第91話 ジンドルフの村2
「それじゃあ、入るわよ!」
相手をできるだけ刺激しないように、イザベルを先頭にしてウエスタンドアを押し開く。酒場の中は、いくつかのテーブルとカウンターがあり、酒を飲んだりトランプをしながら客が楽しんでいるようだった。壁には古びた剣やナイフの刺された指名手配書のようなものがあり、店内を照らす薄暗い明かりが特異な雰囲気を放っていた。
「店の雰囲気はあれだが、意外と話の通じるヤツらかもしれないぞ」
「イザベルよ、バーテンダーに話を聞いてみるのじゃ」
「わかったわ」
3人はヒソヒソと耳元で話し、バーカウンターの奥に立つ厳つい顔つきのバーテンダーの元へと向かった。勇者とリアは少し遅れてそれについていく。
「ねえ、話を聞きたいけどいいかしら?」
「話の前に、酒を注文したらどうだ? ここは酒場なんだぞ?」
バーテンダーは手元のグラスを磨きながら、ドスの利いた低い声でそう言った。
「それじゃあ、ウイスキー3杯とミルクを2杯ちょうだい」
「ミルクだとよ! こんな所に子供が来てるのかよ!」
イザベルが注文をすると、あちこちからクスクスと笑い声が聞こえた。
カウンターに勇者たち5人が座り、ウイスキーとミルクの入ったグラスが置かれる。
「それでお客さん、聞きたい事ってのはなんですかねえ?」
「あたしたち、原住民の島に渡りたいの。そのために、大きな船を持っているというアンホルト船長に会いたいんだけど……」
イザベルはアンホルト船長と口にした瞬間、背中がゾクリとした。
「みんな、いかん! 囲まれているぞ!」
ジャクリーヌの声を聞き振り向くと、さっきまでテーブルで酒を飲んだりトランプをしていた客の全てが、武器を手に取り勇者たち5人を囲んでいた。
「お前たち、俺らの船長に一体何のようだ?」
「ジャクリーヌ様、落ち着いてください。剣に手をかけてはいけませんよ」
今にも両手剣を持って暴れ出しそうなジャクリーヌを、リアが落ち着かせる。
「お主ら、落ち着くのじゃ! ワシらは船長に会って話がしたいだけなんじゃ!」
「そうよ! 戦う気なんてこれっぽっちもないんだから!」
「それならば、船長と話をさせてやろう! ただし、お前たちの首だけだがな!」
船員たちは一斉に武器を振り上げ、勇者たちに襲いかかろうとした、そのとき……
「皆様、遅れてしましました。待たせてしまいましたか?」
酒場の入り口から、ロレンツォがやってきた。
「ロレンツォよ、こっちに来てはいかん! お主だけでも逃げるんじゃ!」
「なに? ロレンツォ様だと?」
武器を振り上げていた船員たちはロレンツォの名を聞くと、武器を収め片膝を付き頭を下げた。
「なんじゃ? これはどういう事じゃ?」
シモンたちは状況が掴めず、ただオロオロとしている。そんな中、ロレンツォが勇者たちに歩み寄ると、船員たちは素早く動き道を作った。
「ロレンツォ様、この方たちとはどのようなご関係で?」
バーテンダーは先程までのドスの利いた声ではなく、明るめのトーンでそう尋ねた。
「この方々は、わたし共の商会に多大な利益を与えてくださる方たちです。もし、頼み事でもされたのなら、聞いて差し上げるべきでしょうね」
ロレンツォはそう言うと、後ろを向き入り口に向かって歩き出した。その際に、勇者の耳元でなにかを言ったようだった。
「それでは皆様をご要望どおり、我らがアンホルト船長に会わせることにしましょう」
「船長に引き合わせる、それでしたらあの件を皆さんに任せてみるのはどうか、とロレンツォが言っていたと船長にお伝え下さい。それでは」
扉の手前まで来ていたロレンツォは、去り際にそう言った。
「それにしてもお主ら、なんで急に協力的になったのじゃ? 商会の人間には見えぬが?」
「その話は、船長にでも聞いてください。それでは、船へと案内します」
バーテンダーはそう言うと、船員を2人引き連れて酒場の外へと出ていった。勇者たちもそれについていく。
「なあ、ずっと思ってたんだが、コイツら普通の船員とは違う気がしないか?」
「あたしも思ってたわ! 顔に傷だあったり眼帯してたり悪者感が妙に漂っているわよね!」
「そじゃの! ドクロのタトゥーを入れておったりして、まるで海賊のようじゃのう!」
先導するバーテンダーたちの後ろで、ヒソヒソと話をする。
「ロレンツォ様の知り合いなんですよ。海賊ということはあり得ないはずです」
「そうよね! ニコラちゃんが見つけた海賊船に連れて行かれるのかと思って焦っちゃったわ!」
少し嫌な雰囲気が漂ったが、リアの言葉でそれは消え去ったようだ。
「そういえば、ニコラちゃん。さっきロレンツォさんになにか言われてたわよね?」
「うん! またあとで会いましょうだってさ!」
「どういう事かしらね?」
ロレンツォの言葉について考えていると、小舟のある桟橋に辿り着いた。
「さあ皆さん、小舟に乗ってください。船のある沖まで向かいますので」
勇者たちが小舟に乗り込むと、船員たちが船を漕ぎだし沖へと進んでいった。いつの間にか夕日は沈んでおり、船首に立つバーテンダーが照らすランタンの明かりだけを頼りに小舟は進んでいく。
「夜の海って結構怖いわね」
「小舟だから余計に、そう感じるんじゃないのか?」
「今夜は月が雲に隠れておるからのう。じゃが安心してよかろう。こやつらは船乗りなのじゃからな」
小舟は暗い海の中を、思った以上に先まで進んだ。
「あっ! 船が見えてきたよ!」
「ニコラちゃん師匠。きっと、あれが私たちの目的の船なのでしょうね」
「ちょっと待て! あの船、横に黒いものがいくつもついてるように見えるんだが、気のせいか?」
「もしかしてワシら、海賊船に案内されとるんじゃないじゃろな?」
小舟はゆっくりとその船に近づいていき、少しずつ黒いものの正体が見えてくる。
「いかん! これは大砲じゃぞ!」
「あたしたちは、とんでもない所に来てしまったようね!」
案内された船は、勇者が見つけた海賊船であった。
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