第93話 ジンドルフの村4
「あたいはロレンツォから、ある依頼を受けていた。それは、ロレンツォたちの商会の商品を横流ししているヤツがいて、そいつらをとっちめてほしいという事っだったのさ」
「そんなもの、お主ら海賊の力を持ってすれば容易いことではないのかのう?」
「そうよね! 腕の立ちそうな船員たちが沢山いるものね!」
シモンとイザベルの言うことに、全員が頷く。
「それが詳しく調べてみると、問題が見つかったのさ。横流ししているヤツが、どうもロレンツォの商会の人間みたいだったのさ」
「それになにか問題でもあるのか?」
ジャクリーヌは手を顎に当てながらそう言った。
「ロレンツォはあたいの弟なのさ」
「という事は、お主もボゼッティ家の人間という事になるのう」
「ちょっと待て! お前がロレンツォの姉というのはおかしいぞ! どう見たって、ロレンツォよりお前のほうが断然若いではないか!」
「それはまあ、血の濃さの問題なのさ」
アンホルトによると、同じ親から生まれたハーフエルフでも父母のどちらかに偏ることがあるらしい。姉のアンホルトはエルフが強くでており、弟のロレンツォは人間が強くでていた。そのため、寿命も大きく異なり姉であるアンホルトの方が若く見えるとのことだったのだ。
「へえー、あたしもハーフエルフだけど、そんな事があるなんて知らなかったわ!」
「まあ、人間で言う父親似母親似による違いのようなものなのかのう?」
「ボクはお母さん似ってよく言われるよ!」
「ニコラちゃん師匠のお母様は、とても可愛らしい方なのでしょうね」
勇者の一言で、部屋の雰囲気がほっこり温かいものになったようだ。
「ロレンツォがお主の弟ならば、横流ししているヤツを捕まえてやればよいではないか」
「それができないのさ! あたいは100年ほど前に、ボゼッティの家から出ていてね」
「そうして海賊になったというわけじゃな。だがどうして家を出たんじゃ?」
「あたいは家督とかそういうのが嫌いでね、家督をつげるロレンツォが生まれたタイミングで自由を求めて家を出たのさ。ただし、条件があってね。家を出たら、ボゼッティ家に関わってはいけないという条件がね」
アンホルトは全く悲しそうな素振りも見せずにそう話した。過去に未練など無く、海賊家業に満足していると言っているようにも聞こえた。
「つまり、横流ししているヤツがボゼッティ家の人間である可能性がある以上、お主ら海賊は手出しができんわけじゃな!」
「まあ、そういうことさ」
大筋の話がわかり、勇者たちは納得するように頷いた。
「ただ、どうやって依頼を受けたの? ボゼッティ家に関わることができないなら、ロレンツォさんにも会えないわけでしょう?」
「今回、あたいたちのたまり場の酒場にロレンツォのヤツが来たんだってな。あたいはその事に一番驚いているのさ」
アンホルトとボゼッティ家の関係は、ロレンツォ側からも同じで海賊と関わりを持つことを禁じられていた。ロレンツォが酒場に現れたのは、今回が始めてのことだったらしい。
「あいつはあんたらの事を、余程信頼しているようだね」
「ロレンツォのヤツは、ワシらとの関わりが商会の利益に繋がるから動いておると言っておったわい」
「あいつは本心を口に出さないからね。姉弟だからあたいにはそれがわかるのさ」
荒っぽい口調で話すアンホルトであったが、その言葉には温かみのようなものが感じられた。
「そういや依頼をどうやって受けたかって話だったね。あんたら、プイは知っているかい?」
「プイじゃと? 風の妖精プイの事かのう?」
「知ってるのか。それなら話が早い」
風の妖精プイは、王都の国王に仕える前にロレンツォに、ロレンツォに仕える前にアンホルトに仕えていた。そのため、アンホルトもロレンツォと同じようにプイの精神体を呼び出し、情報を得ることができたのだった。
「なるほどのう! それを使えば誰にも気づかれずに、いろんなやり取りができるというわけじゃな!」
「実は今回の作戦も共有済みなのさ。そろそろいい時間のようだし、作戦を伝えるよ!」
今回勇者たちが乗り込むのは、ジンドルフの村の少し沖にあるクチノッタ島といわれる島らしい。普段は無人島であるが、1ヶ月ほど前から魔物が入り込みなにやら怪しげな行動を始めたのを、食料の採取に来ていた船員が見つけ報告したことが全ての始まりとのことだった。
「その情報はプイをつかってロレンツォに送り、あたいらはクチノッタ島の状況を詳しく調べたのさ。すると、いくつかの洞穴に何かが運び込まれ、その入り口を魔物が守っていることがわかったのさ」
それと同じタイミングで、商会の倉庫から商品が無くなりだし、その倉庫には商会の人間しか入れない場所とわかったとプイを通じて情報が届いたとのことだった。
「それはおかしくないか? 商品が無くなっているのなら、それを持ち出している時を押さえればこの件は解決するのではないか?」
「それが無理だったのさ。あたいらも海を見張った。クチノッタ島に商品を届けるには、海を渡る必要があるからね」
「しかし、海を渡っている様子は無かったのじゃな」
「その通りさ。その代わり、3日前に商品が無くなった場所からこれが見つかったのさ」
アンホルトは、小さな緑色の石のついたチェーンの切れたペンダントを差し出した。
「これがなんだというんじゃ?」
「魔術師に調べさせたところ、転送を行うための魔術具だということがわかったのさ」
「!? 転送! 転送ですって!」
突然、鼻息を荒くしたリアが飛び出し、アンホルトからペンダントをひったくった。
「ふむふむ、これはまだ完璧な品ではありませんが、短距離の転送ならできそうで御座いますね」
「さすがロレンツォが認めたヤツだな。すぐにそこまで見抜いてしまうとは。あたいのとこの魔術師は2日もかかったのにね」
「リアよ、少し落ち着かぬか! さすがに失礼じゃろて!」
「!? はっ! これは失礼しました」
シモンの一言で、リアは正気に戻ったようだ。
「リア、あんたはこの転送の魔術具を封じることはできるかい? 大きな屋敷の中にある魔術具を屋敷ごと、しかも短時間で」
「ええ、私がその場にいれば大したことではありません」
「よし! それならあんたは別働隊で、村の入り江に向かってくれ!」
リアは小舟に乗せられ、村の入り江に向かった。
「あたいらはこの船でクチノッタ島に向かうよ! 今夜は月が隠れているからね!」
勇者たちを乗せた船は暗闇にまぎれて、魔物たちがいるクチノッタ島に向かい進みだした。
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