第67話 首都へ続く道1
「あれっ? なにもおこらないよ?」
「おかしいですね。一体どういう事なのでしょうか?」
勇者たちは、元名もなき村リニシイージャを出てしばらく進んだ後、石畳の道から少しそれた荒野で、手に入れた3つ目の魔石の属性を確認していた。
剣を振ったり、走り回ったり、ジャンプしたりと様々なことを勇者は試していた。
「もしやニコラちゃん、風と土の属性と同時に、新たな属性の力まで抑え込んでしまっているのではないか?」
「ううん、それは大丈夫だよ! ほら!」
勇者は剣を振り、風の力を起こした。仲間たちと日課として行っている、魔石の力をコントロールするための特訓により、鎧に定着させた風と土の力を勇者は自在に扱えるようになっていた。
「それでは、どういう事なのかのう?」
「もしかしたら、この場に存在しないのものが魔石の属性なのかもしれません」
「この辺りに無いものというと……例えば、水とか?」
勇者たちのいる荒野は、カラッカラに乾燥しており、見渡す限り水場どころか水たまりの1つも無かった。
「なるほどのう。これはイザベルの勘、当たっとるかもしれんぞ……」
シモンはそう言うと、すぐさま杖を構え念じ始めた。
「いくぞい、『ウォーターボール!』」
バシャッ、シモンは魔法で作り出した水の玉を、勇者の前に落として水たまりにした。
「ニコラちゃんよ! 水たまりに剣をかざして、力を開放するのじゃ!」
「うん! わかった!」
勇者は、剣先を水たまりに向け深く集中した。
「やはり、イザベルの勘が当たったようじゃのう! 剣先に水が集まってゆくぞ!」
水たまりとなっていたものから、いくつもの小さな水の玉が勇者の持つ剣先に集まっていき、大きな水の玉が出来上がった。
「わあー! これ面白いね!」
勇者は集まった水の玉を、鳥やうさぎに猫などの動物の形にして遊んでいる。特訓により、魔石の力を操るコツも掴んでおり、あっという間に水の力を自分のものにしてしまったようだ。
「今回手に入れた魔石の属性は、水で間違いないようじゃのう! それにしてもニコラちゃん、器用なものじゃな!」
「それも、水の力が付与されるというよりは、水そのものを操る力のようですね! ここまで自在に操る事ができるのは、毎日の特訓の賜なのかもしれませんね」
「おじいちゃんの魔法と合わせて、色んな事ができそうじゃない?」
「それは、戦闘以外にもいろんな場所で役立ちそうだな!」
属性確認での安全性を考え、距離を取っていた馬車のある石畳の道の近くまで戻る。
すると、リアが魔法のカバンから畳まれた大きな布を取り出し、バサバサと広げだした。
「リアよ、なんじゃその布は?」
「はい。メーリングの町で厩舎のおばさんから頂いたもので御座います」
「ああ、ロレンツォが馬車のサイズを計って持ってきたという布だな!」
「リア! ボクも手伝うよ!」
勇者がリアの持つ布の反対の端を持つ。そして、布が開かれていき、どんどん広くなっていく。
「皆様、確認したいことが御座いますので、しばらくあちらの山をご覧になっていていただけますか?」
リアは馬車の反対側にある、デラクア山脈の方を指差した。よくわからないが、とりあえずそちらを向く、シモン、イザベル、ジャクリーヌの3人。
その間後ろからは、バッサバッサという音が聞こえていた。
「どうぞ、こちらを御覧ください!」
しばらくするとリアの声が聞こえ、3人が後ろを振り向く。
「どういう事だ? リアもニコラちゃんもいないぞ!」
「ちょっと待って! 馬車まで無くなっているわ!」
「一体どうなっておるんじゃ?」
振り向いた先には、馬のルディがいるだけで、他にはなにもいなかった。
「んっ? ちょっとおかしくないか? こんなところに岩なんかあったか?」
「よく見ると、ルディの手綱が岩から伸びているわ!」
「おかしな点が多いのう……もしかすると……」
シモンは怪しげな岩に近づき、手で触れてみた。
「やはりこういう事だったのじゃのう!」
「なんだ? どうなっているんだ?」
シモンは岩の端を指で摘み、軽々と持ち上げた。すると、謎の隙間が現れ、そこから馬車の姿が見えた。
「なるほど! そういう事だったのね!」
イザベルも岩に近づき、シモンと反対側の岩の端を摘んだ。
『せーの!』
バサッ、シモンとイザベルは掛け声とともに、摘んでいたものを勢いよく上に持ち上げた。
「見つかっちゃった!」
「もうバレちゃいましたか」
突然、岩だった場所に馬車が現れ、扉から勇者とリアが降りてきた。
「どういう事なんだ? ワタシにはサッパリわからないぞ!」
ジャクリーヌただ1人、状況を理解できていないようだ。
「ジャクリーヌ様、ロレンツォ様より託されたこの布は、馬車を周囲のものに溶け込ませることができる、魔法の布だったので御座います」
「つまり、森の中で使えば木になったりするのか?」
「おそらく、そうなるかと……しかし、どのような仕組みなのでしょうか? 私にもわかりません」
リアは布の裏を見たり、手を間に入れたりして、仕組みを探ろうとしているようだ。
「こんなものを作れるのは、ビル爺さんぐらいしかおらんじゃろう!」
「やはりそうで御座いましょうね。ビル爺さん様、旅の道中でお会いできますように」
リアは両膝を付き、両手を組みながら天に祈りを捧げている。
「とりあえず、早急に確認すべき事は全て終わらせたわね!」
「そうじゃの。これから先、敵も味方も関係ない戦場に突入する可能性が高いからのう!」
「よし! それでは再び、リュクサンブール方面へ進むぞ!」
勇者たちは馬車に乗り込み、リュクサンブールのある東へと向かっていった。
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