第86話 インガの塔8
「なんじゃ、そなたら戻ってきたのじゃね?」
「ビル爺さんよ、次の満月まで待っておったんじゃ、お主また呪われてしまうぞい!」
「ここを詳しく調べれば、なにか糸口が見つかると思って戻ってきたの!」
「だいたい、ワタシたちはまだ約束の魔石を貰ってないからな!」
そう言って最上階の探索を始めようとすると……
「あら? 鳩が入ってきたわよ!」
「おおっ! これは師匠との文通に使われておる、伝書鳩じゃよ!」
「ビル爺さん! 伝書鳩が窓から戻ってきたぞ! 鳩は魔法の壁をすり抜けられるんだな!」
ジャクリーヌはそう言って、窓にある透明の魔法の壁を触ろうとした。
「ぬわっ、なんだ? 魔法の壁が無くなっているようだぞ!」
「なんですって? もしかして、最終関門を突破したことで壁が消えたのかしら?」
「そうじゃったら、リアの滑空の魔術具を使って脱出できるのではないか?」
シモンの言った滑空の魔術具とは、鍛冶師の村の青龍様の祠で使用したものの事であった。
「いえ、滑空の魔術具は安全性が低いので使用する訳には参りません」
「それなら仕方がないな。せめて、人が乗れるくらいの大きさの鳥がやってくればいいのにな!」
ジャクリーヌは適当な感じにそう言った。
「ジャクリーヌ、それじゃ!」
「なんだ、じじい? 大きな鳥の事を言っているのか? そんな鳥がいた所で、ここまで来てくれるわけがないではないか!」
「大丈夫じゃ! ワシの作戦通りにやれば、全てが解決するじゃろて!」
シモンはそう言うと、リアの元に向かった。
「リアよ、お主はビル爺さんから魔石を貰って先に馬車に戻り、魔石をはめ込んでおいてもらえんかのう?」
「わかりました。おそらく5つの魔石全てをはめ込むことで、最終的に進む場所を夢のお告げで聞くことができるでしょうからね。早いに越したことはありません」
リアはそう言うと、ビル爺さんから魔石を受け取り、勇者を連れて昇降機で馬車へと向かっていった。
「なんだ? 何故リアを先に帰らせたんだ?」
「それはのう、今回の作戦にディールが関わっておるからじゃよ!」
「なるほどね! そうだとしたら、リアが必ず反対するはずだわ! 青龍様を利用するなってね!」
シモンの作戦は、ビル爺さんとペテルセンの文通を使って、ドラゴンのディールをこの塔へ呼び寄せるものであった。
「おそらく今の時点で、攻撃ゴブリン隊が持ち帰った炭酸装置強化バージョンが、ゴブリンの森で爆発的に流行しておるじゃろうのう!」
「きっとディールのヤツが上にある住処から、羨ましそうにその様子を覗いているだろうな!」
「そこに、炭酸装置の事を匂わせた文面を送るわけですか。しかしそれでは、ペテルセン殿にその文面が届くだけで、標的のディール殿にまでその内容が届くとは限らないのではないですか?」
ずっと聞いているだけであったロレンツォが、会話の中に入ってきた。ビル爺さんの1件は、大商人ロレンツォとって重要な事のようだった。
「昨日、ディールのヤツに会って助けてもらった礼にと炭酸装置を渡したんじゃ。すると溢れんばかりの笑顔で持っていきよった」
シモンによると、ずっと欲しいと思っていたものを手に入れ、喜んでいる最中にそれの強化バージョンが眼の前に現れる。昨日のディールの様子からすると、強化バージョンが欲しくてたまらず、情報を集めようとするだろうとのことだった。
「ディールのヤツが情報を集めるとなると、場所は3つに絞れるんじゃ。王都の城と鍛冶師の村、そして、ワシの師匠ペテルセンがおる天順じゃ」
「なるほど! それならばいけそうですね! わたしは急いで、ペテルセン殿に使者を送らなければなりません。お先に失礼しますよ」
ロレンツォはそう言うと、さっさと昇降機の方へ向かって行ってしまった。
「ロレンツォのヤツ、あっさりと帰ってしまったな!」
「なにか、商売になることでも浮かんだんじゃない?」
「大商人の勘というヤツなんじゃろのう!」
その後、シモンはビル爺さんにここから脱出するための作戦を伝え、ディールを塔に呼び込むための文面を全員で考えた。まずここが、リュクス神聖国の北東にあるインガの塔だと書いた。そして、ここで炭酸装置強化バージョンを作ったが、材料が不足していてもう1つは作れないと書き添えた。
「おそらく、ディールのヤツは1週間ほどでここにやってくるはずじゃ!」
「そいつが来たら、ペテルセンの所にさえ行くことができれば、炭酸装置強化バージョンを作る事ができるのに……と言えばいいのじゃね?」
「そうじゃ! そうすればこのインガの塔から脱出できるはずじゃ! 天順はお主が臨んでおった辺境の地じゃ。そこで好きなだけ研究を行えば良いじゃろて!」
手紙をつけた鳩を飛ばし、ビル爺さんに別れを告げた。
昇降機を降り塔の外に出ると空が赤く染まり始め、その日は塔の前で野営を行うことになった。
馬車に乗り込むと、何故かロレンツォがいた。ペテルセンに使者を送るために乗ってきた馬車を出してしまい、自分の足が無くなってしまったらしい。
「ロレンツォよ、お主のことだからわざとじゃろ? 一体なにを企んでおるんじゃ?」
「シモン殿、さすがにお見通しですね。皆様にお話することがあり残ったのですよ。ただしそれはついででして、味噌と醤油を味わうことが1番の目的ですね」
それはすでに、勇者とリアに注文済みであり、厨房で味噌と醤油を使った料理が調理中なのであった。
その夜は、鶏五目炊き込みご飯、すき焼きの醤油を使った料理、さばの味噌煮、なめこの味噌汁の味噌を使った料理、それと口直しのオクラ、人参、茄子のみそ漬けと沢山のご馳走が出された。そのご馳走は、リアによって塔の最上階にいるビル爺さんにも届けられ、塔の上と下で宴会が行われた。
1週間後、シモンの作戦通りディールが塔を訪れ、ビル爺さんはインガの塔からの脱出に成功する。脱出した先の天順では、ペテルセンと喧嘩をしながらも様々な研究を行うこととなる。その中で出来上がった発明品の1つが、世界に大きな影響を与えることになるのだが、それはまた別のお話。
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