表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/122

第74話 リュクサンブール3

「よし! ワタシが扉を開けるから、皆下がっていてくれ!」

「ジャクリーヌ様、おそらくその扉は今のままでは開きません」

「そんなの、やってみなくちゃわからないだろう!」


 ジャクリーヌが鉄の扉を押すが、開く様子はない。一旦距離を取り、目一杯体重をかけてぶつかるがピクリと動く様子は無かった。


何故(なぜ)開かないんだ?」

「水圧じゃよ、ジャクリーヌ」

「水圧? どういう事だ?」


 シモンの言葉に首を(かし)げるジャクリーヌ。


「おそらく、扉の内側は少なくとも(ひざ)より上のあたりまでは水没しておるはずじゃ」

「その程度なら、ワタシの力で開くのではないか?」

「ジャクリーヌ様、水圧とはそれほど強い力なのです。この建物も中まで水に(つか)っているからこそ、(くず)れずにいられるのですよ」


 ジャクリーヌはいまいちピンとこないようで、ポカンとした顔をしている。


「それでは実験をしてみましょう。ニコラちゃん師匠、酒樽(さかだる)10杯分の水を展望台からこの螺旋(らせん)階段に流し込んでいただいてもいいですか?」

「うん! お任せあれ!」


 勇者は展望台に駆け上がると、水の力を使い酒樽(さかだる)10杯分の海水を螺旋(らせん)階段に流し込んだ。

 ザザー、扉の前に(ひざ)辺りまで水が溜まった。


「んっ? まだ開きはしないが、少し軽くなったような気がするぞ!」

「それは扉の向こう側から押されている水圧に対して、こちらからも(ひざ)(たけ)分の水圧が押し返しているためなので御座います」


 リアの行った実験により、ジャクリーヌは少し(かしこ)くなったようだ。


「それではニコラちゃん師匠。次は30杯分お願いします」

「任されて!」


 螺旋(らせん)階段の上に向かってリアが叫ぶと勇者が答え、水を入れる作業を開始した。

 ザザー、扉の前に胸辺りまで水が溜まった。背の低いイザベルは口当たりまで水がきてしまい、(あわ)てて階段を登った。


「扉が開くと水位が上がると思われますので、皆様階段を少し上に上がっておきましょう」


 扉の前に立つジャクリーヌ以外は、全員水面より上の部分まで移動した。展望台から戻ってきた勇者も、後ろからその様子を見守る。


「よし、扉を開くぞ!」


 ジャクリーヌが扉を押すと、簡単に扉は開いた。すると、リアが言った通り扉の向こう側から水が流れ込み、水面が上がっていき、ジャクリーヌもすばやく階段を登る。


「皆様、これからが本番となります。(たる)とホースの設置と空気の送り込みを繰り返しながら、魔石の場所まで向かいましょう」


 螺旋(らせん)階段で待機(たいき)するジャクリーヌに、ピストン上に手で上下に動かして空気を送り込む装置の操作と、引潮(ひきしお)までの時間を考慮(こうりょ)した残り時間を示す砂時計の確認を任せる。残りの全員は潜水(せんすい)部隊として(たる)とホースの設置を行い、設置後に(たる)をコンコンと叩きホースから伝わる振動(しんどう)音でジャクリーヌが空気を送り込むという手順で魔石探索(たんさく)が開始された。


「それにしても驚いたのう! クンがこんなにも泳ぎが上手いとはのう!」

「この世界でぼくだけじゃない? 水中を華麗(かれい)に泳ぐ猫なんて!」


 空気で一杯になった(たる)の中で、エッヘンと胸を張るクン。実際にクンの平泳ぎは見事であり、勇者との意思疎通(いしそつう)も距離があってもできたため、非常に有用であった。


「ジャクリーヌよ、お主疲れとらんか?」

「なにを言っている、じじい! 日課の筋トレに比べたら、こんなものまだまだだぞ!」


 開通した(たる)のホースからは、上にいるジャクリーヌと会話することができた。ジャクリーヌは(たる)1つあたり装置を500回ほど上下に往復させており、それを20回こなしていた。ちなみに、日課の筋トレというのは腕立て、腹筋、背筋、スクワットを1,000回ずつであった。


「あれっ? ホースがもう伸びないみたいだよ!」


 最前線でホースを伸ばす勇者の声が、手前の(たる)で待つクンから発せられた。とりあえず、限界の位置に(たる)を設置しジャクリーヌが空気を送り込む。潜水(せんすい)部隊の4人と1匹が(たる)に頭を突っ込み、今後の作戦について話し合う。


「この聖堂、かなり大きいみたいね!」

「もうそろそろ大聖堂に出ても良い頃だと思うんじゃが」

「この先息継(いきつ)ぎポイントが作れませんので、安全性を考えますと探索(たんさく)は打ち切るべきかと思います」


 現状を考えるとリアの意見が正しいと、シモンとイザベルが(うなず)く。


「ねえ、その前に奥を見てきていい? さっきね、曲がり角の先に扉が見えたんだ!」

「もしかしたら、大聖堂の入口かもしれんのう!」

「見てきてもよろしいですが、ニコラちゃん師匠、無理をしてはいけませんよ」


 勇者は(うなず)くと、大きく息を吸って扉へと泳いでいった。


「扉の奥、広いみたいだよ!」


 水の力を使って素早く泳ぐ勇者の前には木の扉があり、上部には鉄で作られた格子(こうし)状の中窓がついていた。勇者の言葉は(たる)の中にいるクンによって、実況中継(じっきょうちゅうけい)のように伝えられる。


「あっ! ここ大聖堂みたいだよ! 奥にパイプオルガンといいものがあるみたい! 一旦戻るね!」


 クンの実況が終わると、勇者はすぐに戻ってきた。


「ニコラちゃん、なにか見つけたの?」

「うん! きっと魔石の入れられた宝箱だよ!」

「ニコラちゃん師匠、そこまでは無理をせずに行って戻ってこられる距離ですか?」


 リアは、勇者に真剣な眼差(まなざ)しを向けて(たず)ねた。勇者のことを心から心配しているのだろう。


「大丈夫だよ! 位置がわかっているから、サッと行ってサッと戻ってくるだけだよ!」

「なにかあったら、すぐにクンを通して連絡するんじゃぞ!」

「それでは、お気をつけて」


 勇者は手を(ひたい)に当て敬礼のポーズをすると、大きく息を吸って大聖堂の奥へと泳いでいった。最初から水の力を使っており、すぐに角を曲がって見えなくなってしまった。


「ニコラちゃん師匠、本当に大丈夫でしょうか?」

「なあに、魔石を取ってすぐ戻ってくるじゃろう!」


 リアはなにか悪いことが起こるような、不安を感じているようだった。


「やっぱり宝箱だったよ! 今から近づいて、開けてみるね!」

「ほら、あっという間に魔石の場所まで到着(とうちゃく)したみたいじゃぞ! だから心配いらんと言ったじゃろう?」

「そのようですね」


 リアが安心して胸をなでおろす。


「あっ! 宝箱の中、魔石みたいだよ! ちょっと確認してみるね!」


 勇者は探求(たんきゅう)羅針盤(らしんばん)を使い、5つの魔石であるかどうか確認しているようだ。


「うん! これであってるみたい! それじゃあ、魔石を持ってそっちに戻るね!」

「よし! ニコラちゃんが戻り次第(しだい)撤収(てっしゅう)じゃ! 準備を始めるぞい!」


 (たる)の中で待つメンバーが、撤収(てっしゅう)準備に取り掛かろうとしたそのとき……


「いけない! ボク閉じ込められちゃったみたい!」

「なんじゃと! どういう状況なんじゃ?」


 (たる)の中が一気に緊張(きんちょう)感に包まれる。その声はホースを通って、上にいるジャクリーヌにも届いていた。


「宝箱を開けた時に、鉄格子(てつごうし)が落ちてきたみたい! どうしよう!」


 勇者は水中で閉じ込められるという絶体絶命(ぜったいぜつめい)の自体に、パニックに(おちい)ってしまったようだった。

お読みいただきありがとうございます!

続きが気になる、面白い!と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!

このページの下にある、

【☆☆☆☆☆】をタップすれば、ポイント評価出来ます!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=818740172&size=135  ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ