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第66話 名もなき村6

「あの太鼓を叩いているのって、そこの畑で(くわ)を振っていた人じゃない?」

「ああ、ジャクリーヌに全く気づかなかったヤツじゃな!」


 ジャクリーヌはその時のことを思い出してしまったようで、地面にのの字を書いている。どうも、いじけてしまったようだ。


「それはご迷惑をおかけしました。彼は副団長のファルコです」

「さっきから気になっていたのだが、団長だの副団長だのいうのは、一体何なんだ?」

「それはですね……」

「お肉料理できたよー!」


 サラがなにかを言いかけたとき、勇者たちが料理を大きなおぼんに載せてやってきた。クンが御神体(ごしんたい)である事を()まえて、勇者の頭の上に乗ったクンが話しをしている。

 料理が舞台の上に並べられると、演奏者も(おど)っていた人たちも手を止め、一気に料理へと(むら)がっていった。


「サラまで行ってしまったのう」

「たぶん、人生で初めて見る肉料理なんでしょう? しかも、ニコラちゃんたちが作った美味しい料理の(にお)いを()いでしまったら、ああなってしまうのも仕方がないわ!」

「じじい! こうなったら、ワタシたちも秘蔵の酒を出すぞ!」

「そうじゃの! 祝の日に大勢で飲んでこその旨い酒じゃしな!」


 (うたげ)は盛り上がり、料理づくりで疲れ果てた勇者とリアが眠りについた後も、遅くまで続いた。大いに食べ、大いに飲み、大いに笑った。その様子はまるで、扉が開く前の人々の様子が(まぼろし)だったのではないかと、錯覚(さっかく)してしまうほどのものであった。



 そして、夜が明けた。


「やはり、いい酒を呑むと目覚めがいいなあ」

(わたくし)、ジャクリーヌ様の体質が(いま)だに理解できません」

「それよりワシら、何時まで呑んでおったのじゃろうか?」

「あたし、全く記憶(きおく)が無いわ。相当遅くまで呑んでいたのは、間違いないようだけど」


 馬車の外に出ると、(うたげ)会場は綺麗(きれい)に片付いており、畑仕事をしたり遊び回る子供たちがいた。


「あら? サラさんやファルコさんたちがいないようだけど、どうしたのかしら?」

「たしかに変だな。この辺りには、女子供と老人だけしかいないようだな」


 キョロキョロとあたりを見回していると、1人の老婆が近づいてきた。


「昨晩は大変よい夜となりました。お(かげ)様でこの地に、大変素晴らしい名前をご頂戴(ちょうだい)し、本日から名乗らせて頂くことになりました」

「それで、その名前はなんじゃったかのう?」

「はい。この地の名は、リニシイージャで御座います」


 老婆は頭を深く下げると、旅の無事を祈る言葉を残して去っていった。


「おじいちゃん、今の人知り合い?」

「いや、全く知らん」

「じじい、適当に合わせていたのだな。それより、リニシイージャ、なかなか良い名前だな! 誰が名付けたんだ?」


 3人は昨晩の事を思い出そうとするが、完全にスッポリと抜けており、なにも頭に浮かんでこないようであった。


「先程のお祖母(ばあ)様のお話から(さっ)するに、皆様で考えられたのではないかと(わたくし)は思います」

「あっ! もしかして! ボクわかったかも!」


 勇者は人差し指を立てながらそう言った。


「ニコラちゃん、誰がどうやって名付けたとわかったんじゃ?」

「リアが言ったみたいに、シモン、イザベル、ジャクリーヌで考えたんだと思うよ!」


 勇者はそう言いながら、自分を含めた5人を手を取って一列に並ばせた。前から順に、リア、勇者、シモン、イザベル、ジャクリーヌと並んでいる。


「この列が、名前とどう関係するんじゃ?」

「クン! 列の前から順番に名前を一文字ずつ言ってみて!」


 クンが勇者の(えり)巻きから飛び出し、列の前に進む。そして……


「リ・ニ・シ・イ・ジャ……リニシイージャ!」


 そう言ったクンの全身の毛が、ゾワッと毛羽立(けばだ)った。自分で言って、驚いているようだ。


「なんとワシらから一文字ずつ取っておったのか!」

「名付けたヤツのセンスの良さが光るな!」

「ジャクリーヌ、自分で自分を()めないの! でもたしかに、我ながらいい名前ね!」

「それでは、後々は地図にリニシイージャと載るわけで御座いますね! (わたくし)(うれ)しいようで小っ恥ずかしいですわ!」


 そう言ってぽっと(ほお)を染めるリア。


「残念じゃが、地図に載ることは無かろうて。この地は、存在せぬ事になっておるのじゃからのう」


 シモンはそう言ったが、こののちに、勇者たちが遭遇(そうぐう)する出来事により、リニシイージャの名はもっと大きな意味を持つ言葉になるのだが、それはまだ誰も知らない。


「名前の件は残念ですが、次に進むべき道を確認致しましょう。ニコラちゃん師匠、お願いします」

「うん! わかった!」


 勇者は(ふところ)から探求(たんきゅう)羅針盤(らしんばん)を取り出した。

 昨日手に入れた3つ目の魔石は、昨晩肉料理を作っている間に(よろい)にはめ込んであり、すでに定着(ていちゃく)済みなのであった。


「東だよ! 東を指しているよ!」

「となると、4つ目の魔石の場所は、首都のリュクサンブールである可能性が高いな!」

「魔石がその手前にあってくれればよいのじゃが……首都で(あらそ)い事が起こっとらんことを願うしかないのう」

「それはないよ!」


 近くで遊んでいた、子供が一人駆け寄ってきた。


「どういうことじゃ? 少年よ?」

「朝早くにね、サラお姉ちゃんが騎士団を連れて、リュクサンブールに行っちゃったんだよ!」

「やはり、そうじゃったか……少年、教えてくれて助かったわい」


 シモンが頭を()でると、少年は遊びに戻っていった。


「サラが団長と名乗ったのも、ファルコを副団長と呼んだのも騎士団の事だったんじゃ」

「魔石があった部屋にあった武器と(よろい)。あれを身に付けて首都に向かわれたのですね」

「どちらにしても、ワタシたちはリュクサンブールに向うしかないんだ!」


 勇者たちは馬車に乗り込み、首都リュクサンブールのある東へと進み始めた。

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