第74話 リュクサンブール3
「よし! ワタシが扉を開けるから、皆下がっていてくれ!」
「ジャクリーヌ様、おそらくその扉は今のままでは開きません」
「そんなの、やってみなくちゃわからないだろう!」
ジャクリーヌが鉄の扉を押すが、開く様子はない。一旦距離を取り、目一杯体重をかけてぶつかるがピクリと動く様子は無かった。
「何故開かないんだ?」
「水圧じゃよ、ジャクリーヌ」
「水圧? どういう事だ?」
シモンの言葉に首を傾げるジャクリーヌ。
「おそらく、扉の内側は少なくとも膝より上のあたりまでは水没しておるはずじゃ」
「その程度なら、ワタシの力で開くのではないか?」
「ジャクリーヌ様、水圧とはそれほど強い力なのです。この建物も中まで水に浸っているからこそ、崩れずにいられるのですよ」
ジャクリーヌはいまいちピンとこないようで、ポカンとした顔をしている。
「それでは実験をしてみましょう。ニコラちゃん師匠、酒樽10杯分の水を展望台からこの螺旋階段に流し込んでいただいてもいいですか?」
「うん! お任せあれ!」
勇者は展望台に駆け上がると、水の力を使い酒樽10杯分の海水を螺旋階段に流し込んだ。
ザザー、扉の前に膝辺りまで水が溜まった。
「んっ? まだ開きはしないが、少し軽くなったような気がするぞ!」
「それは扉の向こう側から押されている水圧に対して、こちらからも膝丈分の水圧が押し返しているためなので御座います」
リアの行った実験により、ジャクリーヌは少し賢くなったようだ。
「それではニコラちゃん師匠。次は30杯分お願いします」
「任されて!」
螺旋階段の上に向かってリアが叫ぶと勇者が答え、水を入れる作業を開始した。
ザザー、扉の前に胸辺りまで水が溜まった。背の低いイザベルは口当たりまで水がきてしまい、慌てて階段を登った。
「扉が開くと水位が上がると思われますので、皆様階段を少し上に上がっておきましょう」
扉の前に立つジャクリーヌ以外は、全員水面より上の部分まで移動した。展望台から戻ってきた勇者も、後ろからその様子を見守る。
「よし、扉を開くぞ!」
ジャクリーヌが扉を押すと、簡単に扉は開いた。すると、リアが言った通り扉の向こう側から水が流れ込み、水面が上がっていき、ジャクリーヌもすばやく階段を登る。
「皆様、これからが本番となります。樽とホースの設置と空気の送り込みを繰り返しながら、魔石の場所まで向かいましょう」
螺旋階段で待機するジャクリーヌに、ピストン上に手で上下に動かして空気を送り込む装置の操作と、引潮までの時間を考慮した残り時間を示す砂時計の確認を任せる。残りの全員は潜水部隊として樽とホースの設置を行い、設置後に樽をコンコンと叩きホースから伝わる振動音でジャクリーヌが空気を送り込むという手順で魔石探索が開始された。
「それにしても驚いたのう! クンがこんなにも泳ぎが上手いとはのう!」
「この世界でぼくだけじゃない? 水中を華麗に泳ぐ猫なんて!」
空気で一杯になった樽の中で、エッヘンと胸を張るクン。実際にクンの平泳ぎは見事であり、勇者との意思疎通も距離があってもできたため、非常に有用であった。
「ジャクリーヌよ、お主疲れとらんか?」
「なにを言っている、じじい! 日課の筋トレに比べたら、こんなものまだまだだぞ!」
開通した樽のホースからは、上にいるジャクリーヌと会話することができた。ジャクリーヌは樽1つあたり装置を500回ほど上下に往復させており、それを20回こなしていた。ちなみに、日課の筋トレというのは腕立て、腹筋、背筋、スクワットを1,000回ずつであった。
「あれっ? ホースがもう伸びないみたいだよ!」
最前線でホースを伸ばす勇者の声が、手前の樽で待つクンから発せられた。とりあえず、限界の位置に樽を設置しジャクリーヌが空気を送り込む。潜水部隊の4人と1匹が樽に頭を突っ込み、今後の作戦について話し合う。
「この聖堂、かなり大きいみたいね!」
「もうそろそろ大聖堂に出ても良い頃だと思うんじゃが」
「この先息継ぎポイントが作れませんので、安全性を考えますと探索は打ち切るべきかと思います」
現状を考えるとリアの意見が正しいと、シモンとイザベルが頷く。
「ねえ、その前に奥を見てきていい? さっきね、曲がり角の先に扉が見えたんだ!」
「もしかしたら、大聖堂の入口かもしれんのう!」
「見てきてもよろしいですが、ニコラちゃん師匠、無理をしてはいけませんよ」
勇者は頷くと、大きく息を吸って扉へと泳いでいった。
「扉の奥、広いみたいだよ!」
水の力を使って素早く泳ぐ勇者の前には木の扉があり、上部には鉄で作られた格子状の中窓がついていた。勇者の言葉は樽の中にいるクンによって、実況中継のように伝えられる。
「あっ! ここ大聖堂みたいだよ! 奥にパイプオルガンといいものがあるみたい! 一旦戻るね!」
クンの実況が終わると、勇者はすぐに戻ってきた。
「ニコラちゃん、なにか見つけたの?」
「うん! きっと魔石の入れられた宝箱だよ!」
「ニコラちゃん師匠、そこまでは無理をせずに行って戻ってこられる距離ですか?」
リアは、勇者に真剣な眼差しを向けて尋ねた。勇者のことを心から心配しているのだろう。
「大丈夫だよ! 位置がわかっているから、サッと行ってサッと戻ってくるだけだよ!」
「なにかあったら、すぐにクンを通して連絡するんじゃぞ!」
「それでは、お気をつけて」
勇者は手を額に当て敬礼のポーズをすると、大きく息を吸って大聖堂の奥へと泳いでいった。最初から水の力を使っており、すぐに角を曲がって見えなくなってしまった。
「ニコラちゃん師匠、本当に大丈夫でしょうか?」
「なあに、魔石を取ってすぐ戻ってくるじゃろう!」
リアはなにか悪いことが起こるような、不安を感じているようだった。
「やっぱり宝箱だったよ! 今から近づいて、開けてみるね!」
「ほら、あっという間に魔石の場所まで到着したみたいじゃぞ! だから心配いらんと言ったじゃろう?」
「そのようですね」
リアが安心して胸をなでおろす。
「あっ! 宝箱の中、魔石みたいだよ! ちょっと確認してみるね!」
勇者は探求の羅針盤を使い、5つの魔石であるかどうか確認しているようだ。
「うん! これであってるみたい! それじゃあ、魔石を持ってそっちに戻るね!」
「よし! ニコラちゃんが戻り次第撤収じゃ! 準備を始めるぞい!」
樽の中で待つメンバーが、撤収準備に取り掛かろうとしたそのとき……
「いけない! ボク閉じ込められちゃったみたい!」
「なんじゃと! どういう状況なんじゃ?」
樽の中が一気に緊張感に包まれる。その声はホースを通って、上にいるジャクリーヌにも届いていた。
「宝箱を開けた時に、鉄格子が落ちてきたみたい! どうしよう!」
勇者は水中で閉じ込められるという絶体絶命の自体に、パニックに陥ってしまったようだった。
お読みいただきありがとうございます!
続きが気になる、面白い!と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
このページの下にある、
【☆☆☆☆☆】をタップすれば、ポイント評価出来ます!
ぜひよろしくお願いします!




