魔城の主 第六節
それからも、主にノルドの話を聞きながら――僕たちは暫し、快適な休息の時を過ごした。
……ノルドは探索者として迷宮を踏破するだけでなく、この世界で発生する問題を、可能な限り解決することも目的としているらしい。
むしろ、迷宮踏破はその一環と言った方が正しいかもしれない、とも言っていた。
彼が悪鬼の迷宮を踏破した後、財宝の迷宮へ向かったのは、迷宮を踏破するついでに、装備と資金を充実させたいという目的もあったという。
「……結果的には、資金も装備もほとんど充実しなかったわけだが。それよりは、表沙汰になっていない、解決すべき問題を見つけられたことの方が収穫だな」
「ふーん。つまり私のことは些事に過ぎなかったと」
「……フラムの脱出も手助けできたしな」
フラムが唇を尖らせるので、ノルドがそう付け加えた。
「さて、それじゃそろそろ、再出発といくか……クランス、茶と菓子をありがとう」
「いえいえ、お口に合ったなら何よりです」
僕が三人分の食器を手元に引き寄せて、再び異空間へと収納していると。
「クランスさん、あのお菓子はどこで購入されたんですか? とても美味しかったので、よければお店を教えていただきたいです!」
と、フラムが興味津々に訊いてきた。
「ああ、あれは……今朝、朝食のついでに買ったんです。後で、地図を見せながらお教えしますね」
談話室――僕たちが勝手に、そう呼んでいるだけだが――には、最初に入ってきた扉を含め、四方にそれぞれ一つずつ扉があった。
つまりここでも、先に進むための扉は三択、というわけだ。
「……正面だな」
ノルドがそう言って、入口の対角に位置する扉へと向かうので、僕とフラムも後に続く。
――扉が開くと、その先はいつもと変わらぬ、城の通路がまた伸びていた。
脇道はなく、少し先にまた扉がある。
「いよいよ、ここの主の方とご対面ですかね」
通路を進みながら、緊張感はありつつも、どこか楽しそうに言うフラム。
「どうせ、そう簡単には出てこないだろうがな……とっておきの防衛機構の一つや二つ――」
――ノルドがそこまで言った時、不意に周囲の景色が揺らいだ。
豪奢な城の内装を映していた幻影がぼやけ、薄くなり……瞬く間に、ひどく殺風景な石の壁へと変貌する。
「……外見を取り繕う余裕もなくなったか」
石の壁に埋め込まれた、青白い照明の光に照らされながら――ノルドが呆れ気味に言った。
「……あるいは、警告の意味もあるのかもしれませんね。この先――扉の向こうに、明らかに異常な反応があります」
先んじてスキャンした情報には、かなり大きい魔力の反応があった。
……ここまで来て、単に魔力を貯蔵しているだけ、などということはあるまい。
先行しているスフィラからは既に情報を受け取っており、休憩の間に確認を済ませたのだが……四十階で待ち受けているものに関しては、『初めて見た時の驚きが減るのはもったいない』という、気を遣ったのか、それともふざけているのかわからないような理由で伏せられていた。
……とはいえ、非常に危険なものであるなら、いかに変人上司のスフィラといえど、情報を伏せたりはしないはず。
つまり、四十階にある『何か』は、情報がなくても十分対処できる程度のもの、と考えて差し支えないだろう。……多分。
「……わかってると思うが、いつでも戦闘に移れるようにな」
ノルドの念押しに、僕もフラムも頷き返す。
幻影が解かれた通路は――よく見ると、それが解かれる前に比べ、幅が広く、天井も高くなっていた。
通路の最奥には重々しい大扉。……まるで、通路を扉の大きさに合わせて作ったようにも見えた。
そして、ノルドがその扉を押し開ける。
緩やかに動き始めた扉は、徐々にその勢いを増して、探索者たちに道を開けた。
――その奥へ数歩、踏み入ってみるものの――目の前には、ただ闇が広がっているばかり。
幻影が消えたあとの通路は薄暗いので、そこからの光はほとんど届いていない。
その闇を前にして――ノルドが氷剣を抜き、フラムが宝石を手に取り、僕が闇の向こうを見据える。と――
――闇の中に、小さな青い光が、ゆっくりと灯った。
その光は一つではなく、無数に――まるで夜空の星々のように現れていく。
それに続けて、遠くの壁と天井に次々と、明るい白色の照明が、規則的な間隔で灯り始めた。
……同時に、僕たちの後方では大扉が軋んで、ひとりでに閉じていく。
――扉が完全に閉まる頃には、この空間全体を把握するのに十分、いっそ眩しいほどの光量が確保されており。
「……これは……」
フラムが息を呑んだ。ノルドも同様。
――二人の一歩後ろ、僕だけは、少し違うことを考えていたかもしれない。
……先程確認した偵察情報のこと――そして、さらにその前、地上調査を始めてすぐの時に、冗談めかして上司が言っていた言葉のことを。
『さすがに超大型戦略ロボット兵器とか出てきたら、私も度肝を抜かれるけどね――』
……得心がいった。つまり、これを見て『度肝を抜かれ』たのだ、あの変態上司は。




