第72話 リュクサンブール1
「おや? 可怪しいな。リュクサンブールの街並みが全然見えてこないぞ!」
「もしかしてあたしたち、間違った方向に進んでいるんじゃないの?」
「ニコラちゃん師匠。探求の羅針盤を確認していただけますか?」
「うん! わかった!」
勇者は、懐から探求の羅針盤を取り出した。
「ちゃんと西を向いてるよ!」
「進行方向は問題ないようじゃのう! 針も、少し震えておるようじゃぞ!」
シモンが勇者の肩越しから、探求の羅針盤を覗き込んでいる。
「ちょっと、街の様子を確認してみますね」
リアが、馬車を水上移動させる装置を弱め、ゴーグルに双眼鏡を装着する。
「どうだリア? なにか見えたか?」
「はい。水面から聖堂の屋根がポツポツと見えています」
「ということは、リュクサンブールの街は海に沈んでしまったという事ね」
「リュクサンブールの兵士も大変じゃのう! 前からは敵に責められ、後ろからは水に責められるとは!」
勇者たちは街への上陸をあきらめ、一旦近くにあった小高い丘の上へと移動した。
「どっこいしょっと……久々に地面に降りた気がするのう!」
「チュウソの穴から出るまでは、生きた心地がしなかったからな!」
「地面に足をつけて空を見上げる事が、こんなに幸せなだと感じるなんて思いもしなかったわ!」
長い緊張感から開放され、一時の安らぎを堪能する。
「ニコラちゃん師匠。申し訳ありませんが、この丘が馬車で下れる形状か潜って確認してきてもらえますか?」
「うん! 任せて!」
勇者は海に頭から飛び込み、丘の形状の確認に向かった。クンはその前に襟巻きから飛び出し、馬車の横で毛づくろいをしている。
「リア、なぜ丘を調べる必要があるんだ?」
「ジャクリーヌ様。このまま水が引いてしまった事をお考えください。おそらく、現在の水深は、街の様子から建物の3階ほどだと思われます。それが無くなってしまい、ここから降りる手段がない場合、私たちはどうなってしまうでしょうか?」
「なるほど! そういう事か!」
ジャクリーヌは手を顎に当て、頷きながらそう言った。
「ただいま! 戻ったよ!」
勇者は水の力を使い、勢いよく水面から飛び出し華麗に着地した。
パチパチパチ、その様子に拍手が送られた。それに顔を赤くした勇者が、頭をポリポリと掻いている。
「ニコラちゃん師匠、丘の様子はどうでしたか?」
「それがね、階段も馬車が通れるような通路もあって問題なかったよ!」
「それって整備されすぎなんじゃない?」
「もしかしたら、ここって特別な場所なんじゃないか?」
丘に上には大きな岩が1つあり、真ん中が大きく裂けるようになっていた。
「皆様、ここにルディさんと馬車を置いて、魔石を探し向おうと思うのですがいかがですか?」
「この裂け目にルディを入れて、馬車にロレンツォの布を被せて裂け目を隠すという事じゃな!」
「移動はどうするんだ? まさか、泳いでなんて事は言わないよな?」
ジャクリーヌは金づちではなかったが、泳ぎはあまり得意ではなかった。
「心配には及びません。すぐに小舟を作りますので」
勇者たちは馬車の倉庫から必要な量の木材を運び出し、リアが小舟づくりに取り掛かった。
「それと皆様、小舟を作っている間にこちらにお着替えくださいませ」
「なんだ? この紺色のモノは?」
「はい。鍛冶師の村に代々伝わる水着でございます。シモン様のもの以外は、胸元に名前が入れてありますので、自分のものを選んでお着替えください」
「なるほどのう。魔石の探索が水中になることを見越して、準備というわけじゃな!」
勇者たちは馬車に乗り込むと、男女に別れてリアに渡された水着に着替えた。
「リア、着替えたぞ! それにしてもこの水着、結構際どいな!」
この世界の水着は、袖付きで膝の上まで丈があるステテコのようなものしかなかったのだった。
「それは異世界から伝わったとされる、スク水と呼ばれる水着で御座います」
リアの説明によると、シモンの水着はショートパンツ型でオーソドックスな男子用のスク水、ジャクリーヌの水着は2代目の勇者から伝わったという女子用のスク水、イザベルの水着は5代目の勇者から伝わった女子用のスク水で、その2つを区別するため、旧スクと新スクと呼ばれているとのことだった。
「ニコラちゃん師匠の水着は、男の娘という事でしたので、旧スクと男子用のものを合わせたものに致しました。そして、私は旧スクなので御座います」
リアは着ていた服を脱ぎ捨てた。中に水着を着込んでいたようだ。
シモン以外の胸元には、何故か平仮名で名前が書かれている。
「リア、1つ疑問なんだが……ワタシが着ている旧スクには、何故下腹部にポケットのようなものがあるのだ?」
「そう、あたしも思った! 新スクには、そんなものついてないしねえ!」
「それは水抜きと呼ばれるもので、胸元から入った水を排出するためのものだとか、それがあることで男性を喜ばせるものだとか言い伝えてられております」
ジャクリーヌは不思議そうに水抜きの部分を広げて見ている。その様子を、シモンは鼻の下を伸ばしながら横目でチラリと盗み見ていた。
「それにしてもジャクリーヌ、凄い体つきしてるわねえ! 旧スクのお陰か、くびれボディが一段と際立っているようだわ!」
「そう! ボンキュッボン! ボンキュッボンなんじゃ!」
「女の私ですら、抱きつきたくなるような色気ですわ!」
「この! エロじじいとエロエルフとエロ娘めー!!」
ジャクリーヌの叫びが、水面に反射し遠くまで響き渡る。
「それでは皆様……と、ここはイザベル様の出番ですね!」
「リア、お主わかってきたようじゃのう!」
シモンとリアが拳をぶつけあい、イザベルが前に出る。
「それじゃあ! スク水で海に潜って、4つ目の魔石を手に入れるぞー! えいえいおー!!」
『えいえいおー!!』
勇者たちは、探求の羅針盤が指し示す方角へ、小舟に乗り込み向かっていった。
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