第63話 名もなき村3
「たしか、忍びゴブリン隊は緑の玉だったな!」
「だけど、呼び出せるのは1刻だけだったわよね? そんな時間で魔石を探し出せるのかしら? もう少し、使うかどうか考えたほうが良くない?」
召喚の玉で呼び出せるのは、色に対応した部隊を1回だけ、しかも、1刻という制限時間があったのだった。ちなみに、1刻とは約2時間のことである。
「きっと大丈夫だよ! だってこの村、ゴブリン部族の森と比べたらそんなに広くないよ!」
「そうじゃのう! だいたい出し渋っておったのでは、使用機会を逃してしまうかもしれんぞ」
名もなき村の大きさは、ゴブリン部族の森の4分の1程度であった。しかし、階層を踏まえた総面積を考えてみると、同等もしくはそれ以上と考えられた。
「それじゃ、行くよ! 忍びゴブリン隊! 君たちに決めた!」
勇者は、そう言いながら緑の召喚の玉を放り投げた。玉が地面にぶつかるとまばゆい光を放ち、光の中に4体の影が現れた。
「主君、拙者たちになんなりとご命令くだされ」
濃藍の頭巾をかぶり、アサシンのような格好をしたゴブリン3体と、色あせた緑のようなターバンを巻いた、盗賊のような格好をしたゴブリン1体が勇者の前に跪いていた。
どうも、盗賊のようなゴブリンがリーダーのようで、勇者に向かった話しかけた。
「この付近にある、5つの魔石の1つを探してきてもらいたいんだ!」
「なるほど。それだったらすでに探知している。拙者たちに任せられよ。主君らは、しばしお待ちを……」
リーダーがそう話すと、忍びゴブリン隊は物凄いスピードで、聖堂の中へに入っていった。
「相変わらず、物凄い早さじゃのう!」
「きっと魔石を見つけてくれそうね!」
「ねえ、みんな! 喉乾いてない? しょっぱいものを食べた後だし」
勇者はそう言いながら、グラスに入った葡萄ジュースを配りだした。その後ろには、金属で作られた棒状のものを持ったリアがいた。
「ニコラちゃん、気が利くな! 早速頂くとしよう!」
「ジャクリーヌ様、お持ちくださいませ。これを使って完成なので御座います」
リアは持っていた金属の棒を、ジャクリーヌの持つグラスの中に入れ、スイッチらしきボタンを押した。
「なんだこれは? 葡萄ジュースから小さな泡が沢山出てくるぞ! なんて怪しい液体なんだ!」
「これは、炭酸を作り出す装置なのです。ニコラちゃん師匠の世界にあるお飲み物だそうで、シュワッとした清涼感とチクッとする刺激を味わうことができるので御座います」
「ボクの好きな飲物なんだ! まさか、こんな簡単に作れるとはビックリしたけど、飲んでみて! 美味しいよ!」
勇者に勧められ、謎の怪しい液体を口に流し込むジャクリーヌ。
「なんだ、この刺激は? ……でも、不思議だな……最初は違和感しかなかったが、飲む毎に癖になってしまいそうだぞ!」
「どれ、ワシも……おー、これは凄いのう! 飲んだ量以上に満足感が感じられるわい!」
「ねえ、これって、お酒でやったら物凄い事になりそうだと思わない?」
「ボクに世界には、そういうお酒沢山有るよ! お父さんは毎晩、美味しそうに呑んでいたよ!」
勇者の話を聞き、シモン、イザベル、ジャクリーヌのお酒大好きの3人は、心躍らせているようだ。今夜の晩酌で、試すつもりなのだろう。
勇者たちは、近くの石階段に腰を降ろして、炭酸葡萄ジュースを飲みながら忍びゴブリン隊の帰りを待つことにした。
「あら? 忍びゴブリン隊戻ってきたみたいね」
「なにも持っておらんようじゃぞ! 魔石が見つからんかったのかのう?」
忍びゴブリン隊が、召喚者である勇者の前に並んで跪いた。
「主君、魔石のある場所を発見した」
「何故、魔石は持ってこなかったの?」
「拙者たちに着いてきてくだされ。見て頂く方が速いでしょう」
先導する忍びゴブリン隊の後を追って、聖堂の中を進む勇者たち。最後尾では、リアが印を付けながら着いてきている。
「なんじゃ? この広い空間は?」
「演劇場かなにかではないか? 舞台も客席もあるようだしな!」
進む途中に、演劇場や食堂のような場所があった。建物全てが、聖堂というわけではなさそうだ。
「これは隠し扉か? よくこんなものを見つけたものだな!」
「ゴブリンさんたち凄いね!」
その隠し扉は壁の模様に紛れており、見た目では全くわからないものであった。その後も、隠しボタンで開く扉や、罠が仕掛けられた通路を進み、目的地である魔石のある場所にたどり着いた。
「主君、この扉の奥に魔石があるようで」
その扉は丸い形をした大きなもので、中心には目の様なものがあり、それを囲むように蛇のような不思議な模様が6つ並んでいた。
「拙者たちは目的を達成しましたので、これにて」
「ゴブリンさんたち、ちょっと待って!」
元も場所に戻ろうとするゴブリンたちを、勇者は止め、リアからなにかを受け取った。
「これはお礼だよ! 帰ってからゆっくり飲んでね!」
勇者は葡萄ジュースの入った一升瓶と、炭酸を作り出す金属の棒を忍びゴブリン隊のリーダーに渡した。隣のゴブリンに、金属の棒の使い方をリアが説明している。
「ありがたく頂きます。それでは、ご武運を!」
忍びゴブリン隊は、光とともに消え去った。
「ニコラちゃん、ちょっと待つのじゃ! あの棒を渡してしまったんじゃ、ワシらの今晩のお楽しみ、炭酸葡萄酒ができんではないか!」
「ぬおー! なんてことだ!」
「きー! なんてことなの!」
頭を抱えてもがき苦しむ、酒好きの3人。
「大丈夫で御座いますよ。炭酸の装置はまだ2本ありますし、設計図も私の頭の中にありますからすぐに作れますよ」
リアの言葉を聞き、笑顔が戻る酒好きの3人。現金なものだ。
ちなみに、忍びゴブリン隊の戻ったゴブリン部隊の森では、炭酸がゴブリンたちに大ウケし、空前の炭酸ブームとなるのであった。
「それよりどうするんじゃ、この扉?」
「魔力に似た、なにかの力で封印されているようね!」
「魔石を手に入れん事には先に進めんが、扉を開けるヒントすらないのではどうしようもないぞ!」
打つ手なしと途方に暮れていると、リアが1人扉を詳しく観察していた。
お読みいただきありがとうございます!
続きが気になる、面白い!と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
このページの下にある、
【☆☆☆☆☆】をタップすれば、ポイント評価出来ます!
ぜひよろしくお願いします!




