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第89話 ガルツォーニ荒野3

 厨房(ちゅうぼう)のテーブルで、勇者の手作りクッキーとロレンツォオリジナルブレンドの紅茶をいただく。


「クッキーと紅茶の相性(あいしょう)抜群(ばつぐん)だな! クッキーの甘くてサクサクした食感と、紅茶の(しぶ)みや香りが合わさって、お互いを引き立て合う極上の一品となっているな!」

「クッキー生地(きじ)は、前もって作っておいたものを冷凍保存していたんだ! 半解凍して焼くだけだから、簡単に作ることができるんだよ!」


 リアとロレンツォが、勇者の発言を(となり)でメモに取っている。どうやらロレンツォは、菓子作りが趣味のようだ。


「それにしても、色鮮(いろあざ)やかなクッキーじゃのう! どれにするか目移(めうつ)りして迷ってしまうわい!」

「アイスボックスクッキーっていう方法で作ったんだよ! プレーンにココアに抹茶(まっちゃ)、それぞれの生地(きじ)を冷やし固めて、いろんな模様(もよう)に組み合わせて作るんだ! 発想次第(しだい)でいろんなものが作れるから、とっても楽しいよ!」


 市松模様(いちまつもよう)やマーブル状、葉っぱの形にくまの顔、可愛(かわい)らしく色鮮(いろあざ)やかなクッキーが見た目も舌も満足させてくれた。


「それじゃあ、贅沢(ぜいたく)な一時を楽しんだところで、再びジンドルフの村に出発するとしよう!」

「その前に、魔石の属性確認をしておきましょう!」

「そうじゃったな! 大事なことを忘れておったわい!」


 椅子から立ち上がり、馬車の外へと向かおうとすると……


「皆様お待ちください。魔石の属性確認、わたしが致しましょう」

「そういえばお主、魔力の揺らぎや微細なものまでわかると言っておったのう」

「だからと言って、魔石の属性までわかるものなの?」

「物は試しだ! ニコラちゃん、装備をつけてみてくれ!」

「うん! わかった! エンダーン!」


 勇者は装備を身に着けた。


「わたしが以前お伝えした、魔力の漏れは無いようですね。ちゃんとマントの調整もされているようでなによりです。それでは、魔石の属性を確認しますので、マントをめくっていただけますか?」

「うん! これでいい?」


 勇者がマントをめくりあげると、ロレンツォは魔石がはめ込まれた部分に手をかざした。


「ふむ。風と土の属性はクルト海峡(かいきょう)の船の中で感じ取ったものと同じですね。そして新たに、水と雷と火の属性を手に入れられたようですね。雷は呼び出して使うもの、水と火はそのもの自体を(あやつ)るもののようです」

「お主、手をかざしただけでそこまでわかってしまったのかのう?」


 シモンはロレンツォが魔石の属性だけでなく、あまりにも的確に用途まで言い当てたことに驚きが隠せないようだ。


「わたしのこの能力は、それほど珍しいものではありません。1人この能力を持つものがいれば、全ての子孫に受け()がれるものなのです。そして先代魔王が、この能力を所持していたといわれているのです」

「つまり、現魔王もその能力を持っているというわけね!」


 5つの魔石の力は、魔王を倒す切り札であった。そのため、魔王と対峙(たいじ)するその時まで存在を隠しておく必要があったのだった。


「王女様から頂いた、ニコラちゃんのマント。とても重要なものだったようじゃな」


 勇者たちは休憩(きゅうけい)を終えると、再びジンドルフの村に向かい進み始めた。馬車の中では、ロレンツォがインガの(とう)に来た理由を話してくれた。


「今、リュクサンブールで行われている戦いが終結次第(しゅうけつしだい)、この国は東西に分裂(ぶんれつ)することになるでしょう。その前に、ビル(じい)さんを東側から救出しておく必要があったのですよ」


 ロレンツォにとってのビル(じい)さんは、商売的な価値の高さのみであり、政治的な意図(いと)など全くないらしい。風の妖精(ようせい)プイから受けていた勇者たちの情報も、グレーテと出会うまでは全く気にもしておらず、興味を持ったのは味噌(みそ)醤油(しょうゆ)が関わり始めてからだったらしい。


「お主、本当に商売以外の事には興味が無いんじゃな!」

「そうですね。あなた方との関わりが、わたし共の利益(りえき)(つな)がると確信していますので、こうして動くことになりましたよ」

「そこまでハッキリ言われると、清々(すがすが)しさを感じるわね!」


 ロレンツォのあまりにもいさぎよい物言いに、少し驚きの表情になったイザベルだが、(かえ)って信頼度は高まったようだ。


 その他にも、リュクサンブール総攻撃の指揮(しき)をしていたのはロレンツォであったこと、総攻撃の予定はもっと先であったが、勇者たちがリニシイージャを開放したことにより今のタイミングに早まったこと、そして、それらには全て政治的意図(いと)が全く無く、商売のためにのみ行われたことがわかった。


「リュクス神聖国が分裂後、国名は西リュクス、首都はメーリングの町と考えていたのですが、あなた方がリニシイージャを開放されてしまったので、国名も首都もリニシイージャとなるでしょう」

「ロレンツォよ、ちょっと待つのじゃ! その名前は、酔っ払ったワシらの誰かが適当につけたものじゃぞい!」

「そうよ! 町の名前ならまだいいけど、国や首都の名前となるともっとしっかり考えるべきだわ!」


 ロレンツォの案に反論するシモンとイザベル。酔っ払い最後の1人のジャクリーヌは、顔を真赤(まっか)にしてうずくまっている。自分が名付けたかもしれないと思うと、恥ずかしくてたまらないようだ。


「大丈夫ですよ。まだ1年近く先の話ですし。しかも、あなた方が魔王を倒してくれることが前提(ぜんてい)ですからね」

「そうですか。それなら、(わたくし)たちは頑張って魔王を倒さなくてはいけませんね! だいたい、リニシイージャという名前、大変素晴らしいと思いますよ!」

「ボクもそう思う! だって、ボクたちの名前が入ってるんだから!」


 馬車の手綱(たづな)(にぎ)るリアが、手前の小窓からそう言うと、勇者が続けた。



「ロレンツォ様、ジンドルフの村まではあとどのくらいでしょうか?」


 空は赤く染まり始めており、野営の準備をするべきか先に進むべきか、リアは迷っているようだ。


「正面に見える丘の向こう側がジンドルフの村ですので、このまま進んでください」


 勇者たちは、ジンドルフの村のすぐ手前までやってきていた。

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