戒もするか」
そんな言葉に続けて、視界がぱっと明るくなった――暗さに順応してきていた目には眩しく、僕は思わず手で陰をつくる。
その眩しさに耐え、前方を見ると――丁度、声の主が立ち上がったところだった。
金のショートヘアに、眼鏡を掛けたその女性が、さらに言う。
「とりあえずついてきな、探索者。――歓迎しようじゃないか」
そして、部屋の左奥にある扉を開けて、その向こうへと消えてしまった。
――現状すら把握できていないうちに、そんなことが起こったので――フラムはやや混乱気味のようにも見えた。
ノルドも困惑している様子だが、剣に伸ばしかけた手を下ろすと。
「……敵意はない。念のため、警戒はしておくが」
そう言って――ゆっくりと、先陣を切って歩き出した。フラムも心配そうな様子だが、それに続いていく。
僕は、一番後ろを……周辺をスキャンしつつ、しかし遅れすぎないようにその後を追った。
扉を抜けた先は、再び、城の幻影が施された空間になっていた。通路が左右に長く続いているが――
「こっちだ。あんまり待たせるんじゃないよ」
左側の通路奥から、こちらを急かす大きな声。
……ノルドを先頭に歩き出したのを確認すると、その女性が通路右側の扉を開けて、部屋に入った。
僕はスキャンを続けるが――罠の一つも検出せず。
何事もなく次の扉まで歩き、ノルドが、先程女性が入った扉を開けた。
……その部屋は、三十九階で休憩した談話室(僕らが勝手にそう呼んでいるだけだが)にも、少し似ているが――こちらは大きな長テーブルが中央に一つと、その周囲に椅子が何脚か設えられていた。
会議室か応接室か――『城』であることを踏まえれば、あるいは貴賓室かもしれない。
長テーブルの一番奥、短辺側の中央に、件の女性が座っていた。
――そこは上座では、とも思ったが――そもそも彼女にとって、僕たちは招かれざる客だろう。席が用意されているだけでも感謝すべきところだ。
「適当に座ってくれ」
腕組みして座ったまま、その女性が促す。
互いに目配せしながら――僕は入口から最も近い席に座った。フラムは僕の対面、ノルドその隣へ。
「――さて」
三人がそれぞれ席に着いたのを確認すると、溜息混じりに――眼鏡を直してから、女性が話を始めた。
「挨拶が遅れたね……アタシはエレナ。魔城の迷宮の主――なんて言えば、聞こえはいいかもしれないが。放棄された迷宮を不法占拠してるだけの、元研究者……兼、技術者だ」




