お医者様に救われたら、なんか家族になってたお話
「この子には自然派治療が一番良いんです!白魔術なんて要りません!魔法での治療なんて、信用なりません!副作用で寿命が縮みます!」
「魔法での治療で寿命が縮んだ例は確認されていないよ。そもそもその娘、今にも死にそうになってるのに助けなくて良いの?」
「これは好転反応です!」
お母さん、ごめんなさい。
お母さんが正しいのに、治らない悪い子でごめんなさい。
「…お嬢さん、喋れるかな」
「その子に近寄らないで!」
「触ってない。魔法もまだ使ってない。問題はないはずだよ」
お母さん、ごめんなさい。
怒らないで。
「さて、喋れないみたいだし…質問に頷くか首を振って答えてくれるかな?」
…いいのかな。
お母さん、怒ってるのに。
ダメだよね。
「…お願い。今だけ、僕に君を助けさせて」
…いいの、かな。
(こくり)
「良い子。お熱は高いんだよね?」
(こくり)
「それは好転反応です!」
「…お母さんのことは、今だけ気にしないで」
お医者様は懇願するように言うから、お母さんの言うことを聞かないのは悪い子だけど…気にしないことにする。
だって…死にたくないよ。
「下痢は?かなり酷いかな」
(こくり)
「やっぱり流行病かな…食欲はあるかな?」
(ふるふる)
「それも好転反応です!いい加減にして!」
お母さんの方に視線を移すけど、お医者様が私を呼ぶ。
「お嬢さん、今はこっち。飲まず食わずなのかな?」
(こくん)
「どのくらい?」
指を一本立てたら、お医者様は険しい顔をした。
「そっか…よく頑張ったね」
(ふるふる)
「いいや、君はよく頑張ってる。喉の痛みは?」
(ふるふる)
「痰や鼻水は?」
(ふるふる)
お医者様は助手さん?を呼んだ。
助手さんは、お母さんを押さえつけた。
「な、なにするの!」
「申し訳ありませんが、娘さんを治療させていただきます」
「や、やめて!娘の寿命を縮めないで!」
「ここで治療しないと死ぬって言ってんですよ!バカ!」
お母さんが心配だったけど、先生を見れば頷いてくれた。
「大丈夫、酷いことはしないよ。お嬢さん、白魔術で流行病を治療していいかな。もう、治療魔法は開発されてるからすぐ治せるよ。まあ、治して回るたびに感染のスピードが速くていつも後手に回ってるけど…とにかく、助けられる」
こくりと頷くと、胸元にお医者様の手が当てられる。
お医者様の手元が光ると、身体が少し楽になった。
「お熱も下痢もこれですぐ治るはず。食欲も戻ってきたよね?」
そういえば、お腹が空いた。
「お嬢さん、これを飲んでくれるかな?僕が作った水分補給用の特別なジュースだよ」
ごくごく飲む。すごく美味しい。
「…ああ、これがそんなに美味しいなんて。本当に限界だったんだね」
どういう意味だろう。
「よし、飲めたね。じゃあ次にこのゼリーを食べて。これも僕のお手製で、手軽に栄養を補給できるよ」
ジュルジュル食べる…というか飲む。美味しい。
「よし。とりあえずこれでマシかな」
お医者様のジュースのおかげか、身体が少し楽になった気がする。
「ふふ、楽になったよね?ジュースとゼリーにも体力回復の魔法がかかってるからね。でも少し眠くなっただろう?」
こくりと頷く。眠い。
「治療のために、よく眠れる魔法もかかってるからね。ゆっくりおやすみ」
眠気に負けて、目をつぶった。
「…あれ?」
たくさん天井に穴が空いてるはずなのに、綺麗な白い天井。
薄いお布団のはずなのに、ふかふかのお布団。
ここは天国?
「おはよう」
「あ、お医者様」
「ごめんね、あの後結局君を保護することになったんだ」
「?」
「お母さんがね、白魔術を使ったから君の寿命が縮んだって。弱る君を見たくないから責任持って僕たちに育てろって」
…ああ。
お母さんに見捨てられたのか。
悲しいはずなのに、妙に納得している自分がいる。
「…余計なことをしてごめん。でも、その分君を幸せにできるよう頑張るから」
「えっと…」
「とりあえず、もう流行病は治ってるし栄養失調も良くなったはずだよ。胃の調子も治ってるはずだし、お粥を作ってきたから食べられるかな?」
こくりと頷く。
お粥は、とても美味しかった。
結局のところ、私はお医者様…お父さんの娘になった。
…らしい。
戸籍がどうとか言われてもイマイチわからない。
でも、正式に娘だって。
お父さんの助手さんは、お父さんと親子になってないけど大体は私と同じような境遇だったらしい。師匠の娘さん、と言ってお兄ちゃんのように接してくれる。
「お父さん、文字の練習頑張ったよ!」
「うんうん、読み書きもだいぶ覚えたねぇ!さすがは僕の自慢の娘!」
実際のところ、私は貧しい村の物乞いの娘という境遇だったらしい。そしてお母さんはどうも、治療費を払わないために自然派治療を選択したと思われるらしい。私をお父さんに押し付けたのも、寿命どうこうは建前で治療費を払わないためとか。
それが良いか悪いかはよくわからない。だってお母さんだって、生きていくためだもの。実際、お父さんに引き取られて結果私は幸せだ。良い方に考えれば、そのために私を手放したのかも…なんて。
そのあたりの事情は、お父さんの周りの人に可哀想な子だと言われて徐々に徐々になんとなく理解した。生きていくのに必死でそんなことも知らなかった、気付いていなかった。
お父さんとお兄ちゃんは、いつもそんな周りの人に怒っていたけど事実だから仕方がない。むしろ教えてくれて感謝。
だって、今がどれだけ恵まれているかわかるからね。
「お兄ちゃんはお父さんの後継さんになるんだよね?」
「そうですよ」
「じゃあ、私とお兄ちゃんは結婚するの?」
「ん?」
「後継さんって、そうじゃないの?婿養子さん?」
お父さんはおやと笑う。お兄ちゃんはどこでそんな半端な知識をと困惑している。
「近所のおばちゃんが言ってたよ」
「あとで旦那さんにクレーム入れてきます」
「まあまあ、いいじゃないか!僕は応援するよ?」
「師匠!」
「私はお兄ちゃんと結婚したいよ?」
私が言えばお兄ちゃんは目を丸くする。
「結婚って好きな人同士でするんでしょ?いいよ?」
「また半端な知識を身につけて…」
「あはは。まさかお前が義理の息子になるとは」
「師匠!」
「お兄ちゃんは…やなの?」
ちょっと悲しくてそう聞けば、お兄ちゃんは慌てた様子で否定する。
「いえ!まさか!嬉しいですよ!でも結婚というのはその…」
「やなの?」
「いえいえ嬉しいです!」
「じゃあ結婚する?」
「…君が大人になってもそう聞いてくれるなら」
困ったように笑うお兄ちゃんがそう言うので、大人になったらまた聞こうと心に決める。
お父さんはそれをニコニコして見てた。
なんとなく、幸せだなぁとぼんやり思った。
【連載版】侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
という連載をしています。よかったら読んでいってください!