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第96話 クチノッタ島3

「ジャクリーヌ! 危ない!」

「大丈夫じゃ、イザベル! 上を見るんじゃ!」


 ジャクリーヌの元に駆け出そうとしたイザベルの肩をシモンが(つか)み、落ち着かせるようにそう言った。


「あれはなに? なにかがジャクリーヌの上から落ちてくるわ!」


 ジャクリーヌはそれに合わせるかのように、両手剣を収め、力を()めるようにググッと(かが)んだ。


「青い(よろい)に赤いマント! あれは、ニコラちゃんね!」


 上から落ちてきていたのは勇者だった。勇者は剣を地面に向けて構えており、地面が近づくと、剣を振り上げ、着地とともに振り下ろした。


 ズズーンゴゴゴゴゴ、地面突き立てられた剣はもの凄い振動を起こし、勇者を中心に大きな地割れがいくつも出来上がった。そのタイミングに合わせて、(かが)んでいたジャクリーヌは思いっきりジャンプした。


「うがあぁぁー!」

「きいぃぃー!」


 魔物たちが次々と地割れの中に飲み込まれていく。地割れから逃れた数体の魔物は、シモンが魔法を当て地割れに落としている。全ての魔物を倒しきったあと、勇者がジャクリーヌを抱き上げ、地割れの外で待つ仲間の元へ戻ってきた。


「よし! 作戦大成功だ! ワタシたちの勝利だな!」

「うん! やったね!」


 ジャクリーヌが出した手のひらを、勇者が思いっきりパシーンと叩く。

 その間に、地割れは音を立てながら元に戻っていった。


「なんだ? 何が起こったと言うのかね?」


 突然聞こえた声の方を振り返ると、奥の洞穴(ほらあな)から出てきた小太りの鼻髭(はなひげ)(たくわ)えた男が立っていた。


「あの男、どこかで会った気がしない?」

「ワシもそう思うんじゃが、なかなか思い出せんのう!」

「あの男は、リュクス海峡(かいきょう)の船の上で会われた、薬師(やくし)ですよ。わたしの部下のね」


 ロレンツォはそう言うと、悲しそうな顔をして下を向いた。


「守りはどうなっておる! これだから魔物というやつは……」


 薬師(やくし)の男は、ぶつくさ言いながらこちらに近づいてきた。


「魔物共、さっさと配置に……ってなんだお前たち! !? なぜ、ロレンツォがいる!?」

「フランコさん、あなたはやってはいけないことをしてしまいましたね」


 薬師(やくし)のフランコは、ロレンツォの顔を見たとたん奥の洞穴(ほらあな)の方へ逃げ出した。


「フランコはわたしが追います。皆さんは敵に気をつけて」


 ロレンツォはそう言うと、フランコを追って奥の洞穴(ほらあな)へ向かって行ってしまった。


「なんじゃロレンツォのヤツ、敵ならニコラちゃんたちが倒してしまったというのにのう」


 シモンが不思議(ふしぎ)に思っていると。……ズズーン、ズズーン、巨大な地響きのようなものが近づいてきた。


「なんだこの揺れは? 接近しているような気がするが」

「もしかして、足音じゃない?」

「なにを言っておるんじゃ! こんなデカい足音をたてる生物などおらん……」


 言いかけの言葉を打ち切ったシモンの目は、とても恐ろしいものを見たかのように大きく見開かれていた。

 シモンの異変に気づき、全員がシモンの視線の先にあるものに目を向ける。


「!? な、なんだこれは!」


 そこには、普通の倍ほどはある巨大なミノタウロスが立っていた。


「オレ様の邪魔(じゃま)をするのはきさまらか!」

「なに? このミノタウロスは話せるのか?」

「オレ様を、チンケなミノタウロスなんかと一緒にするな! オレ様はミノグランデだ!」


 ミノグランデは巨大な身体に、前と横に伸びる大きく(するど)い角、そして、とてつもない大きさの斧を軽々と持っていた。


「どうやらコイツが、ここのボスというわけね!」

「ワシらの連携(れんけい)を見せつけてやるぞい!」

「ただ、あのデカさだ! パワーは相当だろうから、攻撃は受け止めずにかわしていくべきだな」

「素早さなら、負けないよ!」


 勇者とジャクリーヌが、ミノグランデの斧がギリギリ届かない間合いで対峙(たいじ)する。


「いくぞい! 『ウォーターボール!』」


 シモンが離れた位置から、水魔法を放つ。しかし、ミノグランデは軽々とかわした。


「これならどう?」


 かわされた水魔法を勇者が水の力で(あやつ)り、進む方向を変える。そして、ミノグランデの頭めがけて飛んでいく。


「どりゃあぁぁ!」


 それを斧で防ぐことを見越して、ジャクリーヌが斬りかかる。


「いかん! ジャクリーヌ、下がるんじゃ!」


 なにか危険を感じたシモンが声を上げる。


「まずは1人目!」


 ブオーン、ミノグランデは水魔法をそのまま頭に受け、斧をジャクリーヌめがけて振るった。


「ジャクリーヌ! 大丈夫かのう!」

「ああ! じじいのお(かげ)で助かった! 今の一撃、喰らっていたらヤバかったな!」


 ジャクリーヌはシモンの言葉を聞き、ギリギリのところで攻撃をやめて斧の一撃をかわしたのであった。


「これは分が悪い戦いになりそうだな!」

「どういうことじゃ?」

「ワタシたちは、ちまちま攻撃を当てていくしか無いが、ヤツの攻撃を一撃でも喰らえばおしまいだ」

「しかも、よく見て! 水魔法が直撃したはずの頭の傷、すでに治っているわ!」

「あれは、自然回復のスキルのようじゃのう! これは厄介(やっかい)じゃわい!」


 勇者たちは一旦距離を取り、作戦を立てることにした。


「あやつ、追ってきもせんのう!」

「まあ、余裕(よゆう)ってことだろうな! だが、どうする? 元々硬いうえに、自然回復のスキルがあるとなっちゃ、1撃で仕留める以外方法は無いようだが」

「だったら、あたしたちの最大火力が出せるあの技しかないんじゃない?」

「もしここが外だったなら、試したい技もあったんじゃが、ここではそれしかないのう!」

「それじゃあ、配置につくね!」


 勇者とジャクリーヌは、再びミノグランデの前に向かった。


「イザベル、どうしたんじゃ? (みょう)な顔をして?」

「いや、さっきね、ミノグランデに水魔法がぶつかるとき、(みょう)な感じがしたのよね」

「それならば、この攻撃をぶつけたときに集中して見てみるがよかろう」

「そうね!」


 シモンとイザベルはそう言うと、攻撃の準備を始めた。

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