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迷宮管理者の掟  作者: 鶴燈
第一章 - 迷宮管理者の地上紀行
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迷宮管理者の地上紀行 第五節

「迷宮まで出向くのが面倒なら、こちらは組手でもいいが……どうする?」


 短い食事を終え、いざ探索受付へ向かおうかというところで――ノルドがそう訊いてきた。

 ……ある程度話してみてわかったことだが、彼は表情の変化が乏しいので――それが冗談なのか本気なのか、正直、判断が難しい。

 果たして真に受けていいものかと、言葉を返せずにいると――。


「いやいや、さすがに止めときましょうノルドさん? 喧嘩やら決闘やらと誤解されて騒ぎになったら、まずいどころの話で済むかどうか……」


「……それもそうか」


 フラムが間に入ってくれたおかげで、返答の必要はなくなった。

 ……どうやら、本気で手合わせをしてもいいと思っていたようだ。

 僕としても、手合わせすること自体は構わないが……フラムの言う通り、派手なことをするのは控えた方がいいだろう。


 食事の間に聞いた話によれば、二人は一昨夜にヴェルラートを脱出したばかりなのだという。

 それも、二人を脱出させまいとするヴェルラートの追撃部隊に対し、深夜の街で大立ち回りを演じた上……最終的には、奥の手として準備していた遺物『黒龍の魂』を使い、フラム自ら龍種に転身、ノルドを背に乗せて海を渡ったというのだから驚いた。


 ……そうして脱出した二人に対し、ヴェルラート側が何の行動も起こさないとは限らない。

 表立っての追跡や指名手配などは、異国の地であるがゆえに難しいかもしれないが……刺客を送り込んでくるといった可能性は、十分に考えられる。

 万全を期すなら、この二人はそれこそ偽名を使い、顔も隠しておくべきだと思うのだが……そこまではしないにしても、目立つ行動は可能な限り避けるべきだ。公の場で組手など、以ての外である。


「じゃ、『魔城の迷宮』とやらに向かうとするか……さっきの受付で合ってるんだよな」


「そのはずです」


 ノルドがわざわざ再確認したのは、ここの受付が二箇所に分かれているためだ。

 一つはオンターがいる、僕もノルドたちも一度利用した受付。

 ……もう一つは、そこから少し離れた位置にある、より大きめの受付だ。

 オンターのところにはしっかり『探索受付』と書いてあったはずなので、少なくとも探索の申請ができないということはないはず。


 受付へ向かって歩く途中で、件の大きい受付に書かれた表示も見えた。……『観光受付』。迷宮で観光とは、これいかに……。しかも、それなりに人が並んでいる。


 ……対照的に、閑古鳥が鳴いているといっても差し支えない、探索受付の前まで来ると――こちらが声をかける前に、オンターが気づいた。


「おや、どうかしたかい?」


「度々すまない。探索の申請に来た」


「――早速だね」

 ノルドの返答を聞いて、オンターは嬉しそうな笑みを見せた。

「メンバーは……三人でいいのかな?」


「はい、三人で」


 ――スフィラの名前を出されないように祈りつつ、僕はノルドより先に、そう答えた。


「……それで、ある程度倒しがいのある敵が出る階層に向かいたいんだが。情報はあるだろうか」


「――合わせて、それなりの実入りも望めると、大変助かります」


 ノルドの注文に、フラムが抜け目なく補足する。対するオンターは……何とも言えない、微妙な表情だ。


「そうか……うーん。それなら三十階への転送がおすすめだけど……あまり期待はしない方がいいね……」


「……そんなに『安全』なんですか? ここの迷宮……」


「……うん、『魔城の迷宮』の危険度が最低ランクなのは知っての通りだけど、安全さという意味では、その中でも折り紙付きと言っていい」

 オンターが、もう一つの受付の方を見遣る。

「……おかげで、最初のフロアはすっかり観光名所として受け入れられたわけなんだけど……観光客が増えたらその分、探索者が減ったような状態でね。今日の探索受付は比較的、忙しい方だったよ」


 その言葉は、彼を忙しくさせた三人の探索者たちへの当てつけではなく――むしろ、本来の仕事ができたことへの満足を含んでいるようだった。


「先を急がないなら、三十階へ行く前に一階を見ていくといい。……まあ、単なる幻影に過ぎないわけだけど、良い景色であることに変わりはないからね。探索のついでなら、入場料も取られないことだし」


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