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第64話 名もなき村4

「これは、もしかして!」


 リアはゴーグルを装着(そうちゃく)し、丸いレンズ部分をカチカチと回転させた。


「なんじゃリア? なにかわかりそうなんかのう?」

「扉の(ふち)模様(もよう)が怪しいと思って確認してみましたら、ピニツォット文字と呼ばれる古代文字のようなのです!」


 リアは鼻息を荒くしながら、レンズを回し続けている。


「そのゴーグルで、ピニなんとかという文字を解読できるのか?」

「いいえ、文字自体は(わたくし)が覚えているのですが、文字部分の破損(はそん)がかなり激しいので、陰影(いんえい)を強調させている所なので御座います」


 リアの鼻息は、レンズを回す(ごと)にその勢いを増している。


「おじいちゃんは、ピニツォット文字って知ってる?」

「たしか、5,000年ほど前にこの地を支配していた、古代カダルトスで使われておった文字じゃな」

「その通りです、さすがシモン様。しかも、カダーロ教は古代カダルトスで始まったものなのです」


 その記述(きじゅつ)がある書物は世界に1冊しか無く、鍛冶師の村の書庫にしか存在しないものであった。


「リアよ。この旅が終わったら、鍛冶師の村の書庫へ連れて行ってくれんかのう? ワシの師匠も一緒に」

「ええ! そのためにも、扉の(おく)の魔石を手に入れなければなりませんね」


 シモンは(ふところ)から虫眼鏡(むしめがね)を取り出し、リアと一緒に扉の(ふち)の文字を調べだした。


「ほとんどの文字が欠けておって、部分的にしかわからんようじゃのう」

「一応わかったのは『……機能……信仰(しんこう)……心……』で御座いますね」

「機能というと、リアが聖堂の地下で見つけた魔法のランプが関係ありそうね」

信仰(しんこう)ならば、話しかけてきた村の女の言葉が引っかかってくるな」


 扉に(きざ)まれた読めない部分の文章量も()まえて、全員であーだこーだと意見を出しながら考えてみる。


「地下の魔法のランプや、この封印(ふういん)された扉は、村人の信仰(しんこう)心によって機能する。そう考えるのが妥当(だとう)のようじゃのう!」

「しかし、対象となる神自体が封印(ふういん)されているのです。どうやって信仰(しんこう)心を取り戻す事ができるのでしょうか?」


 この世界では邪教(じゃきょう)とされたものの御神体(ごしんたい)に、上級魔法の遥か上位にある神級(しんきゅう)魔法が行使(こうし)され、封印(ふういん)(ほどこ)されていた。その威力は絶大であり、その御神体(ごしんたい)(あが)めていた者たちの記憶(きおく)から、完全にその神の存在を消し去るというものであったのだ。


「ここの魔石は後回しにして、次の魔石から探すのはどうだ?」

「なにを言っておる、ジャクリーヌ! ここの魔石を見つけ出さねば、次の魔石の位置もわからんのじゃぞ!」

「だいたい、5つの魔石を揃えないと魔王を倒すことはできないのよ!」


 旅を続けるためには、封印(ふういん)された扉の(おく)の魔石を手に入れなければならない。しかし、その方法が全く見当たらない。そう思い、途方(とほう)に暮れていると……


「ねえ! ボクの知ってるラノベにね、こことそっくりなお話があるんだ!」

「ニコラちゃん、ラノベとはなんじゃ?」

「それより、そんな事を言っている場合ではないのだぞ!」


 突然勇者が訳のわからないことを言い出し、困惑(こんわく)する。


「さっきあった舞台でね、それをやってみたいんだ!」

「だけど、そんな事をしたって魔石が手に入らなければ、意味はないのよ!」

(わたくし)は構わないと思います。どうせ、扉の封印(ふういん)の解き方もわからないのですから」

「まあ、そうじゃの。息抜きに、そのラノベとかいうヤツの話をやってみるかのう!」


 吹っ切れた勇者たちは、その話で演劇をすることにした。いざ、劇の準備を初めて見ると、さっきまで反対していたイザベルやジャクリーヌも乗り気になり、台本を作りしっかりとした演劇を行う事となったのだった。


 配役は、主人公の男をジャクリーヌ、お供の猫をクン、村人の老人をシモン、ナレーションをイザベル、監督/脚本(きゃくほん)を勇者、照明係にリアという事になった。



(ナレーション)

『そこは遥か昔、聖地であった場所。今は荒れ果て、聖地を守っていた者たちの子孫が、隠れるようにして暮らしていた。そこに、1人の旅人が(おとず)れる』


(主人公)

「なんだこの村は? 人々の目には光がなく、生気(せいき)が感じられない」

(お供の猫)

「この村は、昔聖地だった場所さ。国が(ほろ)び、(あが)めていた神も消え去ってしまって、生きる気力をなくしたまま暮らしているんだって」


 その旅人の後ろには、1匹のしゃべる黒猫が歩いていた。


(主人公)

「それじゃあ、俺の大嘘(おおうそ)でそいつをひっくり返してやるか!」

(お供の猫)

「キピロ、そんな事できるの?」


(ナレーション)

『その男はキピロという名で、『嘘つきピエロ』という通り名で知られる詐欺師(さぎし)であった。本当の名は誰も知らず、黒猫によりそう呼ばれていた』


(キピロ)

「よし、今回の獲物(えもの)はあの(じい)さんにするか!」


 壁に寄りかかって座る目の(うつ)ろな年寄の元へ、ボロボロのマントを羽織(はお)り、(つえ)を手に持ち、長い顎髭(あごひげ)の付け(ひげ)をしたキピロが近づいていく。


(老人)

「あの日……神が消えた……再び現れ……生きる力を……」


 その年寄はなにもない場所を見つめ、繰り返しボソボソと話していた。


(キピロ)

「神などいない。正確には神と呼ばせているものたちだ!」


 キピロは(つえ)を振りかざし片手を広げながら、わざとらしくそう言うと、年寄りは言葉に反応し、視線を向けた。


(キピロ)

「はるか昔、この地が生まれた。そして、生物が生まれ育っていった。生物は進化を繰り返し、人が誕生した。それを空の上から見ているものがいた」


 年寄りは両手を組み両(ひざ)をついたまま、キピロの言葉に耳を(かたむ)けている。


(キピロ)

「人は進化していった。しかし、それはとてもゆっくりとしたもので、その者は面白くなかった。そこで人に新たな力を与えることにした。それにより、人は大きく進化し、言葉を話し、ものを作り、文明を成した。では、人に与えた力とはなんだったのか? それは、幸せを求める欲求だ。同時に、自らを神と名乗り、(あが)めさせることにした」

(老人)

「それでは、我々が求めていた、神とは? 幸せとは?」


 年寄りはキピロにすがるようにして、そう言った。


(キピロ)

「すべて(いつわ)りだ。むしろ今のお前は、神と名乗るものたちの呪縛(じゅばく)から解かれた選ばれしものといえるだろう。この教えを広め、みなを神の呪縛(じゅばく)から解き放て、選ばれしものよ!」


 キピロ役のジャクリーヌが最後のセリフを言った、そのとき……


「それでは我々は、一体なにに祈りを(ささ)げよいのでしょうか?」


 馬車の前で言葉を告げて去っていった女が、突然物(かげ)から現れ、ジャクリーヌに(たず)ねた。しかし、ジャクリーヌは咄嗟(とっさ)の事で気が動転しているようで、うまく言葉が出ない。すると……


「我ら猫を(あが)めるが良い。さすれば、幸せが(おとず)れるであろう」


 クンが女の前に進み、そう言った。女はクンに深く頭を下げると、元いた方へ走り去ってしまった。


「クンよ、上手いアドリブじゃったのう!」

「違うよ。本物の物語では、黒猫が今のセリフを言うんだ」


 クンは胸を張り、首輪を黄色に輝かせながらそう言った。


「いつにも増して、首輪が輝いているように見えるな」

「ジャクリーヌ様、違います。上をご覧になってください」


 リアが指差す方向を見ると、先程まであることさえ気づかなかった魔法のランプが、あかあかと光っていた。

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