第98話 クチノッタ島5
「これで終わりだ!」
「ぎえぇぇええ!!」
時を同じくして、魔術師もジャクリーヌによって討ち取られた。
勇者とシモンが、ジャクリーヌの元に駆け寄る。
「お主らもやったようじゃのう!」
「ああ、イザベルと連携してな!」
少し離れた位置から、イザベルが勝利のVサインを出している。
「しかしまだ、ヤツは息があるようじゃぞ」
倒れていた魔術師は、ゆっくりと顔を上げこちらを睨みつけた。
「貴様ら、よくもやってくれたな。その薬師をそそのかし商会を乗っ取り、魔王軍四天王になる計画は失敗したが、貴様らも道連れにしてやる」
魔術師は、首からペンダントを引きちぎり掲げた。
「いけません! 皆さん、それを止めてください!」
「もう遅い!」
ロレンツォがなにかに気づき叫んだが、そのペンダントの石は赤い光を強く放った。
「洞窟の前に、100体の魔物を召喚した。疲れ切った貴様らに勝ち目など無いはずだ……ぐふっ……」
魔術師はそう言うと、力尽きてしまった。
「それは召喚のペンダントだったようですね。もっと早くに気づくべきでした」
「今更言っても遅かろうて。ワシらは100体の魔物を倒して、ここから脱出する以外無いんじゃからのう! じゃが、ワシはもうほとんど魔法を打つことができぬ」
「あたしも、魔法の力はすっからかんよ。回復魔法はあまり期待しないでね」
「大丈夫だ! ワタシとニコラちゃんだけでもなんとかするさ!」
「うん! ボク頑張る!」
元気に振る舞う勇者とジャクリーヌであったが、2人とも膝が小刻みに震えており、体力の限界が近いことは明白であった。
ドドドド、外からもの凄い音を立てながら足音が迫ってくる。勇者たちは最後の力を振り絞るようにして、敵の大群を待ち構える。
「来たぞ! 気合を入れろ!」
「任せて!」
勇者とジャクリーヌが剣を構える。
「あんたら、加勢に来たぞ! 敵はどこさ?」
「ぬおー! 野郎ども! 一気に蹴散らすぞー! ……ってアレ?」
足音の正体は100体の魔物ではなく、アンホルトと副船長が率いる、海賊たちであった。
「アンホルト船長、なぜここに?」
「いや、副船長のヤツが魔法が打ち上げられたというから、加勢にやってきたのさ。あたいたち、間違ったのかい?」
どうやら、雷の魔法を合図だと勘違いしやってきたようだ。
「洞窟の前に、魔物の大群がおらんかったかのう?」
「ミノタウロスなんかのデカい魔物がうようよいたが、後ろががら空きだったからな! 不意打ちでやっつけてきたところだよ! 不意打ちは海賊の専売特許みたいなものだからな!」
副船長はテンションが上っているらしく、鼻息を荒くしながらそう言った。
「ということは、今度こそ本当にワタシたちの勝利だな!」
『やったー!』
勇者たちは手をつなぎ、輪を作ってクルクルと回り始めた。
「よくわからんが、あたいたちは勝ったみたいだね! 野郎ども! こいつらを胴上げしながら船に戻るよ!」
『アイアイサー!』
勇者たちは海賊たちに胴上げされながら、船に戻っていった。
「あれ? いつの間にか夜が明けてたみたいね!」
「ワシら、長い間戦っておったんじゃのう!」
「早く風呂に入って、ニコラちゃんとリアの旨い飯を食いたいな!」
「帰ったらすぐに作るね!」
胴上げされたまま、空中で器用に会話をする勇者たち。
「皆様、無事に戻られたのですね」
「あっ! リアの声だ!」
浜辺の桟橋に着くと、リアが待っていた。リアは薬師フランコの転送を封じるだけではなく、転送の魔術具の仕組みの解明にも成功しており、ジンドルフの村とクチノッタ島を行き来できる装置の開発を任されているのだった。
「リアさん、ご苦労でしたね。あなたの協力のお陰で、この事件は無事に解決できました」
「いえ、転送魔術具の開発が私には残っていますからね。旅の合間ということになりますが」
「それとアンホルト姉さん、あなたにも助けられました。商会を代表して礼を言わせていただきます」
「ちょっと待て、ロレンツォ。あんた、あたいと話しても大丈夫なのかい? 関わってはいけないはずだろう?」
姉弟の様子を、海賊たちがオロオロしながら見ている。
「アンホルト姉さんたちは、商会のために動いて助けてくれたのです。もし文句をつけるヤツがいたら、わたしロレンツォが許しませんよ。できれば、これからも商会を助けていただきたいのですが、どうですか?」
ロレンツォはそう言うと、右手をスッと差し出した。
「それなら、あんたら商会もあたいたちの稼ぎを手伝ってもらうことにするよ!」
アンホルトも右手を差し出し、2人の姉弟は握手を交わした。パチパチパチ、勇者と海賊たちは拍手を送りそれを祝った。
「それじゃああんたらは、あたいの依頼を達成したわけさ! ジンドルフの村で物資を積み込んで、原住民の島に出発するよ!」
「それには及びません。すでに物資の搬入は終わっていますからね。もちろん、皆さんの馬車もルディと一緒に載せてありますからね」
沖を見ると、ヴェルドーネ号の横に船が止まっており、搬入を終えたと思われる船員たちが船へと戻っているところだった。
「これで、ワシらの旅も再開じゃのう!」
「ここは、イザベルのいつものアレが必要なんじゃないか?」
「そうで御座いますね。イザベル様、よろしくお願いします」
「もう、仕様がないわね!」
イザベルが勇者たちと海賊たちの前に出る。
「それじゃあ! ヴェルドーネ号に乗って、アンホルト船長率いる海賊さんたちと一緒に原住民の島に渡るぞー! えい……」
「その掛け声、お待ち下さい! わたしも部下を10人引き連れて同行させていただきますので、掛け声に追加してもらえますか?」
イザベルが仕切り直しと、再び前に出る。
「コホン……それじゃあ! ヴェルドーネ号に乗って、アンホルト船長率いる海賊さんたちとロレンツォさん率いる部下さんたちと一緒に原住民の島に渡るぞー! えいえいおー!!」
『えいえいおー!』
海賊たちも号令に加わり、その声はジンドルフの村まで響き渡った。そして、勇者たちは船に乗り込み、原住民の島に向かってヴェルドーネ号は進みだした。
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