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第92話 ジンドルフの村3

「皆さん、船につきましたので乗り移ってください」

「どうやって乗り込めというんじゃ?」


 海賊船の横に小舟は停まっているが、乗り移るにも何もなかった。すると……

 ピィーピ、バーテンダーが口笛を鳴らし上から縄ばしごが降りてきた。


「ワタシから先に登る。危険だったらすぐに伝えるから、そのときは海に飛び込んで全力で逃げるんだぞ!」

「おっとその前に、武器は預かっておきます。船に乗り込む客人方はそういう決まりになってますからね。それと先頭は俺に任せたほうがいい。上に出た瞬間、切り刻まれたくはないでしょう? ハッハッハ!」


 恐ろしいことを豪快(ごうかい)に笑いながら話すバーテンダーに武器をむしり取られる。そして、縄ばしごを登るバーテンダーの大きな尻のあとにジャクリーヌがついていく。


「お前のそのデカい尻、かなり(きた)えているようだな!」

「剣術では敵わないかもしれませんが、力だけならあなたにも負けませんよ。これでもこの船の副船長ですからね」

「よし! それなら後で、腕相撲で勝負だ! 酒でも賭けてな!」

「望むところです!」


 いつの間にか、副船長とジャクリーヌは仲良くなったようだ。


「まさか、あのバーテンダーが海賊船の副船長だったとはね!」

「どおりで怖い顔をしておると思ったわい!」

「それにしてもお二人、仲が良いようですね!」

「脳筋どうし気が合うのじゃろうな!」

「誰が脳筋だ! じじい!」

「いかん! 聞こえとったか!」


 軽口を叩きながら(にぎ)やかに縄ばしごを登る。その様子を最後尾の勇者が笑顔で見ていた。


「どっこいしょっと。思った以上にでかい船じゃのう! ワシら結構登ってきたわい」


 先に登っていたジャクリーヌが、シモンを甲板(かんぱん)へと引き上げる。周りを見渡すと、30人程の船員たちに(かこ)まれていた。剣や弓などの武器は身に付けているが、手には持っていない。


「うんしょっと。ジャクリーヌが副船長さんより先に登ってたら、あの矢をすべて打ち込まれていたわね!」

「恐ろしい事を言うな! それより今は食事の時間だったようだぞ!」


 周りを(かこ)んでいる船員たちの顔を見ると、口の周りにいろんな物がついていた。


「食事中でもすっ飛んでくるとは、こやつら規則をちゃんと守るようじゃのう!」

「海賊は規則に厳しいのです。特にアンホルト船長は厳しく、規則を破ったものは絶対に許しません」


 副船長が話していると、船員たちが船底に戻っていき、残りの5、6名が見張りの位置に向かっていった。


「皆さん、船長はこちらですので参りましょう」


 副船長に案内され、船の後ろ側の一段高くなった操舵輪(そうだりん)のある部分の下にある扉に進む。中は階段になっており、下ると大きなテーブルのある部屋に出た。


「それでは、船長に話をしてきますので、皆様はここでお待ちください」


 副船長はそう言うと、奥にある豪華(ごうか)装飾(そうしょく)(ほどこ)された扉のある部屋へと入っていった。


「どう考えても、あの奥が船長の部屋のようじゃのう!」

「干物屋さんが、冷酷(れいこく)頭領(とうりょう)と言っていたわよね!」

「あれだけいかつい副船長を従えているんだ! とんでもない悪人面のヤツに違いないはずだぞ!」


 勇者たちは、身構えるようにして副船長が出てくるのを待っていた。


「皆さん、船長がお会いになるそうです。どうぞ、中へとお進みください」


 副船長は扉を開くと、部屋の後ろに下がっていった。どうやら、一緒には来てくれないようだ。


「みんな大丈夫だ! なにかあったらワタシがこの両手剣で……しまった! 武器は預けているんだった!」

「ワシらも杖を預けておるし、今頼りになるのはニコラちゃんだけじゃな!」

「うん! ボクに任されて!」


 元気に胸を叩いた勇者を先頭に、船長の部屋の中へと進む。


「わあ! すごいお部屋だね!」

「外の部屋と比べると、(まぶ)しく感じてしまう位の綺羅(きら)びやかさね!」


 部屋の中には、細かい金細工が(ほどこ)されたテーブルに上等な皮で作られたソファー、壁には金縁の(がく)に入れられた風景画や人物画、略奪品や財宝と思われる豪華(ごうか)装飾(そうしょく)品などが(かざ)られていた。


「よく来たね、あんた達! あたいがヴェルドーネ号の船長、キャプテン・アンホルトさ!」

「なに!? 海賊船の船長は女だったのか!?」


 アンホルトは燃えるような真っ赤な髪に、海賊特有の黒い三角帽子、白いシャツに赤と黒のベスト。それに、黒のレザーパンツとブーツを履いていた。帽子にはドクロや羽のアクセサリーが付けられており、服の至る所には銀細工が(ほどこ)されていた。


「まさかこの船の船長が、こんなに若くて可愛(かわい)い女だとは思わんかったわい!」

「お世辞(せじ)でもそんな事をあたいに言うやつなんて、何十年ぶりだな!」

「何十年ぶり? どういうことだ?」

「あんた達、ロレンツォから何も聞いていないのかい?」

「原住民の島に渡るために、ヴェルドーネ号の船長に会うようにとしか聞いとらんぞい!」


 シモンの話を聞くと、アンホルトは帽子をポイッと放り投げた。すると、部屋の(すみ)にある帽子掛にクルクルと綺麗(きれい)に掛かった。


「あいつは昔からそうなんだ……仕方がない、順番に話すとするか」

「昔からとか順番だとか、さっぱりわからないわ!」


 イザベルと同じように、勇者たちも頭を(ひね)っている。


「まあ、そこの椅子に掛けなよ。少し長い話になるからね」


 アンホルトは椅子に腰掛け、机に両足をドカッと乗せるとゆっくりと話しを始めた。

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