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第94話 クチノッタ島1

「よし! 着いたようだね! (いかり)を降ろして静かにしているよう者共に伝えろ!」

「ははあっ!」


 自らヴェルドーネ号の(かじ)を取りクチノッタ島に到着し、副船長に指示を出すアンホルト。その場所は丁度岩陰となっており、島の中からはこちらの様子を(うかが)うことはできそうになかった。


「いいかいあんたら、あたいたちができる事はここまでだ。下に小舟を準備させているから、あんたたちだけで島に上陸しな。ただし、横流しの件の首謀者(しゅぼうしゃ)がボゼッティ家に関係ないヤツだとわかったら、すぐに魔法を打ち上げな。加勢(かせい)に行ってやるからよ」


 アンホルトは勇者たち一人一人と握手(あくしゅ)を交わした。勇者の(えり)巻きから顔を出し、前足を出した一匹ともちゃんと握手(あくしゅ)を交わした。アンホルトは動物好きのようだ。


「それじゃ、ニコラちゃん頼むわよ!」

「任されて!」


 小舟には勇者たちの武器が置いてあった。武器を装備し、勇者の水の力で小舟が動き出す。


「この島は岩場が多いようじゃのう!」

洞窟(どうくつ)を掘って盗品を隠すには、うってつけの場所ということだな!」


 しばらくは、船をつける事のできない高い岩場の景色が続く。


「あっ! 砂浜があったよ!」

「良さげな桟橋(さんばし)もあるみたいだわ!」


 勇者が見つけた砂浜の桟橋(さんばし)に小舟をつけ、クチノッタ島に上陸する。


「どっこいしょっと。それにしてもお主ら、この暗闇(くらやみ)でよく見えるものじゃのう!」

「あたしの魔法、キャットアイのおかげね!」


 イザベルの魔法キャットアイとは、暗闇(くらやみ)でもネコの目のように周りが見えるというものであった。


「この魔法凄いね! 真っ昼間と変わらないくらい見えるよ!」

「まあ、それも同時に欠点なんだけどね」

「実際の暗さが、把握(はあく)できなくなるということだな! 戦闘においては不利になりかねない!」

「一旦解くわよ!」


 イザベルは杖をクルリと回し、キャットアイの魔法を解いた。


「えっ? こんなに暗かったの? ビックリした!」

「どうだ、ニコラちゃん。キャットアイの感想は?」

「戦闘を指示する人が使って、直接戦闘をする人は使わないほうがいいかも!」

「それではその作戦で、島の魔物共を片っ端から倒していくぞ!」


 勇者の感想が今回の作戦に採用されたようだ。シモンとイザベルも(となり)(うなず)いている。


「その作戦、変更していただいてよろしいですか?」

「!? ちっ! 敵に見つかったか?」


 突然、砂浜の方から声が聞こえ、ジャクリーヌが両手剣を構える。砂浜を見渡してみるが、暗闇(くらやみ)(おお)われ声の(ぬし)を見つけることはできない。


「その声、もしかしてロレンツォかのう?」

「ええ、その通りですよ。それよりジャクリーヌさん、その剣を収めてもらえませんか? それではそちらに行けませんからね」

「はっ! そ、そうだな……」


 警戒(けいかい)を解いたジャクリーヌが両手剣を収めると、ロレンツォが近づいてきた。


「それより作戦を変えろとはどういう事だ?」

「今回の作戦で重要なのは魔物の殲滅(せんめつ)ではなく、横流しの首謀者(しゅぼうしゃ)を特定することです。ですから、首謀者(しゅぼうしゃ)の姿を確認するまでは、敵に見つからないようにしてもらいたいのですよ」

「なるほど、それはわかった。だが、なんでお前がここにいるんだ?」

首謀者(しゅぼうしゃ)がボゼッティ家に関わる人間か(いな)か、これが今回の作戦で最も重要な点となります。つまり、それを確認できる人間が必要となるわけです」

「それで、ロレンツォが来たというわけだな!」


 勇者たちはロレンツォの話に納得したようだ。


「それでは、首謀者(しゅぼうしゃ)を見つけ出すための手順を説明しましょう」


 ロレンツォによると海賊の潜入捜査(せんにゅうそうさ)により、だいたいの敵の位置と洞窟(どうくつ)の場所はわかっており、それを元にした地図あるらしい。しかし、明かりを使えない状況であるためロレンツォの頭の中にある地図を頼りに進むことにした。


「あらっ! 敵を見つけたわよ!」

「どこだ? どこに敵がいる?」

「向かって右奥に、松明(たいまつ)(あかり)が見えるでしょ!」

「えーと……ああ、見つけたぞ!」

「入り口に松明(たいまつ)を持ったゴブリンが2体いるわ!」


 キャットアイの魔法を使ったイザベルが、状況を説明する。


「それならボク1人で大丈夫だよ!」

「お待ち下さい。洞窟(どうくつ)の中に、あと2体いるようです」


 1人飛び出そうとした勇者の肩を押さえ、ロレンツォがそう言った。


「キャットアイの魔法を使ってるあたしには見えないんだけど、よくわかるわね」

「以前お話したかと思いますが、わたしは魔力の揺らぎでものが見えますので、死角からでも敵の存在がわかるのですよ」

「いやあ、お主がおって助かったわい。いきなり敵にバレてしまう所じゃったのう」


 シモンの言葉に全員が賛同するように(うなず)いた。


「それじゃあ、ワタシとニコラちゃんで行くことにしよう!」

「そうじゃの、2人の素早さなら声をあげられる前に仕留められるじゃろうしな!」

「ただ、松明(たいまつ)の火を消さないように気をつけてね! 消えたらバレちゃうと思うから」


 2人は(うなず)くと、静かに左右へと()っていった。


「お二人が位置につかれたみたいですね」


 ロレンツォがそう言うと。向かって左側の(しげ)みから、勇者がもの凄いスピードで飛び出した。ゴブリンの首に一撃を入れ、簡単に1体を始末する。もう1体のゴブリンが異変に気づき振り返った瞬間、反対側に潜んでいたジャクリーヌが一撃を加える。


「よし! これであとは中の2体だけじゃな!」

「いけない! 足元に水たまりがあるわ!」


 手前で観戦していたイザベルがそう言ったが、大きな声が出せないためジャクリーヌには届かなかった。

 ジャクリーヌの倒したゴブリンが持っていた松明(たいまつ)が、水たまりへと落ちていく。


「いかん! 作戦失敗じゃ!」


 シモンとイザベルは、見てはいられないと手で目を(おお)った。


「お二人、大丈夫のようですよ」


 ロレンツォの言葉を聞き目を開けると、水たまりギリギリの所で勇者が松明(たいまつ)(つか)んでいた。勇者は土の上の松明(たいまつ)を置くと、ジャクリーヌとともに洞窟(どうくつ)の中に向かい、あっさりと中のゴブリン2体を倒して戻ってきた。

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