第81話 インガの塔3
「シモン様! ビル爺さん様がおられると聞いてやってきたのですが!」
昇降機の扉が開くと、鼻息を荒くしたリアがシモンとビル爺さんがいる部屋まで、全力ダッシュでやってきた。
「リアよ、こちらが……」
「ビル爺さん様! 見た目から予想を覆すとは、流石で御座います! これは今強化開発中の炭酸装置でして……」
シモンが紹介をしようとすると、リアは先走るようにビル爺さんの元へ向かった。憧れのビル爺さんを前にして、興奮が収まらないようだ。
「炭酸装置! 面白そうじゃね! この部分の構造を教えてくれるじゃね?」
2人は研究談義に花を咲かせ、途中まで作りかけていた炭酸装置の強化バージョンをともに完成させようと作業を始めてしまった。
「こりゃ、話しかけても無駄のようじゃのう……どれ、ワシはヤツらを呼ぶとするかのう!」
シモンは赤の召喚の玉を、懐から取り出した。
「攻撃ゴブリン隊! お主らに決めたぞい!」
シモンは、そう言いながら赤の召喚の玉を放り投げた。玉が床にぶつかるとまばゆい光を放ち、光の中に4体の影が現れた。
「俺は攻撃ゴブリン隊隊長。作戦は参謀の執事に話すが良い」
隊長は騎士、その奥には戦士、盗賊、魔法使いのような格好のゴブリンが立っていた。
「魔法使い殿、まさか同じ日に2度会うことになるとは思いませんでしたよ」
「ワシもじゃよ。それでは作戦を伝えるぞい! お主らの時間は限られとるのでな!」
シモンは手早く作戦を伝えた。すると執事は頷き、すぐに仲間と戦略について言葉を交わし、下の階へと続く階段へと向かった。
「我らは速度重視で殲滅致します。そちらも同じように」
執事の去り際の言葉を聞くと、シモンもすぐに昇降機で1階へと向かった。
「おっ、じじい来たな!」
「かなりの数の魔物がおるじゃろうから、攻撃ゴブリン隊といえどももうしばらくはかかるじゃろうのう!」
シモンは昇降機から降りると、余裕を持ってゆっくりと近づいてきた。
「なにを言ってるの、おじいちゃん! 扉はとっくの昔に開いてるわよ!」
「なんじゃと! ヤツらの速度重視というのはハンパないのう!」
シモンは驚きを通り越して呆れているようにも見えた。
「それじゃあ、出発!」
勇者の掛け声で中に入ると、中央に石でできた台と、奥に階段へと続くと思われる扉がある以外なにもない空間があった。
「なんじゃ? ワシらは、ここでなにをすればいいんじゃ?」
「とりあえず、あの石の台が怪しいわね」
最初の階ということもあるが、だだっ広い空間に石の台がただ1つあるという異様な光景が恐怖心を生み出し、ジャクリーヌを盾代わりに恐る恐る進む。
「ん? 台の上になにか書いてあるぞ! えーと……7と3の量れるコップを用いて、5の量をつくりなさい。だとよ」
ピカッ、ジャクリーヌが文字を読み上げるのと同時に、台の上に2つのコップと水差しが現れた。
「大きいコップが7、小さいコップが3というわけね!」
「これに水を注いで、5の量をつくればよいのだな!」
ジャクリーヌはそう言って、小さいコップに水を注ぎ始めた。
「丁度良かったわい。ワシ、喉が乾いておってのう!」
シモンは水の入ったコップを取り、口元に運ぼうとした。そのとき……
「痛っ! なんかビリっときたぞい!」
シモンの手に電流のようなものが走り、それと同時にコップは台の上に戻った。
「ん? 台の上に新たに書いてあるぞ! えーと……コップの水は目一杯注ぎ、もう1つのコップに移すときも目一杯注ぐこと。水を捨てる際は、台の上にこぼすこと。だとよ」
「ルールはわかったが、なんでワシは痛い思いをしなけりゃならんかったんじゃ?」
「この水は飲むなってことでしょう!」
再び、ジャクリーヌが小さいコップに水を注ぎ、5の量をつくる方法を考える。
「まず、3の水を7のコップに移すしかないわね」
「もう1杯移しても、まだ入るぞい!」
7のコップに3を2杯入れ、3杯目が入るまで水を移す。
「これで、3のコップに2の量が残ったわけじゃな!」
「この目一杯になった7の水はどうするんだ?」
「それは捨てるしか無いわね」
ジャクリーヌは7の水を、台の上にこぼした。すると、こぼした分の水が水差しの中に補充された。
「あとはこの2の量の水を、どうやって5にするかじゃな」
「あっ! ボクわかちゃったかも!」
勇者は両手を腰に当て、胸を張りながら自慢気にそう言った。
「ニコラちゃん! 一体どうするんじゃ?」
「あのね、2を5にするにはあと3を足せばいいでしょ!」
「!? なるほど! あたしもわかったわ!」
パシーン、イザベルと勇者はハイタッチを交わし、お互いを称え合った。
「それじゃあ、あたしが言う通りにやってみて! まず、残っている2の量の水を、7の空になったコップに移してみて」
「こうじゃのう、移したぞい」
「では今、7のコップに2の量の水があるんだけど、5にするにはどうすればいい?」
「そりゃあ、3の量を足せば……!? なるほど! そういうことじゃのう!」
シモンは答えをひらめいたようで、3のコップに水を注ぎ始めた。
「これを7のコップに注げば、5の量の完成じゃ!」
ピンポン、水を注ぎ5の量が完成すると、正解を告げる音が鳴り響き、台の上にボタンが現れた。
「これで1階のフロア、クリアだね!」
「よし! さっそくボタンを押すぞい!」
カチッ、シモンがボタンを押す。そして、攻撃ゴブリン隊が19階の敵を倒すのをしばらく待つ間に、勇者が先程の問題の別の回答法を見つけ出し、その話で盛り上がった。
「おっ! 扉が開いたようだぞ!」
「相変わらずの早さじゃのう!」
開いた扉の先にある階段を登り、2階へと向かう。2階も1階と同じ作りをしており、真ん中に石の台があった。
「また文字が書いてあるぞ! えーと……7と3の量れるコップを用いて、5の量をつくりなさい。ただし、先程とは別の方法でつくりなさい。だとよ」
「それって、さっきニコラちゃんが言ってたヤツよね!」
「これは楽勝じゃのう!」
「えっへん!」
勇者があっという間に正解し、台の上にボタンが現れ、それを押した。
「ゴブリンさんたち、早すぎて驚いちゃったかな?」
「そりゃ、驚いとるに違いないわい!」
「よし! ここで1発、イザベルの景気づけだ!」
イザベルが3人の前へ出る。
「それじゃあ、このペースを維持して、インガの塔を完全攻略するぞー! えいえいおー!」
『えいえいおー!』
ガシャン、丁度同じタイミングで扉も開き、その声は塔の上まで響き渡った。
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