第69話 首都へ続く道3
「それでは皆様、リュクサンブール方面に向かいましょう」
「それがじゃな、リアよ。進むのは難しいようなんじゃよ」
シモンはリアに、リッツォから聞いた話を伝えた。
「戦闘が収まってから向うという方法もありますが……」
「あたしもそれを考えてんだけど、戦闘の規模からすると1ヶ月近くは続くと思うのよね……」
向うべき場所はわかっているのに、進むことができない。もどかしさばかりが募る。
「ねえ! リッツォさんが言ってた、チュウソの穴ってなあに?」
勇者が暗くなっていた雰囲気を突き破るように話しだした。
「それはのう、古代カダルトスで掘られたという、ここの北、デラクア山脈の手前から、リュクサンブールの海側まで繋がっておる洞穴なんじゃ」
「あれ? そうだったら、チュウソの穴を通ってリュクサンブールに行けばいいんじゃないの?」
勇者の言うことは、真っ当な意見であった。
「繋がっとる先が陸地ならばそうするんじゃが……実際は海底でのう、洞穴の半分は海水が入り込んでおって通ることができんのじゃよ」
「それじゃあ、騎士団の人たちはなにをしにそっちに行ったんだろう?」
「!? ニコラちゃん師匠! 今の話、どういう事ですか?」
勇者が、騎士団の部隊の一部が、北に向かった話をリアに伝えた。
「それは確実にチュウソの穴が関わっていますね! しかし、どうやって……」
いつの間にか御者の席から降りていたリアは、ブツブツと呟きながら辺りを歩き回り出した。
「そんな考え事など無理だ! ワタシは空でも眺めているとするか」
ジャクリーヌは地面に寝っ転がり、空を見ている。
「おお! よく見てみると、ニコラちゃんが言ってた通り、月がいつもよりでかい気がするなあ!」
「ジャクリーヌよ、お主、こんな時になにを言っておるんじゃ!」
「!? ジャクリーヌ様! 今なんと言われましたか?」
歩き回っていたリアが、ジャクリーヌの言葉に突然反応した。
「月がいつもよりでかい気がするなあ、と言ったんだが、それがどうかしたのか?」
「そうです! 月が答えです!」
リアはそう言うと、ゴーグルに細長いレンズを取り付け、月を観察し始めた。
「リアよ、月が答えとはどういうことなんじゃ?」
「古代カダルトスについて書かれた書物に、ピニツォット文字でこういう1文があったので御座います……『チュウソの穴は、20年に1度だけ全てが通じる』と」
リアはゴーグルをはずして、人差し指を立てながらそう言った。月の解析が完了したのだろう。
「20年に1度だけ……大きな月……騎士団の行方……!? スペルトゥーナ!」
「さすがシモン様。そう、今日がまさに、20年に1度のスペルトゥーナなので御座います」
御者の席に戻りながら、リアは話した。
「スペルトゥーナってなに?」
「ニコラちゃん師匠、今は時間がありません。チュウソの穴に向かいながら話をするといたしましょう」
勇者たちは馬車に乗り込み、北のデラクア山脈の手前にあるチュウソの穴に向かい出した。手綱を握るリアは、少し焦っているように見えた。
馬車の進む方角をチュウソの穴に合わせると、リアは手綱をクンに任せ話を始めた。
「スペルトゥーナとは20年に1度だけ、この星に月が最も近づく現象の事なので御座います。その際は、干満差が非常に大きくなり、その時こそ『チュウソの穴は、20年に1度だけ全てが通じる』の一文の通りとなり、通り抜けることが可能になるのだろうと思われます」
リアは推測として話しているが、その様子には自信のようなものが伺われた。
「チュウソの穴が開通する時間は、おそらく本日の正午からの1刻前後。急がねばなりません」
空を見上げると、太陽は真上に来る寸前、つまり、正午を迎える直前であった。リアが焦っていた理由は、この事であったようだ。ちなみに、1刻とは約2時間の事である。
「じゃが、ルディの足が速いとはいえ、そんな時間でチュウソの穴を抜けることができるのかのう?」
「それはおそらく大丈夫です。ここまでの道のりが下りでありましたし、穴の抜ける先は普段は海底の場所。ずっと下り道が続くはずで御座います」
リアはそう言いながら、馬車の屋根の上へと登った。
「リア、どうしたの? 馬車の上になんか登って?」
「はい。時間的に、かなり際どいものとなると思われますので、そのための準備をしておきます。皆様も、いつでも動けるような体制をとっておいてくださいませ」
カンカンカン、馬車の上から作業をする音が聞こえてくる。リアはなにかの装置でも作っているのだろうか?
「リア、穴が見えてきたよ!」
手綱を握るクンが叫ぶ。その声を聞き前方を見ると、馬車2台が並んで入れるくらいの洞穴があった。チュウソの穴が近づき、緊張感も高まっていく。
「それじゃあ、入るよ!」
チュウソの穴に入ると、空気がひんやり冷たいものに変わった。
「馬車の中でもヒヤッとするわね。リアもクンも寒くない?」
「私は作業中ですから、丁度いいくらいです。クンさんはどうですか?」
「ぼくは人間と違って温かい毛があるんだよ! こんなのへっちゃらさ!」
しばらく、緩やかな下り道を進んでいると、地面が湿り気を帯びてきた。
「地面にかなりの数の足跡があるわね」
「という事は、騎士団がここを通っていったのじゃな!」
「よし! ここからリュクサンブールに抜けられるというのは、間違いないようだな!」
馬車の中の、シモン、イザベル、ジャクリーヌ、勇者の4人は互いに拳を突き合わせた。
「しかし、こんな所まで水が上がってくるのですね」
「そうじゃのう。海の引き幅が大きいということは、それだけ満ち幅も大きいわけじゃからのう」
「しかも下り坂で……あたしたちは先に進むことはできるけど、後ろには戻ることができないというわけね……」
イザベルの一言で、緊張感が一気に高まった。
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