第90話 ジンドルフの村1
「皆様、ジンドルフの村が見えてきましたよ!」
リアの言葉を聞き馬車の外を眺めると、青々とした森林や丘陵地帯に囲まれた場所に木造の家々が立ち並び、色とりどりの漁船が波打ち際に並ぶ伝統的な漁村の風景が目の前に広がった。
奥に見える美しい砂浜や透明な海は夕日に照らされて、綺麗に赤く染まっている。
「ロレンツォさんが住んでいる場所だから、城下町のようなものを想像してたんだけど、昔からある漁村のような感じなのね!」
「わたしの家の始まりは、小さな魚屋だったのですよ。今では大きくなり、メーリングの町を拠点としていますが、この村であがった魚も商店の大きな収入源の1つなのですよ」
村に到着すると、入口に大きな厩舎があった。勇者たちは馬車を降り、リアが手際よく預けた。
「この厩舎の大きさは、さすが大商人ロレンツォの村といったところじゃのう!」
「王都の城で使っている厩舎よりも大きいな!」
「わたし共商人にとって、馬車は荷物を運ぶ大切なものですからね。皆さんの旅には間に合いませんでしたが、今メーリングの町で大きな船を何隻か製作中なのですよ」
「観光用の船でも作っているのかしら?」
「いえ、皆さんが魔王を倒した後に、商売を世界に広げようと準備しているのですよ」
ロレンツォは船の製作準備を以前からしていたらしいが、本格的に始めたのは勇者たちの存在に目をつけてからであるらしい。
「ロレンツォよ、そろそろ船について教えてもらってもよいかのう?」
「わかりました。原住民の島に辿り着くのに必要な大きさの船は、この村に1隻しかありません」
「ワタシたちはその船の船長に会って交渉をすれば良いのだな!」
「まず皆様には、その船の船員たちがたむろしている酒場に向かってもらい、船長に会わせてもらえるように話をつけてください」
「酒場の場所はどこにあるんだ?」
「村人にヴェルドーネ号の船員がいる酒場を聞けば教えてくれるはずです」
ロレンツォはそう言うと、1人でどこかへ歩き出した。
「ちょっと待って! ロレンツォさんも一緒に来てくれるんじゃないの?」
「わたしは用事がありまして、それを済ませてからすぐに合流しますので」
ロレンツォを見送ったあと、勇者たちは厩舎を出た。
「ねえねえ、沖の方に大きな船が見えるよ!」
「ワタシにはなにも見えないな! ニコラちゃんは目がいいのだな!」
「私が確認してみましょう」
リアはゴーグルに双眼鏡を取り付けて、勇者が指差した方角を覗いた。
「ニコラちゃん師匠の言われる通り、かなり大きな船のようですね」
「もしかして、ロレンツォが言っておった船は、それの事ではないかのう?」
「おや? 大砲が沢山取り付けられていますね」
「まあ、運ぶ商品を守る必要もあるでしょうからねえ」
「あら? 帆にドクロのマークがついていますよ」
「それは海賊船じゃな! ジンドルフの村の近くに停泊しておるとはのう!」
「海賊なんかとか変わらない方がいいぞ! 面倒事に巻き込まれるだけだからな!」
少し進むと木製の店舗や露店が立ち並んでいた。その日穫れた新鮮な魚や干物などが所狭しと売られており、それを買い求める観光客もちらほらといるようだった。
「魚や干物が並んでいるのを見ると、港町ローゼンの事を思い出すわね!」
「グレーテやハンペたちは元気にしておるかのう!」
「港町ローゼンの話をされているということは、皆さんはリットベルガー王国から来られたのですね。魔王が出現する前までは、リットベルガー王国からの観光客も多かったのですが、今ではかなり減ってしまいましてねえ」
港町ローゼンの事を懐かしがっていると、干物屋の店員が話しかけてきた。
「皆さん、試食もできますから食べていきませんか?」
「もしかして、これで焼いてくれるのかのう?」
「ええ、焼き立てをお出ししますよ。えぼ鯛にかますにあじ、3種類を食べ比べてみてください」
店員は七輪で3種の干物を炙って、渡してくれた。
「どれも旨いのう! 特にえぼ鯛は、しっとりとして脂ものっておるのう!」
「そうでしょう! お酒にもピッタリの品ですから、お一ついかがでしょうか?」
酒にピッタリと聞き、シモン、イザベル、ジャクリーヌの酒好きの3人の視線がえぼ鯛の干物に集まる。そして、すぐに購入した。
「えぼ鯛の干物、まいどあり!」
「店主よ、ちょっと聞きたいのじゃが、ヴェルドーネ号の船員がおる酒場の場所を知っておるかのう?」
シモンがそう尋ねると、笑顔だった店員の顔が急に暗くなった。
「お客さん、あまりその名前をこの辺で言わないほうがいいですよ」
「どういう事じゃ?」
「その船の船長のアンホルトは、冷酷な頭領として有名なんですよ。船員がいる酒場は、そこの道を先に行った所にありますが、この村の連中は恐ろしがって誰も寄り付かない場所なんです。行かないほうがいいですよ」
店員にお礼を言って、酒場に向かって歩き出す勇者たち。
「冷酷な船長に誰も寄り付かない酒場とは、一体どうなっておるのかのう?」
「わかったわ! ロレンツォさんが言っていた、面倒に巻き込まれる可能性っていうのはこの事なんじゃないの?」
「おそらくそうだろうな! 酒場に入るときは、警戒しておいたほうがよさそうだな!」
ジャクリーヌはそう言って、背中の両手剣に手をかけた。
「ジャクリーヌ様、それはいけません。相手がどうであれ、私たちは今回、船を提供してもらう立場です。相手に警戒されるような行動は、慎まなければなりません」
「たしかにそうだな!」
話しているうちに酒場の前までやってきた。酒場の場所は奥まった場所にあり、少し不気味さのようなものが感じられた。
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