第87話 ガルツォーニ荒野1
カンッカンッカンッ! けたたましい音が馬車の中に鳴り響く。
「さあ皆様、朝食の準備ができましたよ! 起きてください!」
厨房から顔を出して中華鍋を叩いたのは、なんとロレンツォだった。
「なんじゃ? 朝から騒がしのう!」
「クンの肉球での起こし方を見習ってもらいたいものだわ!」
「……朝飯を……しっかり……とらない……と……力が……」
「ジャクリーヌ様は相変わらず朝に弱いですね。それより、甘い匂いがしませんか?」
リアの言う甘い匂いは、厨房の中から漂ってきているようだった。
「ボクの作った粒あんを使って、ロレンツォさんが朝食を作ってくれんたんだよ!」
勇者がロレンツォの後ろから、ヒョコッと顔を出す。
「なに? 粒あんだと!」
寝ぼけていたジャクリーヌは、粒あんというキーワードを聞き、一気に目覚めたようだ。彼女はゲルベルガのおはぎを恋しがっており、粒あんという言葉に身体が反応してしまったのだろう。
「わたしの大好物である、あんこアップルパイを焼き上げました! ロレンツォ特製オリジナルブレンドコーヒーとともに、冷めないうちにどうぞ!」
厨房のテーブルの席に全員がつくと、オーブンから焼きたてのあんこアップルパイが出される。それをサクッと食欲を刺激する音を立てながら、ロレンツォが切り分ける。
「どうぞ、お召し上がりください!」
ロレンツォがあんこアップルパイの皿と、コーヒーをソーサーに載せて気品よく配膳する。
「……それでは、手をあわせてください!……いただきます!!」
「いただきます!!」
シモンの号令につづき、いただきますの合唱をしたあと、さっそく、焼きたてのあんこアップルパイに手を伸ばす。
「パイ生地のサクサクとした食感とりんごのジューシーさとのコントラスト、それに甘さ控えめの粒あんが加わって、一口食べるたびに異なる味わい楽しめる極上の1品となっておるのう!」
「パイ生地は、たっぷりのバターを練り込んでサックサクに仕上げております」
「粒あんは、りんごの自然な味を1番生かせるような甘さに調整したんだよ!」
粒あんの甘さは、勇者とロレンツォで何度も味見を繰り返しながら、やっとで辿り着いたものらしい。
「りんごの自然な甘みと酸味、シナモンのスパイシーな風味、そして粒あんのまろやかな甘さが絶妙に組み合わさった味わいが、口の中を幸せへと連れて行ってくれるな!」
「アップルパイに合う酸味の強いりんごを食感を楽しめるよう大きめに切り、最高級のシナモンと合わた自信作で御座います」
ロレンツォは、あんこアップルパイの最高級の材料を、魔法のカバンに持ってきていたのだった。
あんこアップルパイとコーヒーの相性は抜群であり、全員満足するまでおかわりを繰り返した。
「それでは皆様のお腹も心も満足されたところで、私リアが夢のお告げで聞きました、次に進むべきを場所を発表いたしましょう」
「リア、ちょっと待て! その話、ロレンツォに話していいものなのか?」
「ワシは構わんと思うぞい! こやつは、何度もワシらを助けてくれたんじゃからのう!」
「そうね! 今回もロレンツォさんがいなかったら、ビル爺さんを呪いから開放するなんて事できなかったでしょうからね!」
ロレンツォに対する多少の疑念はあったが、それ以上に信頼を感じているようだ。
「皆様にそう思っていただけて、非常に光栄です。しかし、わたしに抱かれている疑いのようなものも皆様お持ちのようです」
「例えば、ぼくが話すことを知っていた事とかね!」
クンの首輪が黄色く光っている。これはクンの言葉のようだ。
「確かに不思議じゃのう! クンはこれまでワシら以外と話すときは、必ずニコラちゃんの襟巻きに潜んでおったはずじゃ! わかるはずなどあり得ん!」
全員で顔を見合わせ頷く。クンの秘密は、しっかり守ってきたという自信があるようだ。
「皆様、クンさんは2度ほど正体を明かして話をしていますよ。まあ、人とではありませんが」
人ではないと聞き、さらに頭を悩ませる勇者たち。
「それでは、見ていただくとしましょうか。それが1番早いでしょうから」
パチンッ、ロレンツォはそう言うと指を1回鳴らした。すると、ロレンツォの前にモクモクと白い煙のようなものが現れ、その中に薄っすらとした影が見えてきた。
「あれ? ここは一体何処でしょうか?」
勇者たちの目の前に、蝶のような羽を背に持ち、黄緑色のドレスを纏い、黄緑色の前髪で両目が隠れた、手のひらサイズの女の子が現れた。
「お主、パウではないか! 何故こんなところにおるんじゃ?」
「シモンじいさまに皆様、お久しぶりです。ロレンツォ様もいらっしゃるという事は、そういうことですね」
煙の中から現れたのは、王都リットベルガーの国王を守護する、風の妖精パウであった。パウはロレンツォを見たことで、この場の状況を把握したようだった。
「パウさん、あなたがここにいる理由を皆様にお話いただいていいですか?」
「わかりました、ロレンツォ様。ぼくは国王様の10歳の誕生日のときに、ロレンツォ様から守護妖精としてプレゼントされたものなのです。それ以前のぼくは、ロレンツォ様にお仕えする妖精だったのですよ」
パウは身振り手振りを交えながらそう話した。その姿はとても可愛らしい。
「こうして呼び出しているのは実体ではなく、眠っているパウの精神体なのですよ」
パウの姿をよく見てみると少し透けて向こう側が見えており、ロレンツォが言っている精神体であるということが事実であると理解することができた。
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