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第78話 リュクサンブール7

 まず、馬車の中に商人の服を着た、勇者、シモン、イザベル、リアが乗り込む。次に、御者(ぎょしゃ)の席に騎士の(よろい)を身に着けた執事(しつじ)と、普段着のリアのデコイを座らせる。そして、馬車の右前にジャクリーヌ、右後ろ、左前、左後ろに重装歩兵風のゴブリンが配置された。


「それでは参りますよ。馬車の中の皆様は、普段通りにされていてください」


 リアのデコイが手綱(たづな)を握っているように見せた上で、執事(しつじ)が馬車を(あやつ)る。


「いつも通りと言われてものう……緊張(きんちょう)して落ち着かんわい」

「下手に外を見たりしないほうがいいって事じゃない?」

「相手に警戒(けいかい)をさせない事が大切なのでしょうね」


 馬車の中はできるだけ普段通りのまま、丘を降りリュクサンブール兵の中に突入する。

 しかし、兵士たちは馬車にチラリと目はやるが、あまり気にする様子はなかった。


「なるほどのう! 東西の境界線にはボゼッティ家の家紋(かもん)を入れた者たちが、リュクサンブールへの物資を運んできておった!」

「つまりあたしたちを、その部隊からはぐれた馬車とでも勘違(かんちが)いしているわけね!」

「その通りです」


 執事(しつじ)は馬車の前の小窓から、中にだけ聞こえる声の大きさでそう言った。ちなみに、中の声は御者(ぎょしゃ)までしか聞こえない、特殊(とくしゅ)な魔術具が使われている。


「それでは皆様、これから激戦区域に入ります。防ぎそこねた矢や魔法、急な方向転換などあり得ますのでしっかりとお(つか)まりください」


 馬車の中のメンバーが低い姿勢を取り、椅子(いす)の手すりに(つか)まる。


「女戦士殿と守備ゴブリン隊は馬車に足をかけろ! 一気にここを駆け抜ける!」


 ジャクリーヌとゴブリンたちは、馬車のステップに足をかけ、角に設置されている手すりに(つか)まった。そして、馬車は一気に速度を上げトップスピードとなっていく。

 雨のように降り注ぐ矢を、ゴブリンたちが大きな(たて)で受け止め、ジャクリーヌが両手剣で()ぎ払う。あちこちから飛んでくる攻撃魔法を、執事(しつじ)が次々と相殺(そうさい)し消し去っていく。


「こりゃ、ワシらも出て手伝わにゃもたんのではないかのう?」

「こんな乱戦状態の中じゃ、あたしたち魔法使いはほとんど役に立たないわよ!」

「今は、執事(しつじ)さんの作戦を信じようよ!」

流石(さすが)はニコラちゃん師匠。その通りで御座います」


 金属の激しくぶつかる音、攻撃魔法が炸裂(さくれつ)して爆発する音があちこちで鳴り響き、恐怖心が強くなるのを必死で押さえつける。

 しばらくすると、音は収まり馬車の速度もゆっくりとしたものに変わった。


「皆様、激戦区域を抜けました。おそらく、残り時間で戦闘区域も脱出(だっしゅつ)できると思われます」


 執事(しつじ)の言葉を聞き、馬車の4人はハイタッチをして喜んだ。


執事(しつじ)よ、お主は問題ないと思うが、ジャクリーヌや他のゴブリンたちは無事かのう?」

「女戦士殿は手を上げて答えられましたので、かすり傷もないようです。ゴブリンたちも問題ないでしょう。ゴブリン部族の森であなた方から受けた攻撃に比べれば、大したことはなかったですからね」


 その言葉は、馬車の中のメンバーと外にいるジャクリーヌにとって最高の()め言葉のように聞こえた。


 しばらく、リュクサンブールを攻める兵士の中を馬車が進む。しかし、こちらの兵も馬車を1度は見るが、気にする様子はなかった。


「リュクサンブールの兵ならわかるが、なぜこちらの兵もワシらを気にせんのじゃろか?」

「ボゼッティ家の家紋(かもん)って、そんなに偉大(いだい)なモノなのかしらね?」

「もしかして、この大規模な攻撃の裏に、ロレンツォ様が関わっておられるのではないですか?」

「おそらくその通りですよ。理由まではわかりませんがね」


 小窓から伝えられた執事(しつじ)の言葉に驚く。その事まで想定した上で、この作戦を立案していた事に気づき、さらに驚く。


 しばらく進むと、馬車が停まった。


「安全な区域に到着(とうちゃく)しました。敵影(てきえい)もありませんので、降りていただいて構いませんよ」


 馬車から降りると、大きな岩が2つと木が1本ある野営に向いた場所であった。


「いやあ、お主のお(かげ)で本当に助かったぞい! ワシらだけでは絶対に抜けきれんかったはずじゃわい!」

「ジャクリーヌも頑張ったわね! お疲れ様!」

「その通りです。我らも、女戦士殿の助力がなければ、攻撃を防ぎ切ることなどできなかったのですから!」


 ジャクリーヌは立て続けに()められたのが余程(うれ)しかったのか、顔を真赤にしてうずくまってしまった。


「さて、我らの時間もこれまでのようです。我は攻撃ゴブリン隊でお会いできますが、この者たちとは最後ですね」

「リアよ。アレを渡すのじゃろう?」

「そうでした。お礼にこれをと思いまして」


 リアは、なにかの入った大きな木箱を執事(しつじ)に手渡した。


「これは! 炭酸の装置ではありませんか! しかもこんなに!」


 執事(しつじ)にしては珍しく、かなり興奮しているようだった。他のゴブリンたちもソワソワしているように見える。


青龍(せいりゅう)様からゴブリンさんたちの間で流行(はや)ってると聞いておりましたので、今度あった時に渡そうと思って沢山作っておいたのです」

「ありがたく頂戴(ちょうだい)いたします……それでは!」


 守備ゴブリン隊は、全員頭を下げたまま光とともに消え去っていった。


「では、(わたくし)達も魔石探索(たんさく)に戻ると致しましょう」

「ニコラちゃん、確認お願い!」

「うん! まだ北を指したままだよ!」

「針も震えていないようだな!」


 ジャクリーヌがいつの間にか復帰し、勇者の持つ探求(たんきゅう)羅針盤(らしんばん)(のぞ)き込んでいた。


「それでは皆様、北に向けて出発いたします!」


 リアの号令ののち、馬車は5つの魔石の最後がある北へと向かって進みだした。

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