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第84話 インガの塔6

「大商人のロレンツォが、なんでこんな所に!? ……あっ、しまった!」


 思わずロレンツォの前で声を出してしまい、(あわ)てて前足で口を(おさ)えるクン。


「大丈夫ですよ。わたしは以前から、あなたが話をされる事を知っていましたからね」

「どうしてそれをを知っていたの?」


 クンが少し警戒しながら質問を返すと、昇降機(しょうこうき)が上に向かって動き出した。


「その話は、仲間の方が揃われたときにでもするとして、今はわたしがここに来た理由と、あなたが行っている事について、情報交換をするべきでしょう」


 ロレンツォは馬車での移動中に、遠くからインガの(とう)に雷が落ちるのが見え、昇降機(しょうこうき)がが動き出したのではないかとやってきたらしい。


「わたしどもは以前から冒険者をこの(とう)派遣(はけん)し、魔物を倒すお手伝いをすることで、ビル(じい)さんと友好関係を構築(こうちく)していたのですよ」


 メーリングの町の地下街で見たパスのシステムや、ロレンツォから(もら)った馬車を隠す布は、そのお陰で手に入れることができたものらしい。


「ぼくらは雷でこの(とう)の機能を復活させ、今はビル(じい)さんの(のろ)いを解く試練の途中なんだ!」


 クンは、ロレンツォの態度から信頼に足ると判断し、今の状況をそのまま伝えることにしたようだ。


「なるほど、あなたがリアさんから装置を預かるわけですね。しかし、それはやめておいた方が良いでしょう」

「どうして?」

「ビル(じい)さんは、研究以外のものには興味を持ちません。わたしの事もおそらく覚えてはいないでしょう。ただ、あなたがビル(じい)さんの前で話をしてしまうと、新たな研究対象となりかねません。そうなると、装置を届けるどころか研究材料とされて、一生(とう)から出られなくなってしまうかもしれません」


 クンは全身がゾワッと毛羽(けば)立ち、恐怖に打ち震えているようだった。


「だったら、どうしよう?」

「わたしにお任せください」


 ロレンツォが左手を腹部に当て、右手は後ろに回し頭を下げながらそう言うと、最上階に到着し昇降機(しょうこうき)の扉が開いた。通路をスタスタと歩いていくロレンツォの後を、クンがついていく。


「ビル(じい)さんにリアさん、お久しぶりですね。それは、なにか新しい装置でも作られたのでしょうか?」


 ロレンツォは机に置いてあった、炭酸装置と思われるものを手に取った。


「そなた誰じゃね?」

「ロレンツォ様ではありませんか。なぜここへ?」

「実はこのパスに、新しい機能を増やして頂きたく参ったのですよ」


 ロレンツォは(ふところ)から、メーリングの町で地下街での出入りに使われているパスを取り出した。


「そなたはパスの男だったんじゃね。どれどれ、増やしたい機能とやらを言ってみるじゃね!」


 ビル(じい)さんはロレンツォの事を、人物としてではなく研究物に係わる存在としてのみ覚えていたようだ。


「なんと(わたくし)は、パスの仕組みについて知ることができるのですね!」


 リアとビル(じい)さんがパスに食らいついたタイミングに合わせて、ロレンツォがクンにだけにわかるように、手で合図(あいず)を送る。すばやく、ロレンツォの足元にやってくると、彼が手に持っていた炭酸装置を口で(くわ)えて受け取った。

 そしてクンは、ビル(じい)さんの研究材料にされることなく、階段を下り攻撃ゴブリン隊が待つ10階へと駆けていった。



 クンが10階に到着するとスライムの肥大化が進んでおり、部屋の半分を埋め尽くす大きさにまでなっていた。どうやら攻撃を加える以外にも、時間の経過や(かく)の出現回数によって肥大する速度が速まっているようだった。


「おおっ! クンが任務(にんむ)を達成して戻ってきたようじゃぞ!」


 金網(かなあみ)の向こうで万歳(ばんざい)をして、クンの帰りを勇者たちが喜んでいる。勇者たちはすでに、光で紋章(もんしょう)を照らす準備を完了させており、木の台を少し押すだけの状態にまでしてあった。


「黒猫殿、装置を持って戻られたのですね。それを右奥にいる、盗賊ゴブリンにお渡しください」


 クンはすぐに駆け出し、盗賊ゴブリンの元へ向かった。執事(しつじ)の指示の下、騎士ゴブリンや戦士ゴブリンも配置についているようで、最終攻撃の準備がすでに行わているようだった。


「それでは、我の合図(あいず)で作戦を始めます。1回きりの大勝負です。皆様、気を引き締めて望まれますように」


 執事(しつじ)はそう言うと、(つえ)を構え、(ねん)じ始めた。すると、水の玉が現れシールドのようなものに包み込まれた。そして、そのすぐ下に火の玉が現れ、シールドの中の水を沸騰(ふっとう)させ水蒸気に変化させた。


「魔法使い殿、始めてください!」


 執事(しつじ)合図(あいず)により、最後の作戦が開始された。シモンが木の台を動かし、紋章(もんしょう)を光で照らす。すると、紋章(もんしょう)からスライムの中心へと光の筋が伸び始める。


「いくぞ!」


 光の筋がスライムの中心に届き、弱点である(かく)が現れたタイミングで、盗賊ゴブリンが炭酸装置強化バージョンをスライムに差し込み、炭酸を送り込む。するとスライムの半分が、一瞬で炭酸の泡に(おお)われてしまった。盗賊ゴブリンが装置を引き抜き、その場を素早く離れると、執事(しつじ)が準備していた水の玉と火の玉が、引き抜いた穴に向かって左右からもの凄いスピードで飛んできた。


「どりゃぁぁあ!」


 2つの玉がぶつかる寸前に、待ち構えていた戦士ゴブリンが水の玉を包んでいるシールドを叩き割る。

 ドカーン、ぶつかった2つの玉は大爆発を起こし、炭酸が広がっていた部分が大きく吹き飛んだ。


「俺が決めるぞー!」


 最後に、(かく)に向かって攻撃ゴブリン隊隊長の騎士が突っ込む。

 ピシッ、隊長は見事に(かく)を真っ二つに切り裂いた。そして、スライムは消え去っていった。


「これで、最終関門は終ったのかのう?」


 シモンの声が(ひび)いたあと、しばらく静寂(せいじゃく)に包まれる。


「はい。作戦終了で御座います」

『よっしゃー!』


 いつの間にか、部屋を(へだ)てる金網(かなあみ)が無くなっており、勇者たちと攻撃ゴブリン隊は歓喜(かんき)の輪を作り、グルグルと回っていた。その中心には、今回の作戦のMVPであるクンがちょこんと座っていた。

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