第75話 リュクサンブール4
「これはいけません! 私が行きます!」
「待つのじゃ、リアよ!」
リアはシモンの制止も聞かずに、勇者を助けに向かい泳いでいってしまった。
「いかん、これはいかんぞ! どうすべきなんじゃ!」
「どうにか息を繋ぐことができたとしても、鉄格子をあげなければ意味は無いわ!」
シモンとイザベルが解決案を考えるが、なにも思いつかないようだ。
「2人とも、時間を稼げ! おそらくニコラちゃんを助けられるぞ!」
「どういう事なの? ジャクリーヌ?」
「今は説明している時間はない! とにかくお前らは、全員の息が続くようにどうにかしろ! いいな!」
水の上にいるジャクリーヌはそう言うと、減った分の空気を補充するために急いで装置を動かし始めた。
その頃リアは、息が切れ意識を失いかけた勇者の元まで来ていた。
リアは鉄格子沿いにあった勇者の顔に近づき、口移しで空気を送った。すると、勇者は息を吹き返したが、今度はリアの息が切れ、気を失ってしまいそうになった。そこに、上から必死に泳いでくるイザベルの様子を勇者が見つけ、水の力を使いリアをイザベルの近くへ動かした。イザベルが口移しで空気を送りリアが息を吹き返すと、イザベルは上へと戻り途中まで来ていたシモンから口移しで空気を送られた。
シモンとイザベルは空気をリレーして、時間を稼ぐ作戦を立てたのだった。
その頃ジャクリーヌは、十分な量の空気を送り終え螺旋階段を上へと走っていた。勇者が鉄格子に閉じ込められたあたりの時間に、上からなにか鎖のようなものが動く音を聞いていたためであった。
「どうかここに、罠の装置があってくれよ!」
ジャクリーヌは祈るようにして言葉を発すると、展望台を隅々まで調べだした。
「よし! これだ! みんな持ちこたえてくれよ!」
展望台の隅に、罠の鉄格子を動かしたと思われる鎖の付いた大きな歯車を見つけ、それに手をかける。
「いくぞ! ぬおおぉぉぉ!!」
ジャクリーヌは渾身の力を込めて歯車を回した。
その頃水中では、息継ぎリレーによりなんとか全員の息は続いていた。しかし、体力は切れかけ限界は近づいていた。
ゴゴゴ、そのとき鉄格子が少しづつであるが上がり始めた。勇者はわずかな隙間をスルリと抜け出し、水の力で加速しリア、イザベル、シモンと3人をキャッチし、クンが1匹で待つ樽の中へと向かっていった。
「プハーッ! なんとか無事に切り抜けたわね!」
「あとは脱出で御座いますね。ジャクリーヌ様、砂時計の残りはどの位でしょうか?」
「……それが、今確認したら砂が残っていないんだ」
ザザザ、ジャクリーヌがそう言うのとほぼ同時に、なにかの音が外から聞こえ始めた。
「いけません! 引潮が始まってしまったようです!」
「いかん! 急いで脱出するんじゃ!」
「でも、息継ぎポイントを作りながらじゃないと無理だわ!」
「それならワタシが、全員まとめてホースで引っ張る!」
「ボクの水の力と合わせれば、きっとイケるよ!」
全員が顔を合わせ大きく頷く。
「それではいくぞ!」
ジャクリーヌは力の限りホースを引っ張り、勇者は水の力でそれを助けた。何度か壁にぶつかりそうになりながらも、水の力で上手く方向を変えながら、ジャクリーヌの待つ螺旋階段まで辿り着くことができた。
「まだ潮の流れはゆっくりのようです。急いで船に降りましょう」
「ワタシが先行って、船を安定させる」
ジャクリーヌは空気を送っていた装置を鉤縄にかけ、スライダーの要領で聖堂から少し離れた小舟に上手く渡った。そして、縄を手繰り寄せ小舟を聖堂に寄せて安定させる。
「よし! どんどん降りてきていいぞ!」
シモン、イザベルと順番に縄を降りていく。
「着地成功っと! ジャクリーヌ、縄はあたしが持つのわ。あなたはもしもの時に備えて」
「ああ、わかった!」
潮の流れは変わりないが、水面に小枝などが混ざりだし、少しずつ状況は変化し始めていた。
「リア、ボクに掴まって! 一緒に降りるよ!」
「……え、ええ、分かりました……」
リアの返事にはいつもの元気が無く、疲労がピークに達していることは明白だった。
勇者はリアの腰に手を回しガッチリとささえると、縄をゆっくりと降り始めた。
「ニコラちゃん、そのままゆっくりでいいぞ! 慌てるなよ!」
「うん! わかった!」
声をかけるジャクリーヌに勇者が答えたそのとき……
ドーン、聖堂になにかがぶつかり、その衝撃でリアを支える手が離れてしまった。
「リア!」
勇者が再度手を伸ばすが届くことはなく、リアは下へと落ちていく。
「大丈夫だ! 任せろ!」
ジャクリーヌは上手く落下地点に入り、リアをキャッチした。
「ふー! 間一髪じゃったのう!」
「リア! 大丈夫?」
勇者もすぐに船に降り、リアに声をかける。しかし、リアは反応しない。
「リア、何処かぶつけたの?」
「いや、問題ない。ニコラちゃんに抱えられた時に、安心して眠ってしまったのだろう」
穏やかな寝顔のリアを船に寝かせ、馬車のある丘に向かって水の力で進み出す。
「それにしても、さっきの音はなんだったんじゃろうな?」
「あれだけの音がしたんだから、かなり大きなものでもぶつかったんじゃない?」
「聖堂の向こう側にでも引っかかっているんじゃないか? そんなものが流れてきたら、こんな小舟なんか簡単に転覆してしまうからな! 助かったな!」
ゴゴゴゴ、そんな話をしていると、後ろから地響きのような低い音が聞こえ始めた。
「もしや、ジャクリーヌが余計な事を言ったばかりに、大変な事態が起こるのではないかのう?」
「……そんな事はないだろう。ってなんだ? ワタシをそんな目で見るな!」
ジャクリーヌに冷たい視線が集中している。
ドカーン、大きな音とともに先程までいた聖堂は崩れだし、瓦礫とともに大きな丸太がこちらに向かって流れてきた。
「ほうら、言わんこっちゃない!」
「じじい! そんな事を言っている場合か! ニコラちゃん、目一杯とばしてくれ!」
「駄目だよ! 障害物があって加速できない!」
丁度、進行方向には聖堂の屋根がいくつも出ており、小舟は方向転換のため減速中であった。
「いかん! 全員固まって、しっかりしがみつくんじゃ!」
大量の瓦礫と大きな丸太は、勇者たちの小舟のすぐ後ろまで迫っていた。
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