表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第一章 - 迷宮管理者の地上紀行
13/47

迷宮管理者の地上紀行 第六節

「思ったよりスムーズでしたね」


 迷宮への転送陣を通り抜けてすぐ、フラムがそう言った。


 ――オンターと話した後、三人で歩きながら、一階に寄るか否かを相談した結果――僕とノルドはどちらでも構わず、フラムは折角なので見ておきたい、という意見だった。

 ゆえに、僕たちが転移した先は、『魔城の迷宮』の一階。


 地上の転送陣の前には待機列というほどのものもなく、特に滞りなく転送までを終えることができた。

 ……諸々の手続きや支払いなどで、受付が最も混雑するのかもしれない。


 転送された先は石造りの、重厚だが飾り気のない部屋だった。それなりの広さがあり、部屋の反対側には開け放たれた大扉がある。

 さらにその先には、遠くまで伸びる石の橋と――青空のようなものが顔を覗かせていた。


「おぉ……噂には聞いてたんですが、本当に空が……?」


 フラムが我先にと、小走りで扉の方へと向かった。

 ――よく見れば、この部屋の窓からも日光が差し込んでいる。

 迷宮というのは、ある程度深い地下にしか存在しないため、そのようなことは、本来あり得ないのだが――。


 駆けていったフラム、そして前を歩くノルドに続き……僕も大扉をくぐる。


 ――幅のある石橋の上に、満遍なく――暖かな陽光が降り注いでいた。

 見渡す限りの快晴に、空の青を映し返す広大な湖、遠くの山々の稜線……そして、石橋が続く先に高く聳える、荘厳な巨城。

 まるで一枚の絵画を、現実に還元したかのような光景だった。


「これは……観光名所になるのも納得ですね」


 それが地下空間に投影された幻影だとわかっていても、思わず息を呑んでしまう。

 あるいは、幻影だからこその、完成された美しさなのかもしれないが……絶景であることに変わりはない。


「……こんな迷宮もあるんだな」


 先を歩くノルドの表情は見えないが、その声は穏やかに聞こえた。

 ――前方から、フラムが興奮を隠せない様子で戻ってくる。


「いいですね、ああいうお城! 一日でいいから住んでみたいなぁ」


「幻だけどな、あれ」


「いえ、そういう話をしているのではなく。憧れません? お城暮らし」


「無駄に広いのは却って面倒だ。掃除の手間が増える」


「そこは、メイドと執事を雇う方向で」


 と、自らメイド服を着込んでいるフラムが言ってのける。メイドから城主へのランクアップは中々に難しそうだ……と思ったが、そもそもフラムはメイドではなく探索者だった。


「……そういえば、フラムさんはなんでメイド服を?」


「ああ、これは趣味です」


 そう言うとフラムが恭しく、かつ優雅に一礼してみせた。



 三人で暫し雑談に興じながら、人の流れに乗って歩いていく。

 湖の上に渡されたその橋は、途中で右に角度を変え、城門へと続いているようだった。

 ……ふと、僕はシンプルな疑問を口にしてみる。


「内部まで見学できるんですかね、これ」


「そうみたいですよ。この橋と、庭園と、城の一階部分まで合わせて『魔城の迷宮・一階』、だそうです。ついでに、三階くらいまでは全く敵が出ないんだとか」


 ……と、フラムが案内の書かれた紙片の内容を読み上げた。いつの間にそんなものを。


「なるほど、オンターが言ってた通りの――」


 ノルドが急に言葉を切って、立ち止まった。


 その視線が右を向いているので、僕もその方向を見てみるが――そこには誰もいなかった。

 目を凝らしてみても、何も落ちていないし、浮いてもいない。橋の欄干と、その向こうに景色が広がっているばかりだ。


「どうかしましたか……?」


「気配……いや、視線だな」

 ノルドが腑に落ちないといった表情で答えた。

「……隠蔽された監視装置か何かか……?」


 ――ノルドが所持している遺物については、既に説明を受けている。

 おそらく、彼が持つ『第六感の結晶飾り』の効果で、視線を察知したのだろうと予想できた。


「……幻影に隠れて何者かが視ている、と?」


「おそらく、そんなところだと思うが……敵意は感じなかった。ひとまずは放っておいても大丈夫だろう」


「周りにこれだけ人がいると、下手に仕掛けるわけにもいきませんからね」

 フラムもそう言って、うんうんと頷いてみせる。

「そもそも、何かしたところで、他に情報が得られるとも限りませんし」


「ああ。気にはなるが、今は様子見だな」


「もしかしたら、この迷宮の主が平和主義な方で、我々が長閑に観光する様子を陰から見てニマニマしているとか」


「……いくらなんでもそれは……いや、一階(エントランス)をこんなことにしているような奴なら、あり得るのか……?」


 そんな二人の会話を聞きながら――僕は自らの視覚に、こっそりと新たな視界を重ねる。


 壮麗な幻影が消え、その向こう側――迷宮本来の構造と、そこに立つ『何者か』の姿を。

 僕だけが、誰にも悟られないように見透かした。



 橋を渡りきり、城門をくぐり、庭園を抜けて。


「すごーい! 天井たかーい! きらびやかー!」


 ……と、普段の落ち着きが完全にどこかへ行ってしまったフラムを先頭に、城の内部を歩いていく。


 確かに、豪華なシャンデリアや、鮮やかなステンドグラス、壁面から天井にまで施された緻密な装飾、それらに合うよう設計された家具類……外の絶景も素晴らしいものだったが、こちらは人工物の美を追求したかのような、至上の空間だ。


 ただ――説明の難しい、僅かな違和感も同時に存在した。

 ……それは、あるいは迷宮であるがゆえに、壁や天井の繋ぎ目が不自然であるとか、切り貼りしたかのように反復する光景とか――そういうものが原因なのかもしれなかった。

 そして、その違和感が、『ここが迷宮である』という事実を、脳裏に留めさせていた。


「クランス。体力の方は大丈夫そうか」


 後方からノルドが問うてくる。


「ええ、まだまだ平気です。景色が開放的なので、普段より気疲れしなくていいかもしれません」


「そうか」

 ノルドが満足げに微笑んだ。

「細身だから心配したが、伊達にランクⅣを取ってないな。……どちらかといえば、フラムの方が怪しいか……」


「……結構、はしゃいでましたからね……」


 僕とノルドの数歩先を行くメイド姿の探索者は、今はまだ足取り軽やかに魔城を見学している。


「まあ、ヴェルラートを脱出した時に比べれば、か……疲れが残っていないといいが」


「……無理はせずにいきましょう。危険度の低い迷宮とはいえ、何があるかわかりませんし。焦ってもいいことはありませんから」


「そうだな。……だが、観光はそろそろ切り上げてもいいだろう」


 そう言うと、ノルドが歩を早めて、興奮冷めやらぬフラムを連れ戻しに行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ